賛否両論。サッカーのビデオ判定「VAR」とは

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賛否両論。サッカーのビデオ判定「VAR」とは

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TOP画像:Photo by Dan Taylor-Watt

2016年に開催されたクラブワールドカップ鹿島アントラーズ対アトレチコ・ナシオナル戦において、FIFA主催の大会で史上初めてVAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)が使用されました。


史上初のVAR判定

フリーキックの際に、西大伍選手が倒されたことを確認した主審は、鹿島にPKを与えます。今まではゴール判定技術により得点の可否のみを機械判定で判断していましたが、VARによってプレー中の判定を客観的に判断できるようになりました。しかし、この制度は幾つかの問題を抱えています。今回は、VARの問題点や制度をフォーカスしていきます。

VARはどんな制度?

VARとはテクノロジーを用いた最小限の介入で「明確な誤審」を回避するシステム。VARのプレー対象はレッドカードの提示、PK判定、ゴールに直接関係するプレー(ファールやオフサイド判定)、選手誤認(判定を受ける選手が、別の選手であると誤認された場合)が判定されます。VARの助言を受けた際は判定の継続・変更を下す前に、ピッチサイドのモニターで映像を視認(オン・フィールド・モニター)してから、主審が結論を出します。ビデオを観ながら主審に助言する立場の人間は第5審判と規定されており、正式な審判として扱われています。このVARはあくまで主審に助言をする立場であり、判定を決定する権利は有していません。


VARでオフサイドと認定されて、ゴールが取り消しになったシーン(コンフェデレーションズカップ2017 ポルトガルvsメキシコ戦)

ではVARが助言をした際、当該プレーに「明らかな誤審」がなかった場合はどうなるのでしょうか。その場合は1つ前のプレーに戻して、ゲームを再開させます。例えば、スローインからプレーが始まった場合は、スローインを始める場面に戻ります。


プレー終了後に、レッドカードが提示されたケース(U-20ワールドカップ アルゼンチンvsイングランド戦)

これらの技術は国際サッカー連盟(FIFA)と国際サッカー評議会(IFAB)主導で開発・導入が行われてきました。エールディヴィジ(オランダ1部)、MLS(アメリカ)などでテストが繰り返され、クラブワールドカップ2016からFIFA主催大会でもテスト運用が開始。今年はセリエB(イタリア2部)2017—2018シーズンで試験的に導入されます。現状のVARはテスト段階であり、2018年春のIFAB年次総会叉は2019年春の年次総会で正式に導入されるかが決まる予定。

他競技のビデオ判定

ビデオ判定は大きく分けて二通りあります。選手やコーチが要求できる「チャレンジ制」と、VARと同じように主審が判定を要求できるものに大別されます。チャレンジ制の場合はNFL(アメリカンフットボール)、野球(MLB、韓国プロ野球)テニス、バレーボール、レスリングなどが導入。チャレンジには回数制限が設けられており、試合進行の妨げにならないように配慮されています。さらに、チャレンジで「明確な誤審」がなかった場合は、ペナルティが課される競技もあります(例えばレスリングはチャレンジが失敗した場合、1ポイント失う)。


NBAでビデオ判定が使用されている様子 Photo by Keith Allison

VARのように主審が判断を下す際に限り、ビデオ判定が行われる競技はバスケットボール(NBA、Bリーグ)、大相撲(物言い)、日本プロ野球などがあります。この場合、VARと同様にあくまで審判の判断を手助けするツールと介されています。ちなみに、チャレンジと主審がビデオ判定を請求できる二つの制度が併用されている競技にバレーボールなどがあります(バレーボールの場合、審判が請求するビデオ判定をレフェリーチャレンジといいます)。

賛否両論の声。選手や監督らはVARをこう見ている。

以前からサッカーのビデオ判定導入について、各方面で賛否両論となっていました。VARについて、反対と賛成の声は以下の通りになっています。

[賛成]

Photo by Piotr Drabik

FIFA会長 ジャンニ・インファンティーノ

このシステムは審判を助ける上で、最良のものになるだろう。VARは、サッカーの未来であると考えている。

アーセナルFC 監督 アーセン・ヴェンゲル

(2006年にこのシステムがあれば)チャンピオンズリーグの決勝で、バルセロナ相手に同点ゴールを決めていたと思うよ。私は何年も前から、(VAR)導入を賛成している。

バルセロナFC 監督 ルイス・エンリケ

私はこのシステムを好意的に見ている。審判のサポートをするものは、全て賛成しているよ。全てを審判の責任にできないからね。

賛成派の意見を見ると、誤審を避ける手段として支持されています。Aリーグ(豪州)、MLS(アメリカ)エールディヴィジ(オランダ)で、段階的に何度もテストが繰り返されてきたシステムのため、システムの精度については高い信頼性があるとFIFA技術発展部門責任者のマルコ・ファン・バステン氏も謳っています。次に、反対の意見を見ていきます。

[反対]

Photo by Chancellery of the President of the Republic of Poland

元UEFA会長 ミシェル・プラティニ

ビデオ判定を導入すれば、判定の度に試合を止めることになる。ビッグゲームばかりが話題になるが、それ以外ならどうなるだろう?例えば、フェロー諸島とアンドラの試合に、20台のカメラを配置することはできるだろうか。

アトレティコ・マドリード 選手 アントワーヌ・グリーズマン

VARは、待たされることが短所だね。僕がゴールを決めた時に、暫くしてノーゴールになってしまった。時代の流れだってことは分かっているけど、実に残念なことだ。サッカーの楽しさが消えつつあるんじゃないかな。

バルセロナFC 選手 ラフィーニャ

僕はサッカーがテクノロジーに踊らされるのはよくないと思っている。審判のサポートになるなら、それはいいことだよ。でも、試合の流れを切らないでほしい。これを許したら、サッカーがアメリカンフットボールになってしまうよ。

選手たちは試合の流れや、ゴールを決めた際の歓喜を止められることに不満を持っていることが分かります。さらに、ミシェル・プラティニ氏はコスト面に追求しています。サッカーとは異なりますが、MLBはリプレイセンター(ビデオ判定を管理する施設)を設置するのに10億円以上の費用を要しました。さらに無線設備や中継設備、複数台のフルハイビジョンカメラ、設備管理費、人件費などの費用がかかる他、天井にカメラを設置するための屋根が必要になります。その際、屋根の有無によるスタジアム間の格差が生じる危険性も。

VARは様々な問題を抱えています。しかし、サッカーの歴史は誤審で泣くといったシーンが数多くありました。例えばマラドーナの「神の手」事件が起きたワールドカップ1986イングランドvsアルゼンチン戦を担当したアリ・ビン・ナセル主審は、「未だにあの誤審を、多くの人たちに言われ続けている」と苦悩し続けています。さらにW杯2010欧州予選プレーオフにて、ティエリ・アンリ選手のハンドを見逃したマルティン・ハンソン主審は「あの誤審は人生最大の過ちだ。時計の針をあの時に戻せるなら、今すぐにでも戻したい」と嘆いていました。誤審による悲劇は選手やサポーターだけではなく、主審にも影響します。VARの登場により、これらの問題が改善される日が訪れるかもしれません。


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