アルコールを身体から追い出して体力向上を図る、「攻め」の断酒。

アルコールを身体から追い出して体力向上を図る、「攻め」の断酒。 DO

アルコールを身体から追い出して体力向上を図る、「攻め」の断酒。

スポーティ

2024年1月16日から、個人的な快挙を成し遂げつつあります。ビール、ワイン、チューハイ、ハイボール、ウイスキー、焼酎、その他、ありとあらゆるアルコール飲料を一切口にしていないのです。

なんだ、そんなことか、と思う人は多分お酒を嗜む習慣をお持ちではないのでしょう。10代の頃からずっと、ほとんど休肝日もなしにお酒を飲み続けてきた私にとっては、かなりの重大事なのです。

アルコールを一定期間摂取しない試みを英語圏ではよく「Sober Challenge」と呼びます。大抵は1か月、あるいは100日間という期間が設定されます。この記事を書いている現時点、私のチャレンジはすでに前者のマイルストーンを越え、後者に近づきつつあります。

厚生労働省が国として初めて「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を発表したのは2月19日。私のチャレンジはそれより前に始まっていますので、直接の関係はありません。しかし、この発表がきっかけで断酒あるいは節酒に関心を持ち始めた人も多いかと思います。

ほんの少しだけ早く断酒を始めた一先達として、ささやかな個人的アドバイスを送りたいと思います。

飲酒のデメリットではなく、断酒のメリットに目を向ける

厚生労働省はガイドラインの目的を「アルコール健康障害の発生を防止するため」としています。アルコールを摂取すると○○の病気になりやすくなるので、1日に摂取する量を△△以下にしましょう、がガイドラインの骨子になっています。

なんとなく、後ろ向きだなとか、守りに入っているな、と感じるのは私だけでしょうか。お酒を飲むと悪いことが起こるよと脅かすより、お酒を止めたらこんなに良いことがあるよと励ます方が、人々の心にアピールするのではないかと私は思います。北風と太陽のように、とは適切な喩ではないかもしれませんが。

私の専門はスポーツです。このウェブサイトを見る人の主な関心もそこにあると思います。ですから、成人病とか依存症とかの医療的分野に関わる分析は厚生労働省に任せて、アルコールを断つことがアスリートにとってどのようなメリットがあるかに目を向けていきましょう。

心肺能力を高め、筋肥大を促進し、回復を早める合法的ドーピング?

アルコールとスポーツ・パフォーマンスの関連については様々な研究がすでに行われています。そしてどの研究結果を見ても、基本的にはアルコールはワルモノ扱いされています。

いくつか例を挙げてみます。アルコール摂取はバランス、反応時間、瞬発力、心肺能力など、多岐に渡る運動能力を低下させるとした研究(*1)、筋肉疲労の回復を遅らせるとした研究(*2)、脱水状態を悪化させるとした研究(*3)、筋肥大に不可欠なテストステロンの分泌量を減少させるとした研究(*4)、睡眠の量と質を低下させるとした研究(*5)など、まさに枚挙の暇がありません。

洋の東西を問わず、学者や研究者といった種類の人たちは思考回路が似通っているのかもしれません。どの研究も、アルコールを摂取するとパフォーマンスに悪影響が生じるか否かの究明に終始しているように思えます。それとは逆に、アルコールを日常的に摂取していた人がその悪影響因子を断つことでパフォーマンスにどれだけ好ましい変化が生まれるか、という視点に立った研究を、少なくとも私はこれまでに見たことがありません。

仮に同じ身体能力を持つ2人のアスリートがいたとして、さらにAはアルコールを摂取し、Bはアルコールを摂取しないとします。Aはアルコールからの様々な悪影響を受けているにもかかわらず、Bと同じ身体能力を保持しているのですから、その悪影響をゼロにすれば、Bより高い身体能力を獲得できる。そんな仮説は成り立たないでしょうか。

もちろん、これは机上の空論であることは承知しています。まったく同じ身体能力を持つ2人、という前提が現実にはあり得ないからです。

しかし、個人個人が自分の身体を使って実験することはできます。現在アルコールを日常的に摂取している人は、少しの間だけでも断酒してみて、その前後で自身の身体がどのように変化するか、あるいは変化しないかを観察してみてはどうでしょうか。

私は元々お酒を一切口にしません、という人には不可能な実験ですが、そういう人は多分ここまで読んでくれていないでしょう。

筆者の経過観察

私は自分の実験にフィットネス・トラッカーを活用しています。ランや筋トレなどの運動をした際のデータ(距離、時間、ペースなど)を記録し、心拍数や睡眠パターンなどの変化を24時間通して把握することができる、とても便利なツールです。

断酒を開始してから数週間が経過した時点のデータと過去のそれとを比較すると、いくつかの変化を発見することができました。

1)安静時心拍数の減少

安静時心拍数はおよそ毎分60~100拍が正常値だとされています。一般的には心肺能力が高い人はこの安静時心拍数が低くなる傾向があり、マラソンランナーなどはこの数値が40拍台になることもあるそうです。

私は断酒する前はこの値が平均して68~72拍くらいでした。しかし、断酒してからわずか数週間で54~58拍まで下がり、それ以降は安定しています。

安静時心拍数が低くなったということは、心肺能力が高まったと判断することができます。たとえば、VO2Maxは心肺能力の評価によく用いられる指標ですが、その推定値を得るためには下の計算式がよく使用されます。

•VO2Max=15×最大心拍数/安静時心拍数

分母である安静時心拍数の値が小さくなれば、そして最大心拍数に変化がなければ、VO2Maxの数値は大きくなります。私はトレーニング量を増やしたわけではなく、ただお酒を止めただけにもかかわらずです。

2)睡眠時間の増加

お酒を飲まないとよく眠れないかも、と心配する人は多いのですが、実際はその逆だったというケースはよくあります。刑務所に入った人の体験記などでよく目にしますし、私の場合もそうでした。

元々、私は断酒する前から1日ごとの平均睡眠時間は約7時間ありました。申し訳ないことにヒマなのです。

そして断酒をしてからは、十分長かった睡眠時間がさらに長くなりました。平均して8時間半ほど。9時間47分という数字を見た日もあります。

睡眠は疲労回復に欠かせません。長ければ良いと言うものでもないでしょうが、体感的には朝に目覚めたときの体調と気分がさらに良くなりました。

3)筋肉痛の低減

筋トレを行う人は多かれ少なかれ筋肉痛になります。そのこと自体は仕方がないにしても、できれば痛みは少なく、早くなくなってくれるに越したことはありません。

痛みを数値化するのは困難ですが、やはり私の体感としては、断酒をする前と後では、同じような筋トレを行った際の筋肉痛は格段に軽くなり、同時に回復も早まっています。長年悩まされてきた筋肉系の故障もなくなりました。

筋肉痛が減れば、筋トレの負荷や頻度を増やせます。長いスパンで見れば、きっと筋力向上に繋がるはずです。

チャレンジのおすすめ


トレーニングにしても、あるいは栄養摂取に関しても、ある手法の効果は人によって異なります。断酒にしても、私に起きた変化が、あなたには起きないかもしれません。逆のケースもあるはずです。

でも多分ですが、断酒によって失うものはありません。少なくとも経済的にはプラスに働くはずです。他人に迷惑もかかりません。

一生、酒を断つ、とまで覚悟を決めるのは難しいでしょうが(私にはできません)、1週間でも1か月でも、達成可能に思える目標を立ててチャレンジしてみてはどうでしょうか。好ましい変化があれば期間を延長してもよいですし、そうでなければ止めてもよいわけですから。

飲みたいのに飲めないのは受動的な我慢ですが、飲めるけど飲まないのは自発的な意志です。

我々はあしたのジョーである、と高らかに宣言しようではないですか。

参考文献:
*1. Alcohol and athletic performance.
https://www.researchgate.net/publication/276270271_Alcohol_and_athletic_performance

*2. Acute alcohol consumption aggravates the decline in muscle performance following strenuous eccentric exercise.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19230764/

*3, Restoration of fluid balance after exercise-induced dehydration: effects of alcohol consumption.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9338423/

*4. The effects of alcohol on testosterone synthesis in men: a review.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36880700/

*5. Alcohol and sleep I: effects on normal sleep.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23347102/

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