フィットネス界トレンド2025版。さようなら有酸素運動、こんにちは筋トレ?

フィットネス界トレンド2025版。さようなら有酸素運動、こんにちは筋トレ?
2025年春、私が通う『LA Fitness』チェーンの最寄りジムが大がかりな模様替えを行いました。それまでバスケットボールのコートだったスペースがすべてウェイトトレーニングのスペースに変わったのです。中央にフリーウェイト用のスクワット・ラックが10個、周囲の壁にはレッグプレスなどの各種マシンが並んでいます。それまで3台しなかったベンチプレス用のベンチも倍の6台に増設されました。
私はこのジムにもう20年以上通っています。水泳プール、トレッドミルやエアロバイクなどの有酸素運動、ヨガやピラティス、ラケットボールのコートなど、ありとあらゆる種類の運動ができる総合施設です。そのことに変わりはありませんが、今回の模様替えによって、筋トレを行うための器具やスペースが占める割合が大幅に増えました。
おかげで心置きなく筋トレができるようになりました。スクワット・ラックの前で順番を待つことも、筋トレ中に「あと何セットやるの?」「バーベルをシェアしてくれない?」などと訊ねられることもなくなりました。私個人にとっては大変ありがたいことなのですが、このような変化はアメリカ全体で起こっているようなのです。
ジムの主流は有酸素運動から筋トレへ
ひと昔前まで、アメリカでもジムでの運動といえば有酸素運動が主流でした。ランニング、エアロバイク、ステアクライマー、あるいはエアロビなどのことです。これらは心肺機能を高める優れた運動ですが、ダイエットのために脂肪を燃やす手段としても人気がありました。
しかし昨今では、多くの人々の関心がバーベルやダンベルを使った筋トレへと移行しています。調査会社IBISWorldの2025年レポートによると、アメリカ国内のジム利用者のうち、主な目的が「筋トレ」である人は全体の約58%にのぼります。これは過去10年間で最も高い数値となっています。一方で、有酸素運動を主な目的とする層は、2015年の46%から2024年には29%へと大幅に減少しています。
筋トレ人気の上昇は全世代的な傾向でもあります。Z世代やミレニアル世代といった若い層はもちろん、私のような中高年世代も熱心に筋トレに取り組んでいます。さらに、以前よりバーベルを挙げる女性の姿もずいぶん増えてきたように感じています。
特に人気なのはスクワットやヒップスラストなど下半身を中心としたメニューです。これらは見た目の変化だけでなく、日常動作や姿勢の改善にもつながることから、年齢や性別を問わず多くの人に支持されています。その代わり、かつては筋トレの代名詞的存在だったベンチプレスなどの上半身を鍛える種目はやや下火になった感があります。
変わる「理想の体型」と心理的効果
この筋トレブームの背景には、人々が好ましいと感じる身体像の変化が大きく作用しているように思います。かつては“細く痩せている”ことが美しさの象徴でしたが、今では“強く引き締まった”身体が新たな美の基準となりつつあるのではないでしょうか。
InstagramやTikTokでは、「#strongisbeautiful(強さは美しい)」「#liftlikeagirl(女の子ならウェイトを挙げよう)」といったハッシュタグが流行しています。これは単なる美意識の変化かもしれませんが、筋トレによる自己肯定感の高まりや、心身の健康への投資という側面も見逃せません。
アンチエイジングから生活習慣病の予防まで、筋力を強化することによる健康効果は広く認知されてきました。さらには、筋トレの効果は、身体の変化だけに留まりません。扱える重量の増加、筋肉の成長、そして「昨日の自分を超える」実感──これらは自己肯定感や達成感をもたらし、メンタルヘルスにも好影響を与えます。
また、筋トレには一定のルーティンと集中が求められるため、日々のストレスから離れて自分と向き合う時間にもなります。重いバーベルを持ち上げることで、逆に心が軽くなるというのは、多くの筋トレ愛好者が語る共通の体験です。
むろん、物事には必ずポジティブな側面とネガティブな側面があります。極端なダイエットや拒食症のように、筋肉質な身体に拘り過ぎて心身の健康バランスを崩す「筋肉醜形障害」の危険性も指摘されるようになりました。
何はともあれ、ジムの風景は確実に変わりつつあります。トレッドミルやエアロバイクなどの有酸素運動器具が静かに空き、スクワット・ラックが常に埋まっているという現象が珍しくなくなってきました。私が通うジムのように、筋トレ用のスペースが占める割合を大きくするジムは増えていくでしょう。
これが単なる一過性の流行で終わるか、あるいは身体観・価値観・生活スタイルの大きな変化をもたらすは、まだしばらくの年月が過ぎてみないと判断はできません。
個人的には、筋トレが一部の筋肉フリークが取り組むものではなく、誰もが日常に取り入れられる習慣になったことを好ましく感じています。アメリカで起きたことが日本でも同じように起きるとは限りませんが、私には国や文化を超えた普遍的なトレンドのように思えます。