1試合で選手が走る距離をスポーツ別に比較すると見えてくるもの

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1試合で選手が走る距離をスポーツ別に比較すると見えてくるもの

スポーティ

走ることはすべてのスポーツの基本だ。昔からよく見聞きするフレーズですし、今でもそうかもしれません。体育の授業でも走りますし、部活動でどの種類であってもスポーツをやったことがあって、練習で走ったことがない人はごく稀ではないでしょうか。それが野球部であれ柔道部であれ、ワッセワッセと声を合わせてランニングする選手たちの姿は多くのスポーツ映画、テレビドラマ、アニメなどでお馴染みです。

そうしてウォームアップとして軽く走るくらいならまだしも、専門のランナー以外が長距離走のような「走り込み」をするとなると、昨今ではその効果を疑う人も出てきました。

ある元プロ野球投手と話をする機会があったときも、学生時代にやらされた走り込みについての話題になりました。その人は反対派でした。「ピッチャーが走らなくちゃいけないときって、マウンドから1塁ベースのカバーに入るときくらいですよ」と仰っていたことを覚えています。

TOP写真:フライを追いかけるイチロー元外野手。メジャーリーグでも屈指の俊足を誇った選手

スポーツによって大きく異なるランニングの距離

アメフト選手の走力測定には40ヤード(約36.6m)ダッシュがよく用いられる

『Runner’s World』誌は英語圏では最も有名なランニング雑誌のひとつです。そのオンライン版が様々なスポーツの選手が1試合に走る距離を比較する記事*¹を掲載したことがありました。

そこで取り上げられたスポーツは野球、アメフト、サッカー、テニス、バスケットボール、フィールドホッケーです。それぞれのルールに基づいた1試合を行ったときに選手が走る距離はおよそ以下のようになるそうです。

•野球: 0.07km
•アメフト:2.01km
•バスケットボール:4.67km
•テニス:4.83km
•フィールドホッケー:9.01km
•サッカー:11.27km

私自身、野球とテニスをやりますので、試合の時にフィットネストラッカーを装着して走行距離を測ってみたことがあります。野球を9イニング出場したときは約2キロ、テニスをシングルで3セットまでもつれたときは約6キロでした。

私の場合、野球は上のデータよりはるかに長く走っていますが、それはイニング交代のときにベンチと守備位置の間を走るからだと思います。ただ塁間を走る距離だけを合計するならば、その数字はかなり低くなるはずです。

*¹: Distance Run Per Game in Various Sports.
https://www.runnersworld.com/runners-stories/a20783609/distance-run-per-game-in-various-sports/

野球の本塁から1塁への距離はわずか27.4m

上の記事は学術研究ではありませんし、厳密な意味で正確なデータであるとは言えないでしょう。そもそも同じスポーツでもポジションの違いや選手のプレイスタイルによって数値は大きく異なるはずです。それでも、それぞれのスポーツの特性とランニングとの関連を考えるうえでとても興味深い情報です。

ただし、陸上競技のランナーは別にして、それ以外のどのスポーツでは上に挙げた距離をただ前に向かって速く走れたらよいというわけではありません。ほとんどのスポーツにおいては頻繁に走る方向を変えますし、急激な加速と減速をしなくてはならない局面が多いからです。試合中ずっと走り続けるわけでもなく、いかに休息で体力を回復するかも重要な要素になります。

つまりスポーツによって求められるラン能力は距離とスピードだけでは語れないということです。

短距離ダッシュと素早い回復:ビープ・テスト

“Mexico – South Africa Match at Soccer City” by Celso Flores is licensed under CC BY 2.0.
サッカー選手にはスピード、スタミナ、アジリティがすべて高いレベルで求められる

サッカーやラグビーなどのフィールド系球技でよく用いられるラン能力評価方法にビープ・テストと呼ばれるものがあります。

20メートルのシャトルランを専用タイマーの合図音(ビープ)以内で繰り返し行い、そこで得られたレベルと最大スピード(km/h)を用いる方法です。

合図音の間隔は9.0秒から始まり、レベルごとに短くなっていきます。2回続けて合図音までにラインに到達できなくなった時点で終了となります。

つまりごく短距離のダッシュをインターバルのように繰り返すわけですが、定められた時間内に回復するスタミナがより重要になります。このテストの結果数値によって心肺能力の指標となるVO2Maxを推定する計算方法もあります。

私自身も指導するクロスカントリー走部でシーズンの初期にこのテストを全員にやらせてみて、その結果によって練習メニューを分けるようにしています。

中距離走インターバル:NBAマイアミ・ヒートのキャンプ前テスト

もうひとつ、興味深い記事を紹介しましょう。米国の大手スポーツ誌である『Sporting News』が掲載した記*²では、NBAマイアミ・ヒートがキャンプ前に全選手に課すインターバル走の説明がありました。

バスケットボールのコートを端から端まで走ると28.7メートルになります。その10倍の距離、つまり約287メートルを1分以内に走り、2分間の休憩を挟んで5セット繰り返すというものです。

これがこなせない選手はチーム練習とは別に、コンディショニング専門トレーナーについたセッションの受講を義務づけられるのだそうです。つまり、これが合格点ではなく、バスケットボール選手として求められる最低基準ということのようです。

私も試しにやってみました。287メートルとはおよそ陸上競技トラックの3分の2周にあたります。それを1分以内というのはさほど難しくはありません。専門のアスリートではなくても、学生時代はクラスの平均より少し足が速かったよというくらいの人でも十分に対応できるレベルです。

しかし、たった2分間の休息を挟んで次のセットとなると話はかなり異なってきます。まだまだ心臓がハーハー言っているというのに、また走り出さないといけないからです。セット数を追うごとに脱落していく人は多いのではないでしょうか。

私はランナーですので、こうした中距離インターバル走はいくども経験があります。けっして得意なわけでも好きなわけでもありませんが、慣れてはいます。そのせいでしょうか、なんとか5セットを制限時間内に走り切ることができました。

しかし、身長が2メートルを越えることも珍しくないNBA選手たちは160センチの私とはそもそも運ぶ体の重さが違います。彼らにとってはけっして容易なことではないようです。スポーティングニュースの記事によると、最初のテストで不合格になる選手も、吐いてしまう選手もいるそうです。

単純なテストですので、興味のある人は一度試しにやってみては如何でしょうか。

*²: Can you pass the Heat’s training camp conditioning test? An inside look at Miami’s exhausting preseason routine.
https://www.sportingnews.com/us/nba/news/miami-heat-training-camp-preseason-conditioning-test/tmnjqmgiw3tv9ahigcfhtexm

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