ロンドン・スタジアムで考えた、スタジアム転用のあり方とは

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ロンドン・スタジアムで考えた、スタジアム転用のあり方とは

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サッカーといえば小さくても専用スタジアムが当たり前のイングランド。そんな中、2012年ロンドンオリンピックでメイン会場として利用され、陸上トラックのある『ロンドン・スタジアム(旧オリンピック・スタジアム)』に移転したのが、イーストロンドンのサッカークラブ、ウェストハム・ユナイテッドです。旧本拠地のアップトン・パークは、ピッチとスタンドの距離が近く、やや小型ながらもイングランドらしい素晴らしいスタジアムでしたが、新スタジアムはいったいどんな雰囲気なのか?2020東京オリンピックパラリンピック後の新国立競技場の利用方法について様々な議論が起こる中で、3月、チェルシーを迎えるダービーデーに、実際に様子を見に行ってみました。

オリンピックのレガシーはどう活用されたのか?

ロンドンオリンピックの開催は、イーストロンドンの雰囲気を一変させました。オリンピックパークとして整備されたエリアは、もともと工場地帯で、土壌汚染の問題もあり、ロンドンの中でも治安が悪いと言われていた地域。しかし、オリンピックに向けて再開発が進み、主要駅であるストラットフォード駅にはヨーロッパ最大級ともいわれる新しいショッピングセンターもオープン。オリンピック後は、選手村だった建物が分譲・賃貸マンションとして転用され、すっかり住みやすい街に生まれ変わったようです。

そんなオリンピックのレガシーの中でも目玉といえるのが、メイン会場として開・閉会式や陸上競技が行われたオリンピックスタジアム。設計・建築は、スポーツ施設では非常に多くの実績を持つポピュラス社です。サッカーでは、イングランド代表戦が行われるウェンブリー・スタジアムや、アーセナルの本拠地エミレーツ・スタジアムもこの会社の作品。今回は、建築当初から、のちのち減築できるよう設計されたことで話題となりましたが、オリンピック終了後、誰がどのように活用するのかという点でも注目を集めました。

そんなオリンピックスタジアムを本拠地として使用する権利を獲得したのが、イーストロンドンをホームタウンとするプレミアリーグのクラブ、ウェストハム・ユナイテッド(以下ウェストハム)。とはいえ、オリンピック開催時の8万席をそのまま使うわけではなく、5万7000席(サッカー利用の場合)まで減築しての転用です。年間250万ポンド(約3億5000万円)+1試合10万ポンドの使用料を支払う間借り利用ではありますが、旧本拠地のアップトン・パークが3万5000席だったこと考えればクラブの収入は大幅増の見込み。新旧スタジアムは直線距離で約4km程度と、他と比較すれば最も無理のない移転といえました(ちなみに北ロンドンのトッテナムも名乗りを上げたが却下されています)。しかし、ここはあくまで陸上競技にも使われるトラック付きのスタジアム。現状、トラック付きのスタジアムを使っているプレミアリーグのクラブはありません。ウェストハムがこの点をどう解決しているのかが気になります。


夜のロンドン・スタジアム・隣にそびえる記念塔、『アルセロール・ミッタル・オービット』は、展望台や全長178メートルの滑り台を備えたアトラクションとして活用されている

駅からの20分は、ひたすら目的地を目指す20分

実際に訪れるにあたり「マッチデーアクセス」としてクラブ公式サイトに掲載されている内容をみると、地下鉄や電車の場合は、ストラットフォード駅から歩くようにとのこと。駅を出ると確かに一目でわかる看板を持った案内人が立っていて、迷わずに向かうことができます。ただ、再開発地区だからなのか公園だからか、大きな橋や高架が続くスタジアムまでの道のりは殺風景。夜開催の試合ということもあって真っ暗な中を黙々と歩いていると、ついつい、アップトン・パークに向かう沿道の、市場やパブが立ち並ぶにぎやかなバス通りを懐かしく思い出してしまいます。駅からスタジアムまでの距離も約20分とちょっと遠め。到着してみるとさすがに立派で何もかもキレイですが、こういう立派なスタジアムの難点は、敷地内に入ってから席までがまた遠いこと。ゲート表示に従って自分の席までぐるっと回りこむだけで、さらに15分はかかりました。


ストラットフォード駅の改札を出ると案内板を発見。アクセスはかなりしっかりコントロールされている

ショップは広くて設備も充実。懐かしいスタジアムのメモリアルも

と、その前にオフィシャルショップをチェック。敷地内の別棟にあるショップは、さすがに他のどのスタジアムにも負けない面積と品揃えで、ゆっくり買い物が楽しめます。ユニフォームにネームをプリントするための専用コーナーは地下1階。珍しいのは、プリントコーナーの隣にカフェスペースがあり、街中のコーヒースタンドと遜色ないモカやラテなどが飲めること。それでいてお値段は入場ゲートをくぐってからの売店と大差なし。こういう施設が非常に手薄なイングランドのスタジアムの中では、さすがの充実度です。ちなみに、地下1階に向かう階段のところにはなぜか門扉が設置されているのですが、実はこれ、アップトン・パークに設置されていた門。アンフィールド(リヴァプールの本拠地)しかりクレイヴン・コテージ(フラムの本拠地)しかり、歴史あるスタジアムにはこういう味わいのある門があるものですが、移転に伴い門扉だけでも持ってきた(しかも、それをモダンな外回りではなくショップ内に設置した)のは、なかなか味な計らいです。


ショップ内に設置された、アップトン・パーク時代の門扉


地下にはプリントコーナー(左)のほかカフェスペース(右)もあり、座ってコーヒーを飲みながら待つこともできる

ゆとりがあって安全、快適。その代わりピッチは遠い

さて、続いてはスタジアム内部。ICカードやバーコードをかざして入場するスタイルやゲートの狭さは他のスタジアムと変わりませんが、驚くのはコンコース部分の広さ。通路が広く、天井も高くて、いかにもビッグイベント用のスタジアムという趣です。というか何なら広すぎて寒い!多くのスタジアムでは、コンコースといえば室内仕様の空間なのですが、ここはコンコースも含めて屋外という雰囲気です。広々としている分フードやドリンクの売店も数が多く、買い物は比較的快適でした。

そしていよいよスタンドです。1階の客席は、通路や足元はゆったりしていて歩きやすいのですが、その分傾斜が緩やか。ということは、後列の座席はピッチからかなり離れてしまいます。安全性・快適さと臨場感はある程度トレードオフの関係ですが、ここでは前者が優先されているのを感じます。問題のトラックですが、客席が可動式になっていて、その客席をトラックの上に載せる形で目いっぱい前方に寄せてある様子。それでも、ピッチを楕円形に取り囲む形になっているので、センターライン付近やゴール裏中央部などでは、かなり遠い印象は否めません。その代わりと言っては何ですが、大型ビジョンは非常に豪華!両ゴール裏に超ワイドな大型ビジョンが設置されていて、筆者の知る限りこれは明らかにプレミアリーグNo.1。ただしこれもその分、ビジョンの裏側の席からピッチがどう見えるのかが気になります。

スタンドの埋まり具合は、ホーム側ゴール裏には熱いサポーターでびっしり、バックスタンドの2階席にはやや空席があるものの、さすがはビッグマッチ、概ねしっかりと埋まっています。キックオフ前にホームサポーターが熱唱するテーマソング、”Forever Blowing Bubbles”も十分響いていたし、歌のもとになっているウェストハム名物のシャボン玉(Bubbles)も健在。ただどうしても、アップトン・パーク時代の、一人ひとりの声がピッチに届くような一体感の再現とはならず、プレミアリーグファンとしては少し寂しい思いも残りました。


ピッチと客席の間、トラックが残る部分には緑色のシートが敷いてある。実はこのシートがあるだけで心理的にはかなりストレスが軽減するとのことだが……ちなみに、最後列の席については、他のスタジアムと比べてもピッチから遠いということはないそうだ


ホーム側のゴール裏。ビジョンは本当に見やすくて高画質。ただその大きさの分、後方席からの視界が気になる

「立派すぎる」スタジアムは、ホームになり得るのか?

もう一つ気になったのは、試合が終わった後の帰り道。スタジアムが大きいこと、帰途に着く人の流れが一方向に集中することなどから、歩いている人の波をときどき止めてコントロールする交通規制がありました。少し歩いては止まり、また歩いては止まりを繰り返すので、駅までの所要時間は来るとき以上。ウェンブリーでも似たような規制はありますが、あちらはあくまで代表戦などのイベント試合。毎週のようにこうした規制に辛抱強く付き合うウェストハム・サポーターはさぞ大変でしょう。先日のホーム最終戦、試合後に選手がスタンドを回って挨拶したけれど、そのころにはすでに大半のサポーターがスタンドを後にしていた……という寂しい出来事がありました。試合内容の不甲斐なさ?ファンの忠誠心不足?と揶揄する言葉も飛び交いましたが、混雑の中をスムーズに帰宅することを考えるとある程度仕方のないことだったのかもしれません。

大型で設備も立派なスタジアムは快適だし、飲食設備が充実しているのはプレミアリーグのスタジアムにおいては希少な魅力。周辺一帯は公園として整備され、駅隣接のショッピングセンターともあいまって、マッチデーをレジャーとして楽しむのにはかなり充実した環境といえるロンドン・スタジアム。しかしそれと引き換えに、昔ながらのイングランドフットボールらしさ……あくまで日常の風景として、生活の延長線上にさりげなくあり、サッカーの息遣いそのものを肌で感じられるという意味では、どうしても古いアップトン・パークを懐かしく思い出してしまう人もいることでしょう。

現にウェストハムは今シーズン、出足からホームであるはずのロンドン・スタジアムで勝てずに苦しみました。同じことは、同様に「立派な」ウェンブリー・スタジアムでチャンピオンズリーグのホームゲームを戦い、真の本拠地ホワイトハートレーンでの戦績(プレミアリーグ17勝2分)からは考えられない残念な結果しか残せなかったトッテナムにも言えるのでは……。

日本でも2020年東京オリンピックパラリンピックに向けて建設されている新国立競技場が、大会後に球技専用スタジアムとして改修されるのではないかという話も聞かれます。
国際的な大イベント向けに作られたスタジアムは、いちサッカークラブの本拠地になり得るのか。プレミアリーグファンとして、これからオリンピックを迎え入れる日本人として、スタジアム転用のあり方を考えさせられるロンドン・スタジアムでの経験でした。


フード系屋台はゲート外もなかなかバリエーション豊富。この充実ぶりはちょっと魅力的


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