“海外在住、海外通勤の男”土橋優樹が語るルクセンブルク事情
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ルクセンブルクという国をご存知でしょうか?ベルギー、ドイツ、フランスに囲まれた都市国家で、IMF(国際通貨基金)の2017年データによると、1人当たりの名目GDPは世界1位。周囲を欧州列強に囲まれた地理的事情を活かすべく、低い税率を設定して国外企業を誘致したことによって世界屈指の金融・IT先進国の地位を手に入れた国です。今年、J1ジュビロ磐田に加入したFWロドリゲス選手がJリーグ史上初のルクセンブルク代表選手ということでも話題になりました。
今回は昨年7月、ロドリゲス選手とは逆に「ルクセンブルク1部リーグ史上初の日本人選手」となった土橋優樹選手にインタビュー。ドイツからルクセンブルクに通いながら現在7位につけるUNAシュトラッセンでプレーする彼に、他の国とは少し違うルクセンブルクの事情を訊いてみました。
大国の下部リーグよりも、小国のトップリーグで。
ーー法政大学を卒業された後に、ルクセンブルクに渡った経緯は?
大学では3年まであまり試合に出ていなくて、4年生の時も前期しか試合に出られませんでした。なので、Jリーグからのオファーは来ませんでしたし、J3のチームの練習に参加しましたが契約を勝ち取ることはできませんでした。ただ、就職活動はしていなかったし、海外には以前から興味がありました。
そこで、伝手を伝って中村駿介さん(マルタ・プレミアリーグのPietà Hotspurs F.C所属のサッカー選手。マルタを中心に海外への移籍をあっせんしている。)に連絡したら、中村さんから「とりあえずマルタに来なよ」って言われて。マルタでは1チームの練習に参加したんですけど、契約には至りませんでした。僕は元々ルクセンブルクに興味があったので、ルクセンブルクの2部でプレーしてる日本人の方と連絡を取って、練習参加させてもらって契約を勝ち取りました。
ーールクセンブルクがいいと思った理由は?
なるべく早くステップアップしたかったからです。日本の学生がドイツみたいな大国に行っても結局5部か6部のアマチュアになる。僕は大卒で若くないし、小さな国でもまず1部、2部でプレーする方がステップアップの近道だと考えたのです。
ドイツ暮らしのリアルな事情
ーー昨年の冬に2部のUMWに加入して、夏に1部の今のチームに移籍。
Facebookでオファーが来て、移籍しました。Facebookでクラブや代理人からコンタクトが来るのでなかなかバカにできません(笑)。アジア人はルクセンブルクリーグでは珍しいから、少しの活躍で目立ったという側面はあります。
ーールクセンブルクリーグの傾向は?
体格はみんないいですね。日本人に比べると、足元の技術はさほど高くないです。僕のチームは下位ってこともあってなかなかパサーと呼吸が合わないこともあります。上位のチームだとデカくてうまい奴がいたりするんですけど。
ーー技術的には上回ると。
あとは運動量とかすばしっこさとか。
ーーレベルは西欧ですしやはり高いですか?
もともと守備的MFの僕がアタッカーでプレーして活躍できるくらいなので、日本の大学サッカーよりレベルは低いと思います。
ーー1部と2部ではやはりレベルが違いますか?
1部は上位と下位のレベル差が結構激しいです。上位3、4チームくらいはヨーロッパリーグの予選に出るくらいで、今年初めてルクセンブルクのチームが本戦に出て(F91デュトランジュ、グループFに入ったが勝ち点1でグループリーグで敗退した)、ACミランや乾貴士選手の居たベティスのグループに入っていたぐらい。その一方で、中下位のチームはみんな仕事しながらプレーしています。ルクセンブルクは「お金持ちの国」なんで物価が高くて、現地の人はサッカー以外でも働かないと生活できないケースが多いんですよ。
ーー土橋選手はプロとして活動しているんですか?
僕はサッカーだけで生活しています。ドイツに住んでいるので、家賃も高くないですし。
ーードイツからルクセンブルクに「海外通勤」できるものなのですか?
家からクラブハウスまで2時間かかりますけど、家賃を考えたらドイツから通う方が圧倒的に安いです。車があればいいんですけど、買う余裕はないですね。チームメイトは車で通っている人が多いです。サッカーに限らず、仕事しに来て自国に帰る人は多いです。
ーールクセンブルクの家賃ってどのくらい高いのですか?
900ユーロ(約11万3000円)出さないと普通のアパートが住めないくらいです。シェアハウスでも日本円で7、8万するし。ドイツだと3、4万で住めるのに。
ーーチームメイトとはどうやってコミュニケーションを取っていますか?
ルクセンブルク人は英語、フランス語、ドイツ語、ルクセンブルク語と4ヶ国語喋れますね。ドイツ人はドイツ語と英語ですね。ただ、フランス人は英語喋らない場合が多いです。
いつかは大観衆の中で
ーー自身のプレーの特徴は?
日本にいた時は、ボランチで運動量やボール奪取とかで違いを見せるタイプでした。ルクセンブルクに来てからは、チャンスメイクやゴールに直結する働きを任されています。ボランチでこのチームに入ったはずなのに、今のチームでは右サイドハーフが主戦場です。ボランチにはルクセンブルクのレジェンド選手と監督の娘の彼氏がいて、そいつらが絶対出るんです。後者はPKを連続で外していても試合に出続けるし、理不尽な気はしますがやる気をなくしていてもしょうがない。求められていることをやるしかないし、プレーの幅が広がったって意味では良かったかもしれないとポジティブに捉えることにしています。ドリブルとかは磨きがかかったと思いますし。
ーー趣味は?
カフェで読書とか、音楽鑑賞です。よく聴くのはジャズです。あとは情報収集ですかね!(笑)
ーー情報収集とは?
Instagramで可愛い女の子を見たり(笑)。可愛い子を見て、「サッカーとかビジネスの世界から成り上がったらこういう人たちと遊べるんだろうな」って想像を膨らませてモチベーションにしています(笑)。
ーー(笑)。読書はどんな本を?
ホリエモン(堀江貴文)さんとか、ビジネス系で成功した人の本ですね。「やっぱみんな苦労してるんだなあ」って読みながら思います。読むと「自分も頑張ろう」って思えるんですよね。すぐに内容は忘れるんですけど(笑)。
ーー将来的に行きたい国やクラブは?
ルクセンブルクよりも大きな国、例えばポーランドとかに行きたいとは思っています。それかオランダやベルギーの2部。ルクセンブルクは人口がそもそも少ないので全然観客いませんし、とにかく大観衆の中でやりたいですね。
ーー応援しています!
INFORMATION
土橋優樹(Yuki Tsuchihashi)
6歳時に、兄の影響でサッカーを始める。川崎フロンターレユース、法政大学を経て昨年1月にルクセンブルク2部のUMAに加入。UMAでの活躍が注目され、昨年7月に1部のUNAシュトラッセンに移籍した。1995年4月20日、茨城県出身。