腸内環境からアスリートを助ける。鈴木啓太の挑戦 「起業家」サッカー元日本代表 鈴木啓太さんインタビュー

「起業家」サッカー元日本代表 鈴木啓太さんインタビュー SUPPORT

腸内環境からアスリートを助ける。鈴木啓太の挑戦 「起業家」サッカー元日本代表 鈴木啓太さんインタビュー

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浦和レッズ一筋で16年間プレーを続け、日本代表としても国際Aマッチ27試合出場という輝かしいキャリアを持つ鈴木啓太さん。現役引退後、彼が選択したセカンドキャリアは起業家としての道でした。

2015年10月に起業し、アスリートのコンディショニング調整、及びパフォーマンス向上を目的とした腸内フローラ*研究・解析事業を行うAuB株式会社の代表取締役社長として忙しい日々を送ります。

AuBがサポートする小口貴子選手の行っているスケルトンの認知向上につながればということで、「鈴木啓太と一緒にスケルトンを体験しよう!」というイベントを企画しました。前編ではスケルトン・ボブスレー体験の模様をレポートしましたが、後編の今回は、起業家へと転身した鈴木啓太さんのインタビューをお届けします。

サッカーの現場を離れ、サッカー界に足りないことを補いたい

ーー今回始めてスケルトンとボブスレーを体験されたと思いますが、いかがでしたか?

ソリに身を任せるというところは、怖かったです笑
でも、それ以上に、普段全く感じることのない感覚、刺激が新鮮でした。


ーーAuBという会社について聞かせてください。どのような経緯で、腸内フローラを研究する会社を立ち上げたのでしょうか?

自分自身、現役時代にお腹の状態を見ながらコンディショニングを整えていたこともあり、注目はしていました。現役引退前に、排便記録アプリ「ウンログ」をつくった田口敬さんにお会いする機会があり、これをアスリートで調べてみたら面白いのでは無いかと考えたことが起業のキッカケになりました。

ーーサッカー選手のセカンドキャリアとしては、指導者や解説者などサッカーに近い現場が多いと思います。その中でサッカーから少し離れた分野で起業をしようと思ったのはどうしてでしょうか?

サッカー界に足りていないところは何なのかということを考えたときに、サッカーの現場でレベルアップをさせていくということもあると思うのですが、違った立ち位置からサッカー界やスポーツ界に貢献することが大事なのではないかと思いました。
僕自身がサッカー界に対して何ができるのだろうか考えたときに、現場だけを改善するのではなく、周りの環境を変えることがサッカー界の伸びしろになるのではないかと考えました。

ーー選手から起業家への転身で苦労したのはどのような点でしたか?

僕はサッカー選手としては、日本のトップリーグで戦ってきましたが、経営やビジネスに関しては、サッカーで言うと少年団みたいなもので、実力は勿論のこと、足りないところが沢山ありました。それを色々な人と話したり補ったりしながら改善をしてきましたが、今考えてみると当初は見通しの甘さがあったなとは思います。
自分が思っていた以上に大変だったということは、チャレンジをする中でわかって、それをひとつずつ改善しているところです。

ーー今はどういう点に注力されていますか?

組織を作るということがある程度できてきたので、これからはその組織を活かして、どのように社会に対して還元できるかということを考える段階に入ってきたと感じています。

アスリートを支えることで、一般の人も喜ばせたい

ーー腸内フローラについてお話を聞かせてください。腸内フローラを調べてみることによりどのようなことができるのでしょうか?

現状は腸内フローラの改善について、「これをやればベスト」ということを、どのアスリートに対しても共通して言うことは難しいです。
ただ、1人の選手の腸の状態を定点観測することによって、それぞれの選手の良い状態というのを見つけることができます。それを元に、身体を大きくしたい、痩せたいなどの体質変更やコンディションを整えたいなどの方向性に合わせてタイプ別の対処方法については少しずつ見えてきました。
何をできるか、何をすべきかというのはその選手それぞれの課題や志向に合わせて考えていかなければいけないので、その中でベースになるような知見を貯めているというところです。

ーー腸内環境は個人個人によって良い状態が違うという理解でよろしいですか?

そうです。体質によって合う食べ物や合わない食べ物もあります。その中で、特に大事にしているのは選手による主観のデータです。自分の調子が良かったと感じるときに、体がどういう状態であったかということを科学的に調べています。
それは腸内環境だけではなく、血液の状態やメンタルなども含めた様々なデータを活用していく必要があると思っています。そのため、様々な研究機関や企業と連携していきたいと考えています。

ーーAuBの活動について、一般の方に向けてはどのように認知されていきたいと考えていますか?

将来的には一般の方に対しても成果を還元できればと思っていますが、まず大切なことはアスリートにとって必要な存在となることだと思っています。そのアスリートの背後にはファンや関係者など沢山の一般の方がいます。アスリートが活躍することによって、そのような方たちに対して喜びを提供できればと考えています。

大事なことは「思い」。鈴木啓太さんが考えるアスリートのセカンドキャリア

ーー啓太さんのような起業という道は、セカンドキャリアのひとつの指針になるのではないでしょうか?

そうですね。ひとつのロールモデルになりたいと思っています。
最近だとJリーグを経験して起業している方も何人かいますが、そういうロールモデルができることで、サッカーをやっている子どもたちの親が安心できるようになってくれるといいなと思っています。
親からしてみると、子どもがスポーツばかりしていると「うまくいかなかったときどうするの?」とか「引退したらどうするの?」という心配をするのは当然だと思います。その中で、アスリートから起業をして成功しているというモデルを示すことで、少しでもサッカーやっている子どもたちのお父さん、お母さんを安心させてあげられるのではないかなと考えています。
競技においての成功というだけではなく、競技をやっていて良かったなという、人生トータルで見たときの成功モデルを示すことができれば嬉しいですね。


ーーセカンドキャリアを構築する上で啓太さんが重要だと考えていることはどんなことでしょうか?

まずは、人との繋がりだと思います。自分自身、選手生活を行ってきたことにより、様々な人との接点ができましたし、サッカー選手としてキャリアを築いてきたからこそ、色々な人が相談に乗ってくれるし、協力もしてくれる。こういう部分は、活かしていくべきだと思っています。
あとは「何をやるか?」ということより、「それをやることによりどうなりたいか?どうしたいか?」という「思い」が大事だと考えています。何かやろうとするときに、みんな「それはそれ、これはこれ」って分けがちですよね。でも大事なのは、やっていった先に人が喜んでもらえるか、人の役に立てるかということだと考えています。そういう意味では一見別々のことをやっていても根本の部分は変わらないのではないかなと。
今やっていることは腸内フローラに関する事業ですが、これも腸内フローラにこだわってやりたいということではなく、世の中をより良くするためのひとつの方法としてこの事業があるという考えを持って取り組んでいます。
僕たちは「まずアスリートに喜んでもらう」ということから始めていきたいと思っていますが、その先には常に世の中を良くしたいという思いを持って臨んでいきたいと思っています。

文・写真:萩原拓也(Sportie編集部)