第二の人生を歩む野球人 第3回 辻内崇伸さんインタビュー

第3回 辻内崇伸さんインタビュー SUPPORT

第二の人生を歩む野球人 第3回 辻内崇伸さんインタビュー

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この連載では、セカンドキャリアを歩む元プロ野球選手に着目していきます。

第3回は、元読売ジャイアンツ投手で、現在は女子プロ野球チーム『埼玉アストライア』のヘッドコーチを務める辻内崇伸さんの登場です。

辻内さんと言えば、忘れられないのが2005年夏、大阪桐蔭高校のエースとして出場した甲子園大会での姿。1回戦で球速156キロを記録、2回戦では1試合19個の三振を奪い、周囲の期待を一身に浴びていました。そして、同年のドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。しかし入団後はケガに悩まされ、1軍のマウンドに立つことがないまま2013年、8年間の現役選手生活にピリオドを打ったのです。

現在、日本女子プロ野球リーグは『京都フローラ』『兵庫ディオーネ』『埼玉アストライア』と、育成チーム『レイア』の4チームで構成されています。先に述べたとおり、辻内さんがヘッドコーチを務めるのは『埼玉アストライア』。“美しすぎる女子プロ野球選手”との呼び声が高い加藤優選手、東京ヤクルトスワローズ・川端慎吾選手を兄に持つ川端友紀選手も所属しています。

打撃練習に励む加藤優選手
スイングスピードを計測中の岩谷美里選手

選手から指導者へ転身

2014年、女子プロ野球を支援する『わかさ生活』の社員になると同時に、女子プロ野球界に指導者として飛び込んだ辻内さん。指導方針や過去の苦悩まで、練習の合間を縫って語ってくれました。
 
―現在の主な役割を教えてください。

選手の技術・能力の向上をめざすと同時に、一社会人としてしっかりとやっていけるような人を育成することですね。所属チームだけを見るのではなく、4チームすべてのヘッドコーチと知識を共有して、女子野球界発展のために尽くしたいと思っています。

―指導するうえで大切にしていることはありますか?

何が正解なのか分からないことが多くて、いつも自分自身に問いかけています。心がけているのは、“選手に考えさせる”ということ。一方的に教えるのではなく、コミュニケーションを取る中で、答えは選手に見つけてほしいと考えています。
選手には野球人生の中で、できるだけ長く、しっかりと自分の力を発揮してほしい…。そのためには“自分で考える”ことが必要だと思います。

―その考えはご自身の経験から生まれたのでしょうか。

そうとも言い切れませんが、高校時代の監督(大阪桐蔭高校野球部・西谷浩一監督)やコーチは、ずっと後ろで見守ってくれていたんです。だから「これがアカンかったらこうしよう」と、自分で考えながらやっていました。それによって自分の引き出しが増えたからこそ、プロにまで行けたと思っています。
入団後も巨人の小谷正勝コーチは、自分から聞きに行かないと何も教えてくれない方だったんです。だけど、すごく観察されていて、考えても分からないことを聞けば、即座に答えを出してくれるという指導でした。僕もそうありたいですね。

キャッチボールをする辻内ヘッドコーチ

野球ができない悔しさを味わった時代

―高校生で世間の注目の的になったことについては、振り返ってどう思われますか?

野球は「活躍したい、有名になりたい」という気持ちでやっていました。でも、自分の名前が知られていく怖さを3年の時に知ったというか…。例えば病院の待合室で名前を呼ばれると一斉に見られましたし、電車に乗ったら周囲がざわざわするのも感じていました。それは高3からジャイアンツ時代までずっと苦痛でした。今は大丈夫ですけどね。

―プロ入り後、ケガ自体の痛みはご自身にしか知り得ないものだと思いますが、それ以外での苦痛はどういった点にありましたか?

野球ができない悔しさです。野球をやってお金をもらう世界なのに、それができない。結果を出してファンの方を楽しませたいのに、それもできない…。すべては、自分の弱さのせいです。ジャイアンツには感謝しています。

―原因はご自身の弱さとお考えですか?

弱さですね。痛い時は無理をせず、投げることを控えるとか、もっと考えていれば、もう少し続けられたのかなと思うこともあります。痛い中でずっと投げ続けて潰れてしまうのは、よくない…。
高校野球でも連投や球数の多さが問題になっていますよね。でも、高校球児にとって甲子園は特別ですから。“今を生きている”彼らにとって何もしないで負けるというのが、一番人生で悔いが残るでしょう。でも潰れてしまったら野球人生が終わるかもしれない。そこの折り合いをつけるのは難しいですね。選手がどこを目指しているのか、目指しているのが甲子園以上のものであれば、もっと先を見据えた指導も必要なのかなと思います。

女子プロ野球の未来

―指導者としての目線を大事にされているんですね。

いえいえ。僕の場合、先ほどお話ししたように、心がけていることはありますが、個人の理念のようなものは持っていません。いろいろな方と話をして知識を吸収しているところです。動作解析も頭に入れて引き出しを増やしている段階です。

―動作解析はどういった形でされているのですか?

毎年、育成チーム『レイア』が鹿児島県の鹿屋体育大学で合宿をしていて、その際に球速、スイングスピード、ベースランニングなど多くの項目を計測するんです。女子野球選手はデータはまだ揃っていない部分が多く、計測したものが数値化されていくのも、まだまだこれからですが、データも選手の技術・能力の向上に役立てたいですね。

―今後の女子プロ野球界の展望を教えてください?

今、リーグを支えている選手たちの成長によって変わってくると思います。次世代に繋ぐことも彼女たちの役割ですから、野球教室やイベントにも参加して、野球の楽しさを伝えています。

笑顔も見られました

つらい時は環境を変えて、いい汗をかく!

―試合がない日は、どういった1日を過ごされていますか?

朝8時から13時くらいまで野球の練習をして、いったん家でシャワーを浴びて、ご飯を食べます。そこから会社(わかさ生活)に出勤して、デスクワークをすることもあれば、試合のチケットを持って営業に行くこともあります。そして18時くらいに家に帰る…といった感じでしょうか。

―充実していますか?

しんどい時もありますけど、いろんなことを勉強したいという気持ちがあるので、楽しくやらせてもらっていますよ。

―では、逆境を乗り越えてこられた辻内さんから、今、壁にぶつかっている人へメッセージをください。

僕もしんどい時は、めっちゃありますよ。しんどいなぁ、昨日飲みすぎたかなぁって(笑)。でも僕の場合は、朝から練習で汗をいっぱい流せるのがいいですね。スーツを着ている時の汗はベタベタして嫌ですけど、グラウンドでかく汗はサラサラですから。だから、朝、皇居の周りを走っている人は気持ちよく出勤していると思います。環境は人生を変えますからね。

環境が変わっても “野球人”であり続ける辻内さんにエールを送ると共に、今後の女子プロ野球にも注目していきたいと思います。



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