プレミアリーグの応援ソング「チャント」はコミュニケーションだ!

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プレミアリーグの応援ソング「チャント」はコミュニケーションだ!

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イングランドのセンスが光る即興チャント

イングランドプレミアリーグの試合を観ていると、実にさまざまな「歌」が聞こえてきます。クラブ側が流す公式なものでは、リバプールのホームスタジアム、アンフィールドで試合前に流れる“You’ll Never Walk Alone”や、エティハドスタジアムでマンチェスターシティが勝利するとかかる“Blue Moon”をTV中継で耳にしたことがある方も多いかもしれません。クラブを象徴するこうした「公式ソング」は、試合中、勝利を確信したファンがアカペラで大合唱することも多く、感動的な雰囲気を生み出してくれます。


11-12シーズン、マンチェスターユナイテッドに勝利して流れる“Blue Moon”と“Hey Jude”

“Blue Moon”は試合前にも少し流れます。マスコットの名前も“Moonchester”と“Moonbeam”

“Blue Moon”は試合前にも少し流れます。マスコットの名前も“Moonchester”と“Moonbeam”

しかし、「いかにも」なイングランドらしさがより一層味わえるのは、スタジアムで自然発生的に歌われる、「チャント」と呼ばれる短い応援ソングかもしれません。たとえば、アーセナル在籍時代のロビン・ファン・ペルシー選手には、その得点力を称えるこんなチャントが歌われていました。

He scores when he wants♪
He scores when he wants♪
Robin van persie♪
He scores when he wants♪

<訳>
彼はいつでも好きな時に得点する♪
ロビン・ファン・ペルシー、彼はいつでも好きな時に得点する♪


11-12シーズンのリバプール戦、セットプレーで得点を期待して歌われる“He scores when he wants”

優勝から遠ざかっていた当時のアーセナルにとって、ファン・ペルシーは救世主のような存在。チャントにも、彼を称賛する気持ちが溢れています。そして、チームを代表する選手に歌われるこうしたチャントは、他のチームのサポーターにもよく知られています。すると、何が起こるでしょうか?

アーセナルでの最終年、得点王となったファン・ペルシーは、アーセナルを去り、マンチェスター・ユナイテッドに移籍してしまいました。キャプテンでもあった彼を引きとめられなかったことで、アーセナルファンは落胆するやら怒るやら。そんな失意のアーセナルファンに向けて、次シーズンの開幕早々、試合中に相手サポーターから歌われたのはこんなチャントでした。

He moves when he wants♪
He moves when he wants♪
Robin van persie♪
He moves when he wants♪

<訳>
彼はいつでも好きな時に移籍する♪
ロビン・ファン・ペルシー、彼はいつでも好きな時に移籍する♪

込められた意味は、「お前らが弱いから、ファン・ペルシーも移籍しちゃうんだなあ!」。実は、相手を揶揄するこうしたチャントはイングランドのお家芸。スタジアムに集まるサポーターは、味方を称賛するチャントを歌うのと同じくらい、ライバルをおちょくることに情熱を燃やしているのです。

ちなみにこのチャントにはまだバリエーションがあります。マンチェスター・ユナイテッドに移籍後も得点王となる活躍を見せたファン・ペルシーですが、それでも調子の悪い日はあるもの。彼が出場したのにこれといった活躍ができずにいる試合で飛び出したのは、同じメロディでもこんな内容でした。

He should have been dead♪
He should have been dead♪
Robin van persie♪
He should have been dead♪

<訳>
彼、死んでるんじゃないの?♪
ロビン・ファン・ペルシー、彼、生きてる?♪

こうしたアレンジは基本的に即興で、誰が歌い出すともなく始まるもの。イングランド人のセンスには驚かされるばかりです。

煽ってナンボ!のアウェイサポーター

上に紹介したアーセナルやファン・ペルシを揶揄するチャントは、アウェイサポーターからホームサポーターに向けて歌われたものです。プレミアリーグで元気いっぱいなのは、絶対的にアウェイサポーターのほうなのです。人数は少なくとも、敵地に乗り込んでまで応援しようという精鋭集団だからでしょうか。ホーム席ではよほどのチャンス以外、席を立って観るファンはいませんが、アウェイ席は全員立ちっぱなしというのもよくある光景です。

そんなアウェイサポーターの定番チャントといえばこちら。

Shall we sing a♪
Shall we sing a♪
Shall we sing a song for you♪
Shall we sing a song for you♪

<訳>
歌ってやろうか?♪歌ってやろうか?♪
アンタらのかわりに応援歌を歌ってやろうか?♪


エティハドスタジアムで“Shall we sing a song for you”を歌うトッテナムサポーター

chant3

チャントの応酬が始まると、サポーター同士が向き合ってやりあう展開に。誰も試合を見ていません!

黙っておとなしく試合を観ているホームサポーターに対して、立ちっぱなし歌いっぱなしのアウェイサポーター。余計なお世話とはこのことですが、アウェイサポーターのテンションは止まりません。ちなみに歌うときに体を向けているのはホーム席。もう試合そっちのけです。

さらに、普段から「ファンが熱くて雰囲気抜群」とされているスタジアムでは、こんなチャントが歌われることも。メロディーは上の“Shall we sing a”と同じです。

Where’s your famous♪
Where’s your famous♪
Where’s your famous atmosphere♪
Where’s your famous atmosphere♪

<訳>
キミらの有名な♪キミらの有名な♪
キミらの素晴らしいと有名な雰囲気はどこいっちゃったの?♪

このチャントが聴ける代表的なスタジアムといえば、リヴァプールの本拠地アンフィールドや、ニューカッスルのセント・ジェームズ・パーク。どちらもホームサポーターの熱さでは定評のあるスタジアムですが、ホームチームが劣勢でサポーターが沈黙してしまったりすると、ここぞとばかり歌われるのがお約束です。

冬も半袖の男たちが熱く歌うセント・ジェイムズ・パークは“famous atmosphere”の代表格

冬も半袖の男たちが熱く歌うセント・ジェイムズ・パークは“famous atmosphere”の代表格

ライバルクラブは「おいしい」ネタの宝庫

揶揄するといえばもう一つ、外せない存在がライバルクラブです。他の各国リーグ同様イングランドにおいても、ライバル意識が最も強いのはお隣クラブ。たとえばアーセナルとトッテナムは同じノースロンドンに本拠地を持つライバル同士で、両者の対戦はノースロンドンダービーと呼ばれ、プレミアリーグで最も熱いカードの一つとされています。当然、ダービーでの勝利はクラブにとっても非常に価値あること。トッテナムでは、アーセナルに勝つと記念にDVDに収録して販売する、ということが続いたのですが、これをアーセナルサポーターが見逃すはずはありません。ノースロンドンダービーでアーセナルがリードすると、意気揚々とこんなチャントが歌われました(メロディは上の2つと同じです)。

Shall we make♪
Shall we make♪
Shall we make a DVD♪
Shall we make a DVD♪

<訳>
作ってあげようか?♪
DVD、俺らが作ってあげようか?♪

「キミたちの大好きなDVDを、アーセナルが代わりに作ってあげようか?」。トッテナムがダービーに勝つたびにDVDを作っているのを知っているからこそのチャントです。相手の行動を逐一チェックしている様子には、もはや愛すら感じるほど。

さらに直接揶揄するだけならともかく、他の対戦相手との試合でもトッテナムを織り込んだチャントを歌うのがアーセナルサポーター。試合にリードし、比較的余裕があるときなどはこんなふうに歌います(こちらもメロディは同じ)。

Are you Tottenham♪
Are you Tottenham♪
Are you Tottenham in disguise♪
Are you Tottenham in disguise♪

<訳>
キミたちトッテナム?♪
キミたち、本当はトッテナムなんじゃないの?♪

トッテナム=弱いと決めつけた上で、その日の対戦相手を弱い者扱いし、「キミたちまるでトッテナムだね!」と歌うという、二重三重に失礼なチャントです。しかしこういうチャントが問題になるということがないのがイングランド。なぜなら、やられた方だってやり返すからです。たとえば“Robin van persie♪He moves when he wants♪”というように。

相手のことは徹底的におちょくるけれど、そこにはどこかおもしろさがある。そして、「やられた!」と思ったら、相手以上におもしろくやり返す。プレミアリーグのスタジアムで聞こえるチャントは、イングランドのユーモアセンスが詰まった、サポーター同士のコミュニケーションツールでもあるのです。


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