全米最大 手作りの高校クロスカントリーイベント
WATCH全米最大 手作りの高校クロスカントリーイベント
9月14、15日にカリフォルニア州コロナ市で全米最大の高校クロスカントリー走大会、Woodbridge Cross Country Classicが行われました。2日間で合計52のレースが行われ、15の州から400近い高校が参加して、出場した高校生ランナーは1万4千人を超えました。
38年の歴史を持ち、過去にはアテネオリンピックで女子マラソンの銅メダリストを獲得したディーナ・カスターや男子マラソン銀メダルのメブ・ケフレジギを始め、数多くのオリンピック選手を輩出した有名な大会です。
筆者はこの大会に運営ボランティア、参加高校のコーチ、及び参加選手の親という3つの異なる立場で関わるという珍しい経験をしました。
なぜそこに選手の親であることが関係してくるのかと疑問に思われる方もいるかもしれません。漠然と「アメリカの高校生は早熟で自立しているんじゃないかな」と思われがちなのですが、意外なことに高校になっても部活動に親が大きく関わり、学校側からも協力を期待されることが多いのです。この大会を主催した高校に所属する選手は約100人。そのなかで約半数ぐらいの親がボランティアで何かしらの役割を担いました。
それぞれの角度から見た大会の様子や魅力を紹介します。
丸2日かけて会場設営。運営ボランティアと言う名の肉体労働
レース会場となったSilverlake Sports Complexはサッカーフィールドが24面分という広大な広さの公園です。見渡す限り芝生がこれでもかと広がっています。このなにもない空間に3マイル(4.8キロ)を走るコースを作るのが、運営ボランティアの仕事です。
設営作業開始。地中に打ち込む杭は500本以上
杭を打って、テープを張って、スポンサーの横断幕や旗を立てて、そこら中にアメリカ国旗まで並べて、さらには夜間照明用のライトまで設置します。この役割を担うのが、主催高校クロスカントリー部に所属する選手のヒマなお父さん達10~12人。私もその1人なのです。なかには子供は10年以上前に高校卒業したのに、その後も変わらず15年以上に渡って毎年ボランティア参加しているお父さんまでいました。
レースが始まるのは、金曜の夕方。我々ボランティアは木曜の朝6時(!)に集まって、40度近い猛暑の下、ひたすら2日間20時間以上の肉体労働に励みました。
炎天下の中で作業するお父さんボランティア達。
その間、肝心のランナー達が何をしているかと言うと、みんなクーラーの効いた学校でお勉強しているわけで、「アメリカの部活動ってなにか間違っていないかい?」という疑問も頭に浮かびます。
それはさておき、私はこうした肉体労働の場面ではいつでも重宝されます。クロスフィットのトレーナーですので筋力トレーニングは仕事のうち、長距離走ランナーなので持久力も人一倍。そのようなわけで、単純な力仕事を延々とやり続けることにかけては私の右に出る人はいません。
コース設置が終わり、レースが始まると、今度は続々とやってくる出場高校のチェックイン、結果速報の貼り出し、入賞者へのメダルの授与、などのデスク仕事がありますが、それらは主にお母さんボランティアの役目です。この辺り、案外アメリカも性別で役割分担しているんだなあと思います。
コース完成。後はランナー達を待つだけ。
1万4千分の1。たった1名で参加した生徒のコーチとして。
さて、レースが始まる前には肉体派お父さんボランティアの作業は全て終わり、お疲れ様ビールを飲んでいる他のお父さん達もいるなか、私には別の大事な仕事が待っていました。
私は、主催高校とは別の高校でクロスカントリー部のヘッドコーチ(監督)をしています。そこからこのレースに参加を希望した男子生徒が1人だけいて、そのランナーのサポートをしたのです。
たった1人の参加になってしまったわけは、私がコーチをしている学校は、ユダヤ系の私立学校だからです。金曜の日没から土曜の日没まではユダヤ教の安息日にあたり、この学校では、その期間中に全ての公式な部活動を禁じています。あいにく、この大会はそのまさに金曜の午後から土曜にかけて行われます。そこで、あくまで個人の希望で参加を募ったところ、その1人の生徒が手を挙げたというわけです。
第1レース、スタート3分前。
この大会は出場高校をレベル別に1部から4部に分け、さらに学年ごと、性別ごとにレースを分けます。選手は全部で52個に分けられたレースのどれかに振り分けられます。1つのレースに走るランナーは200~300人ぐらいです。
私がコーチしている選手がエントリーしたのは、「4部のビギナー向け男子」レース。大会中最もレベルの低いレースで、順番は、初日の第1レース、つまりは栄えある開幕レースです。
たとえ選手が1人でも100人でも、レベルが高くても低くても、レース前にコーチがやること自体はあまり変わりません。レース1時間前に軽いジョギングとダッシュに付き合い、動的ストレッチを指示して体をほぐします。レース前で緊張しているランナーを笑わせることも大事な仕事です。
レースが始まってしまうと、もう後は大声を上げて応援するだけです。私達が地中に打った杭、その杭に張り巡らせたテープで囲まれたコースを、大勢のランナーが走っていきます。私がコーチする生徒もその1人です。
メインレースはロックイベントのような盛り上がり
最初のレースは、午後5時にスタートしました。その後は、1年生男子、1年生女子、2年生男子、2年生女子、と各部門のレースが次々と15分ごとにスタートします。これが延々と夜10時ぐらいまで続きます。
私の息子が通う高校、つまり開催高校はかなりの強豪チームです。1部に所属するだけではなく、団体トップ30校、個人トップ30名だけが出場できる大会最終レース「Sweepstakes」にも参加しました。
「Sweepstakes」とは本来は競馬やカーレースなどで大きな賞金がかかったレースのことを指すのですが、なぜか高校クロスカントリーでも大きなレースのことをこう呼ぶことがあります。勿論、高校生の大会に賞金は出ません。要するに、その日のメインイベントということです。
その「Sweepstakes」がスタートしたのは午後9時45分。会場にいる全ての人がコース付近に集まり、大声援のなかをランナー達が疾走します。最終レースに選ばれたランナー達ですから、みんな速い速い。あっという間に4.8キロを走り抜け、トップのタイムは歴代3位の14分1秒でした。
参考までに、前述の男子マラソン銀メダルのメブ・ケフレジギ氏が高校時代にこの大会で出したタイムが14分30秒です。この日のレースではそれより速くゴールしたランナーが16人もいました。私たち観客は未来の米国オリンピック代表選手を目撃したのかもしれません。
最終レースのコース付近に群がる観客たち。
疾走するエリートランナー達。
こうして、全米で最大規模だというクロスカントリー走大会の全イベントが終了したのは、午後10時過ぎ。私は大会前は設営作業、最初のレースにはコーチ、そして最終レースには我が子の応援、と目まぐるしく立場を変えて関わることが出来ました。
まだ会場の後片付けも残っていましたが、こちらには主催高校の現役ランナー100人が総出で参加しましたので、設営に比べると人手は充分でした。それでも全てが終わって帰路に着いたときは日付が変わっていました。
INFORMATION
Woodbridge Classic 大会公式サイト
http://gvarvas.com/