第二の人生を歩む野球人 第1回 米野智人さんインタビュー

第1回 米野智人さんインタビュー SUPPORT

第二の人生を歩む野球人 第1回 米野智人さんインタビュー

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このシリーズではセカンドキャリアで奮闘する元プロ野球選手にスポットを当て紹介していきます。

今年3月、東京・下北沢駅西口から徒歩30秒の場所にヘルシー志向のカフェレストラン『inning+(イニングプラス)』がオープンしました。オーナーを務めるのは、元プロ野球選手の米野智人さん。

東京ヤクルトスワローズ、埼玉西武ライオンズ、北海道日本ハムファイターズで計17年間、選手(捕手・外野手)として、また昨シーズンは捕手兼2軍バッテリーコーチ補佐という異例の形で、球界に貢献してきた野球人です。

今回は、食と健康に対するこだわりから、昨シーズン限りで引退を決めた時の気持ちまで、じっくりと語っていただきました。


清潔感があり、ほっと落ち着ける店内

コンセプトは“おいしくてヘルシー”であること

プロ野球選手のセカンドキャリアとして飲食店経営を始める人は少なくありません。しかし、選手の名前がひとり歩きすることもあれば、お店ではめったに姿を見ないということもあります。

どちらにも当てはまらないのが米野さんのスタイル。自ら吟味した食材を仕入れ、メニューの考案もします。そして、試作で納得したものだけを笑顔とともにお客さんのテーブルまで届けてくれるのです。

お店のコンセプトは“おいしくてヘルシー”。中でもグルテンフリーの取り入れは大きなこだわりです。グルテンフリーとは、小麦・大麦といった穀物に含有するタンパク質(=グルテン)を摂取しない食事方法のこと。免疫力向上やアレルギー予防などの効果が見込めるとの説もあり、近年注目を浴びています。

お店の方向性を決めた背景には、選手時代に米野さんが身をもって感じた食生活による体調の変化がありました。


無塩バターから不純物を取り除いたギーをたっぷり使用した『グルテンフリーギーチキンカレー』


自家製グルテンフリー米粉パンにマキベリーを入れて焼いた『グルテンフリーホットサンド』

食生活を変えたことで、体が軽く楽になった感じがした

――いつ頃から食と健康に興味を持つようになりましたか?

プロ野球選手は外食が多い上に、一人暮らしの若い選手は、球場に入ってからの食事をコンビニ商品で済ませることもよくあります。僕も若い頃はそうでした。でも、30歳を過ぎた頃から、疲れがたまりやすく回復力も弱くなったと感じるようになったんです。原因は食生活だと思い、それから少しずつ健康志向に変わっていきました。

――グルテンフリーを深く知るきっかけになったのはノバク・ジョコビッチ(男子プロテニスプレイヤー)の著書『ジョコビッチの生まれ変わる食事』だそうですね?

はい。彼がグルテンフリーに切り替えてから、1年数か月後に世界ランク1位になったというのを読んで『本当かなあ?』と思いながらも実践してみたんです。僕の場合は、まず胃もたれがなくなり、便通もよくなりました。胃腸がすっきりしたせいか、体が軽く、楽になった感じがしました。

――体に変化が現れるまでに、どれくらいの期間がかかりましたか?

すぐです。3日くらい。本当ですよ(笑)!もちろん個人差はあると思いますが、僕自身は効果を実感しているので、今もずっと続けています。僕は完全にスパッと(小麦を)やめたけど、誰もが急にできることではありません。だから、例えば、お米を食べるようにして、麺類・パン類を減らすことから始めるのはどうでしょうか。2割3割減らせてきたら、次は半分に減らす工夫をするとか…。考えすぎるとストレスになるので、食生活を見直して、自分に合った健康な食事方法を見つけるのがいいと思います。

アスリートに限ったことではなく、どんな職業の人でも、健康でいないといい仕事はできませんからね。こういうことを、体が資本の職業に就いていた僕が発信できたら、多少は説得力があるかなと思っています。


玄米粉、栄養価の高いソルガム粉を使い、ギーも配合した『グルテンフリーマフィン』

人生は『判断して決断する』ことの連続

――長いプロ野球人生で得たことが活かされているのでしょうか。

17年間プロ野球の世界でやってきて、いろんな方が『長くやってすごいね』と言ってくださいますが、野球では成功できなかった。うまくいかない野球人生だったので、耐えることが多かった。でも、それがあったから今の自分があるのだと思います。一度失敗しても、違う方法を見つけて頑張れるし、あらゆる角度から物事を見られるようにもなりました。
もちろん、レギュラーを獲ってスター選手になりたいと思った時期もありましたけどね…。

――今シーズンもファイターズから捕手兼2軍バッテリーコーチ補佐として契約のオファーがあったそうですが、それよりも新しい道を選ばれたんですね。

迷いましたよ、すごく。でもライオンズから戦力外通告を受けて、ファイターズに“捕手”兼2軍バッテリーコーチ補佐として声をかけてもらった時から、『もう一度キャッチャーとしてやって、手応えを感じなかったら“選手”としてはキツイな』という思いがあったんです。実際に1年やってみて、ここまでだと感じたので引退を決めました。

――指導者ではなく選手としてプロ野球の世界に身を置きたかったのですね。

指導者という選択は、僕の中にはありませんでした。選手でいたかったんです。だけど、それは厳しいと思ってから自分の中で答えは決まっていました。
これから先も自分で決めていかなきゃいけないことがたくさんあるでしょうね。野球も“判断して決断する”ことの連続だったので、この大きな決断は今後の人生でも役に立つと思います。


たっぷりの野菜に鶏の胸肉、キヌアなども入った夜のアラカルトメニュー『inning+サラダ』

これからセカンドキャリアに入る人の不安を拭いたい

――では最後に、今後の目標や夢を教えてください。

僕は『小さい時から野球を続けてきて、野球しかやってこなかったから、やめたらどうなるんだろう』という思いを抱いたことがあります。だから、これからセカンドキャリアに入る人のそういった不安を拭えるようになりたい。野球界から出ても、野球で培ったもので世の中の役に立つことができるという例を見せたいと思います。

この店の食材もさらにナチュラルで体にいいものにしたいと考えています。例えば野菜。だけど野菜って季節のものだから難しいですよね。そのへんは、まだまだこれからかなぁ。

「まだまだこれから」のことがある一方で、『inning+(イニングプラス)』は、今年3月のオープン以降、徐々にメニューが増え、営業時間も長くなりました。少しずつお店が進化しているのは、米野さんが持ち続けてきた野球への情熱が、セカンドキャリアにも注がれている証し。

開幕したばかりの“米野オーナー”の『第二の人生』を陰ながら応援したいと思います。

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