レアルより、バルサより。スペインに行ったらラージョを見よう

レアルより、バルサより。スペインに行ったらラージョを見よう WATCH

レアルより、バルサより。スペインに行ったらラージョを見よう

スポーティ

写真はクラブ公式instagramより

「もしマドリッドに行くならラージョの試合を観た方が良いですよ」

「今度スペインに旅行に行くから、スペインリーグの試合のチケットの買い方を教えてほしい」

スペイン留学の経験がある筆者は、たまに友人や知人からこういった連絡を受ける。

「どのクラブの試合ですか?」と聞けば、大抵はレアル・マドリーかバルセロナだ。もちろん、どこの試合であれ、自分が知っている情報を一通りに伝えるのだが、毎回最後にこう付け加えるようにしている。

「もしマドリッドに行くならラージョ(Rayo Vallecano de Madrid)の試合を観た方が良いですよ」

ゴール裏に壁、周りはアパートに囲まれたホームスタジアム

収容人数は14,505人。スタンドの座席は控えめに言って古くて汚い。片方のゴール裏に観客席はなく、変わりに広告用の壁がそびえ立ち、通常のサッカースタジアムではメインスタンド中央にあるピッチ入場用のトンネルは、もう一方のゴール裏に設置されている。ピッチサイズも一般的なサイズより縦にも横に狭く、スタジアム近辺にはアパートが立ち並んでいる。

そこは「エスタディオ・デ・バジェカス」。マドリッドの郊外、バジェカス地区を本拠地とするスペイン1部リーグのクラブ、ラージョ・バジェカーノ(以下ラージョ)のホームスタジアムだ。

エスタディオ・デ・バジェカスは住宅街の中心に建てられている(クラブ公式サイトより)

エスタディオ・デ・バジェカスは住宅街の中心に建てられている(クラブ公式サイトより)

ラージョは1924年に創設された、91年もの歴史を誇るクラブだ。とはいえタイトルとは無縁であり、ここ4シーズンは連続で1部リーグに在籍しているものの、クラブ史の大部分では2部リーグや3部リーグを行き来している、典型的なエレベータークラブだ。

資金力も非常に乏しく、バルセロナのネイマール1人分の年棒と同額程度の予算でトップチームの運営を何とかやり繰りしている。ホームタウンは同じでもマドリッドでもレアル・マドリーやアトレティコ・マドリーのようビッグクラブとは対照的な存在と言えるだろう。

下町気質の熱狂的サポーター

とはいえ、ラージョにはレアル・マドリーのようなビッグクラブとはまた別の大きな魅力がある。それは“Rayistas(ラジスタス)”。エスタディオ・デ・バジェカスのスタンドを埋めるサポーターたちだ。



勝利した試合後に歓喜のチャントを歌い上げるラージョサポーターたち

バジェカス地区はマドリッドの南部に位置する労働者階級の人々のベッドタウン。地元の人々の雰囲気も良く言えば下町気質だが、悪く言えば柄が悪い。そんな町なので、治安も良いとは言えない(海外旅行の際の最低限の注意を払っておけば危険な目に遭うことはほぼないので、その点はご安心を)。

しかし、バジェカスの人々の生来の荒々しさは、エスタディオ・デ・バジェカスにスペイン国内では他に類を見ないような独特の雰囲気をもたらす動力源として機能している。

ラージョサポーターはとにかく熱い。ラージョのホームゲームの集客は決して多くはないのだが、それでもゴール裏に陣取るウルトラス(過激派サポーター)を中心としたチャントやホームチームのゴール時にスタジアム全体に轟く歓喜の爆発は第三者の立場で観戦していても心震わせるものだ。



名門ビルバオを撃破した直後、サポーターのチャントを満足そうに眺めるパコ・ヘメス監督

スペインサッカーのコアな部分を持ち続ける

試合前には盛大な紙吹雪、純度の高い地元ファンによる熱狂的な応援、ゴールや勝利の笛が鳴った時の歓喜。エスタディオ・デ・バジェカスは、今やスペインサッカー界からなくなりつつあるものを体感することができる数少ない場所だ。

何よりラジスタたち1人ひとりのプレーへの反応がとにかく見ていて本当に面白い。ラージョが良いプレーをすれば全力で称えて選手たちを鼓舞する一方で、相手チームのファウルや不利な判定があれば、相手選手や審判に文章化が不可能なほどの罵詈雑言とともに強烈なブーイングを浴びせかける。例え試合内容が凡庸であっても、自分の周囲にいるサポーターの一挙一動を観察しているだけでも90分間楽しめるだろう。

ゴール裏のトンネルから入場する選手たちを迎えるラージョサポーター(クラブ公式twitterより)

ゴール裏のトンネルから入場する選手たちを迎えるラージョサポーター(クラブ公式twitterより)

近年、レアル・マドリーやバルセロナのようなビッグクラブのホームゲームは観光目当ての観客が増加している。それはもちろん良いことだが、変化によって失われていってしまうことがあるのもまた事実である。

サンチャゴ・ベルナベウやカンプ・ノウでスター軍団を見ることはもちろん楽しい。が、もしあなたサッカーが好きで、スペインサッカーのコアな部分に興味があるのなら、是非ともエスタディオ・デ・バジェカスを訪れてみてほしい。