FIFAマスター辻翔子さんインタビュー サッカーを支える人の国際化を、FIFAマスター辻翔子さんインタビュー【後編】

サッカーを支える人の国際化を、FIFAマスター辻翔子さんインタビュー【後編】 SUPPORT

FIFAマスター辻翔子さんインタビュー サッカーを支える人の国際化を、FIFAマスター辻翔子さんインタビュー【後編】

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前編ではFIFAマスターを今年修了した辻翔子さんに、FIFAマスターでの生活の様子を詳細にお聞きしました。後編ではそこから学んだこと、今後の日本サッカーを支える人に必要な視点やスキルを中心に話してもらいました。

強く感じるビザの壁。アジアへの理解が武器となる。

ーFIFAマスターでの授業の内容に、日本に関連するものはありましたか?

結構ありましたね。テーマが一見関連してなくても質問は自由にできたので、私は東京オリンピックに結びつけてよく質問しました。ロンドンオリンピックとラグビーW杯のイベントマネージャーだった方がゲストスピーカーとして来たので、日本のラグビーW杯と東京オリンピックについて、外から見ての期待や不安を聞いたことがあります。期待できるのはふたつの大会の間隔が1年足らずと短いが、その分ラグビーW杯に関わった人がそのまま東京オリンピックに関われるので、スムーズにナレッジトランスファーができると仰っていました。日本のスタジアム、例えば北九州のミクスタ(ミクニワールドスタジアム北九州。スタンドが海に面し「海ポチャ」するスタジアムとして話題となった)などは素晴らしいし、それぞれの組織委員会も非常に熱心なのが伝わってくる反面、観光客にとっては通常よりコストのかかる滞在になるかもしれないという指摘がありました。
また、日本代表が2015年のラグビーW杯で南アフリカ代表に勝ったことが授業で何度も話題に挙がってきて、あの試合は本場イギリスの人たちにとっても大きなことだったんだなと実感しました。レスター滞在中にラグビークラブのレスター・タイガースの試合運営をお手伝いしたことがあるのですが、知らない人に「あれはすごかったな!」と声をかけられたりもしました。


レスターの街角。サッカーだけでなくラグビーも人気。

ー国際的に活躍している「支える」日本人についての現状について教えてください。

スポーツの国際機関が集まっているスイスには数名しかいなく、本当に少ないと思いますね。労働ビザの問題が一番大きいと思います。世界情勢の影響から外国人が労働ビザを取得するのがどんどん難しくなってきており、同じような能力や経験ならば欧州国籍を持つ人を採用する会社が多いですね。また、そもそも欧州国籍を持つ人のみを対象とする求人がとても多いです。FIFAマスター在学中にインターンシップの情報がいくつか回ってきたのですが、国際的な組織でも欧州国籍を持つ人以外のCV(履歴書)は受け付けないところは多かったです。面接でも労働ビザの有無について必ず聞かれました。可能性はゼロではないと思いますし、ビザを言い訳にはしたくありませんが、厳しい状況だからこそ、今スイスで働いていらっしゃる日本人の方は本当にすごいと思いますね。

また、語学も英語はもちろん大事なのですが、特に国際機関の求人の多くはフランス語を必要としています。FIFAでもオフィシャルランゲージとして英語に加えてフランス語・ドイツ語・スペイン語のいずれかを話せる人を募集していることが多かったです。サッカーの現場ではスペイン語が強いと思うのですが、国際機関ではフランス語やドイツ語のほうが重要視されている印象を受けました。私自身も、スペイン語以上にフランス語を話せないとダメだというのを痛感し、今はフランス語を勉強しているところです。


UEFAにて。

自己主張の強くないリーダーシップもある。アジア人の感覚は組織の価値。


最終プレゼンテーションの様子。

ーそのような現状がある中、欧州ではアジアをどのように捉えているのでしょうか?

どの先生やゲストスピーカーも、サッカーの将来はアジアにあると話していました。アジアのスポンサー企業も増えているし、アジアを意識せざるを得ない状況になっているのは確かです。ただ、FIFAマスターでもアジアをテーマにした授業は3コマくらいしかありませんでした。アジアからの生徒も年々増えていますし、アジアを相手にビジネスを行っていくのであれば、アジアのことをよく理解しないといけないと思うので、 アジアを題材にした授業は今後もっと必要だと思います。

また、選手は昔と比べるとどんどん欧州に出てきていますが、指導者やクラブスタッフや「支える」人達に関してはまだまだケースが少ないです。今回Jリーグがラ・リーガ(スペインリーグ)と提携したように、リーグレベルでも交流が生まれてくるはずですので、短期間でもいいのでどんどん欧州のクラブに行って、マネジメントがどのように行われているのかを視察するのも良いと思います。
今回帰国してJリーグの試合を多く観に行っているのですが、試合前のイベントや演出など、Jリーグはすごく力を入れていると改めて感じました。それに比べると、プレミアリーグやラ・リーガは何もしなくても試合を見るために人が集まるので、競技面以外での努力を少し怠っている気がしています。なので日本が一方的に学ぶのではなく、日本のスポーツ文化を欧州側に伝えていくことも大事だと思います。

ーFIFAマスターの授業を通して、日本人やアジア人の強みは感じましたか?

アジア人はとてもバランスを取るのが上手で器用だと今回のクラスでもすごく感じましたし、アジア人でもリーダーになれると感じました。リーダーというのは人の上に立って指示する者、そういうものだと以前までは思っていたのですが、とある授業でリーダーには様々なタイプがいて、上から指示を出す人もいれば、みんなと一緒に色んな意見を聞いてやっていくリーダーの形もあるよと言われて、それが私にとってすごくしっくりきました。クラスメートも私をリーダーとして見てくれたので私なりのやり方でクラスをまとめ、卒業式でもインド人と私のアジア人2人がクラス代表として答辞を読みました。

国際機関には、もっとアジア人がいなければ。

ー辻さん自身は、今後は何をしていこうと考えていますか?

いずれはスイスの国際機関に入りたいと考えていますが、これまでのヨーロッパの経験だけでは労働ビザを持っている欧州の人たちと勝負できないので、彼らにない武器を作らないといけないと痛感し、まずはアジアで経験を積むことにしました。
今後はオランダのmycujooというメディア会社に所属しながら、アジアサッカー連盟(AFC) と協力して、AFC加盟国のリーグやクラブにライブストリーミングを導入する予定です。FIFA傘下の公式試合のうち、9割は全く放送すらされていないというデータがあります。それだけのコンテンツが開拓されないまま、関心のある人に届いていない状態があります。私自身も海外にいるときにJリーグ、なでしこリーグや大学サッカーを見ることができない状況を経験しているので、少しでもそういったニーズに応えられればいいなと思います。このAFCのプロジェクトが始まってからまだ1年半しか経っていないのですが、すでにAFC加盟国25ヶ国以上と提携しているようです。サッカーがあまり発展していない国を中心に、色んな国への出張が多くなりそうですね。私自身の日本人、アジア人としての強みとこれまでのヨーロッパの経験を活かして、世界のサッカーに貢献したいと考えています。


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