自転車競技・橋本英也選手 ー「オリンピック」という山をもう一度登りたいー

自転車競技・橋本英也選手 ー「オリンピック」という山をもう一度登りたいー WATCH

自転車競技・橋本英也選手 ー「オリンピック」という山をもう一度登りたいー

スポーティ

4年に1度開催されるオリンピック。出場するアスリートたちはその日に向けて、日々努力を積み重ねます。しかし不幸にも、オリンピックの大舞台で思うような結果を残すことができなかったアスリートは、決して少なくありません。 

3年前の東京オリンピックで橋本英也選手は、メダルを期待されたオムニアム*1に出場するも、15位という結果に終わります。そのレース終了後には、ショックで疲れ果てた様子のコメントを残していた橋本選手。しかし、今回橋本選手はチームパーシュートとマディソンの2種目で、再びオリンピックに出場することになりました。
この記事では、東京オリンピックの後、パリオリンピックを目指すことを決断した経緯も含めて、橋本選手に話を聞くことができました。

TOP写真:今年4月に開催されたJBCF東日本ロードレースクラシックで優勝した橋本選手(写真右)。提供:JBCF実業団連盟、BSC

*1:オムニアムとは、1人のサイクリストがスクラッチ・テンポレース・エリミネーション・ポイントレースという4種目を走り、それぞれの種目に課されたポイントで勝敗を競うレースです。最も高いポイントを得た選手が優勝となります。

東京でのショックから、パリを目指すまで

ーーパリオリンピックの目標を教えてください。

橋本英也選手(以下、敬称略)「自分が出場する種目で金メダルを獲得する、ということが第1目標になります。チームパーシュート*2 とマディソン*3の2種目に出場しますが、どちらかで金メダルを取りたいです。」

*2:チームパーシュートとは、団体追い抜きとも呼ばれます。1チーム4人の選手が、先頭交代をしながら4㎞を走り、各チームで3番目にゴールした選手のタイムが、そのチームの持ちタイムとなります。予選と本選に分けて行われ、予選タイムトライアル形式の予選で上位8チームが本選に進みます。本選は2チームがホームストレートとバックストレートに分かれて同時にスタートする、対戦方式となります。

*3:マディソンとは、2人1組で交代しながらトラックを長い距離にわたり走るレースです。周回ごとにポイントが設定され、上位で通過するほど高いポイントが加算されます。レース終了時に、そのポイントが最も高いチームが優勝し、選手の交代時のハンドスプリングと呼ばれる動作が見ものです。

ーー先の東京オリンピックではオムニアム15位ということで、悔しい思いをされたことと思います。東京オリンピックの時と比較して、今回のパリオリンピックに向けて、心境的に何か違いはありますか。

橋本「心境的な違いという面でみると、前回と比較して、今回はより落ち着いた状態で競技に臨めていると思いますし、トレーニングにもより集中できている感じがします。というのも、東京オリンピックの時は、コロナ禍での開催ということもあり、いろいろなものに振り回されてしまったな、と感じていました。
今回のパリオリンピックは、一度オリンピックに出たことがよい経験になっているのか、前回以上に競技にフォーカスして準備ができていると思っています。」

ーー東京オリンピックが終わった後には、「どこか自然のあるところで、ゆっくり自転車に乗りたい」と話していたくらい、ショックで疲れ果てていたようですね。そこから、またオリンピックを目指すまで、どのような気持ちの変化があったのでしょうか。

橋本「東京オリンピックが終わった直後は、正直に言って、かなり沈んでいました。レースの結果も良くなかったですし、オリンピック前に自分が描いていたプランと、実際に自分が経験した現実があまりにも違っていたので、強烈なショックを受けていました。自分でもその時のことをよく憶えていないくらいなので、本当にショックだったのだと思います。
東京オリンピックが終わり少し時間が経ってから、「自分はもう一度オリンピックという山を登るのか、あるいは登らないのか」ということを考えました。その時自分が出した答えが、『もう一度、オリンピックという山を登りたい』というものでした。そう思った最大の理由は、東京オリンピックが自分にとって悔いの残る形で終わってしまったのことにあります。次のパリでは、オリンピックを嬉しく終わりたいと思ったんです。
また、オリンピックを目指すにあたり、ブリヂストンをはじめ、様々な方が私をサポートをしてくださいました。環境にも人にも恵まれていて、本当にありがたいです。そうしたサポートに応える意味でも、オリンピックで結果を出したいと考えて、パリを目指すことにしました。」

パリではチームパーシュートとマディソンの団体戦でメダルを目指す橋本選手(写真中央)。提供:JBCF実業団連盟、BSC

チーム種目でオリンピックに挑める喜び

ーー東京オリンピックにおいて、チームブリヂストンの選手は、橋本選手のように悔しい思いをされた選手が多かったと思います。そうした共通の悔しい経験が、今回のパリオリンピックに向けてチームブリヂストンの皆さんの意識を高めたようなことはありますでしょうか。

橋本「今回チーム種目でオリンピックの出場枠を獲得できた原動力の1つは、東京オリンピックでチームが悔しい経験したから、とも言えると思います。
前回の東京オリンピックで、男子の中距離競技で出場したのは私1人だけでした。でも今回は、チームパーシュートとマディソンという2つの団体競技でオリンピックに出場することができ、チームブリヂストンから3人の選手が出場することになりました。 
チームパーシュートとマディソンで日本がオリンピックに出場するのは、今回が初めてになります。そうしたこともあり、今回はチームとしてオリンピックに出場できるという雰囲気が非常に強いですし、いつも走っているメンバーとオリンピックという大舞台を走れるというのは、非常に心強いです。」

ーー東京オリンピックでは、トラック競技で思うような結果が出なかったということですが、橋本選手はロード・競輪・トラック競技の三刀流 のサイクリストです。パリオリンピックをロードで狙うことは考えませんでしたか?

橋本「全く考えていませんでした。というのも、ロードで出場枠を獲得するのはトラック競技よりも難しそうでしたし、もし出場枠を取れても、オリンピック本番でメダルを獲得するのはほとんど不可能だろうと考えました。
また、前回私は個人競技のオムニアムでオリンピックに出場したので、パリでは団体競技でオリンピックに出たいと思っていました。チームのみんなでオリンピックに行きたいという気持ちが自分の中で強かったこともあり、自分がロードでオリンピックを目指すことは全く考えませんでした。
だから、今回は団体種目でオリンピックを走ることができて、本当に嬉しいです。」

2つの団体種目でオリンピックに出場できることを喜ぶ橋本選手。東京オリンピックでの悔しさを経験に変え、今回のパリオリンピックで日本チームを引っ張る橋本選手の目には、金メダルへの道筋がしっかりと見えているような印象を受けました。