ゆるスポーツは究極のアナロジー 〜「ゆるスポーツ」と「ガチ」のスポーツトレーナーが出会った〜
DOゆるスポーツは究極のアナロジー 〜「ゆるスポーツ」と「ガチ」のスポーツトレーナーが出会った〜
「スポーツ弱者をなくす」ことをミッションに、これまでになかった新しいスポーツの開発・普及に取り組む「世界ゆるスポーツ協会」。すでにおなじみとなったバブルサッカー以外にも、ハンドソープボール、ゾンビサッカーといったスポーツを、続々と世に送り出しています。
そんなゆるスポーツ協会に、ある方からハンドソープボールのアンバサダーを務めている東俊介氏を通じてコンタクトがあり、「ぜひ話を聞きたい」ということで今回の対談が実現しました。その方こそ吉澤雅之氏(以下吉澤氏)です。吉澤氏は知る人ぞ知るガチのスポーツトレーナー。全国的な強豪校やトップアスリートを顧客に持つ、ガチのスポーツトレーナーです。指導時に全身タイツを着用していることから「タイツ先生」という異名でも知られています(誰が言ったか定かではありませんが「力道山」「江頭2:50」と並び、日本三大タイツと称されることも)。
そんな「ガチ」な人物がなぜ、「ゆる」スポーツに興味を持ったのか。ゆるスポーツ協会会長 澤田 智洋氏(以下澤田氏)との対談を通じて、両者の意外な共通点が明らかになりました。
ハンドソープボールと動きのアナロジー
ーー今回はゆるスポーツについての対談ということで、まずは澤田さんの方から、ゆるスポーツとは何か、またこれがスタートした経緯について教えてください。
澤田氏:ゆるスポーツ協会が発足した経緯を話しますと、私の小学生時代まで遡ります。当時運動神経バツグンで足が速く、周りからちやほやされている同級生がいました。一方僕は学年で下から2番目に足が遅く、勉強はできたけどモテなくて。小学生のときに運動ができないというのは、まるで人間性を全否定されているような気持ちになるわけです。
そうしたコンプレックスが大人になってからも拭えなかったんです。社会人になってからも、キラキラしている人はフットサルやマラソン大会に参加したりしていますが、僕はそういうのがとても苦手でした。フットサルはミスすると怒られるし、マラソンも長いし楽しそうじゃない。こうしてスポーツを敬遠して生きてきたのですが、同じようにスポーツを敬遠してきた人が、高齢者や障害を持っている人も含めて、実はたくさんいるということに気がついたんです。
苦手意識を持っている人がたくさんいる一方、一部の限られた人だけが得をしている。現代のスポーツはそんな非常に偏った状況だと感じていました。こんな状況はいやだな、誰でも平等に楽しめるスポーツはないか、僕でもその同級生に勝てるようなスポーツはないかと考えたときに生まれたのが、「ゆるスポーツ」だったんです。
吉澤氏:私はこのゆるスポーツの「ハンドソープボール」というものを見たときに、「一体これはなんなんだ!?」と非常に驚いたわけです。
私はずっと体育はオール5で、まさに澤田さんの同級生と同じようなタイプでした。ずっと野球をやってきて、高校では県内の強豪校に入りました。私を含め、運動が得意な子が大勢いるような学校です。それなのに、明らかに次元が違う人がいるんです。例えばひとつ上にはプロで活躍した広澤克実さんがいました。それで私は何を思ったかというと、「やっぱり俺は下手だ」と。今澤田さんがお話したスポーツにおける不平等さという点を、私も味わってきたわけです。
それで私はどうしたかというと、辞めちゃったんです。
澤田氏:そうなんですか!?
吉澤氏:はい。卒業と同時にキッパリと野球を辞めちゃいました。自分が下手すぎるのが嫌で、関わりを断ってしまったんです。でも身体を動かすのは好きだったので、ボクシングやサーフィン、テニスとか色々やりました。で、自分もそれなりにできるようになるのだけど、やっぱり明らかにもっと上手い人がいるわけですよ。そこでようやく分かったのは、自分は下手なのではなく、何かが違うだけだということです。そしてついに「やり方が違う」ということに気づいたんです。環境に対する捉え方、情報のインプットとアウトプットが人とは違うということなんです。
そして私はトレーナーとして、今何をしているかというと、上手なやり方を伝えようとしているわけです。動き方のアナロジーを探しているんです。たとえばウサイン・ボルトの走りは地面反力をバネのように使っていますけど、一本歯下駄を履いて走るとそれと近いことが起こりますよとか、東さんのキャッチングは石けんでつるつるのボールをキャッチする動きに似ていますよとか、ある意味で澤田さんと同じようなことを元々やってきたわけです。だから最初に東さんにハンドソープボールを教わったときに、「なんだこれは、素晴らしいアイデアだ!」と思ったわけです!
澤田氏:ありがとうございます! 吉澤さんは動きのアナロジーとして、すでにゆるスポーツ的な動きを取り入れていらっしゃったんですね!
ハンドソープボールは人類にとって最高レベルの筋出力の方法を導いてくれる
ーーハンドソープボールのどこが良い点なのか、具体的に教えていただけますか?
吉澤氏:たとえばこのシュートを打つ場面。全身をしならせてシュートを打っているでしょう? ハンドソープボールだと、ボールが滑って力が上手く伝わりません。手投げにならず、地面の力を体幹を通して力を伝えています。結果ハンドボールのトップ選手の動きになっているんです。
またキャッチングにしても、ボールが滑るから身体の正面で確実にキャッチしたいわけです。そのためには、ポジショニングを速く正確にしなければなりません。こうした練習は「トップ選手こそやるべきだ」と思いますね。これができればハンドボール日本代表はヨーロッパにも勝てますよ!
澤田氏:環境設定という点で言うと、僕は逆のアプローチで「ボルトのように走ろうではなく、運動音痴のように投げよう」なんです。僕みたいなタイプの人間が、安心してスポーツできる環境を整えようという意図があるんです。
吉澤氏:とんでもない! この環境は地球の重力がある中で、最高レベルの筋出力の方法を導いてくれると言っても過言ではありません!
澤田氏:ほかのゆるスポーツはどうでしょうか? ボールに強い衝撃を与えると音(赤ちゃんの鳴き声)が鳴る「ベビーバスケ」というものがあります。
吉澤氏:これも素晴らしいですね。ボールの勢いと体重移動を全身で受け止めざるを得ない環境設定になっていて、トップ選手と同じ運動神経と言えるでしょう。この動き方が身についたときに、非常に早いステップワークが身につくと思いますよ。赤ちゃんというテーマ設定自体も非常にいいですね。
澤田氏:それでは100cm走なんてどうでしょう? どれだけ遅く100cmを走り切るかを競う競技なんです。
吉澤氏:中国拳法に、立ったままというトレーニングがあります。站椿功(たんとうこう)というのですが、1時間やってみてください、絶対できませんよ。要するにインナーマッスルのトレーニングですよ。どんなスポーツでも、不安定な状況で常にバランスをとりながら運動しているんです。そのための身体の調整力を高めるトレーニングにうってつけですよ。
「ゆる」と「ガチ」。それぞれが真剣に考えた結果
吉澤氏:環境設定、インターフェイスやその伝え方、ほんとうに素晴らしいです。ぜひトレーニングとして取り組んだり、より多くの人に体験してほしいですね。
澤田さんは「上手い人も下手な人と同等になってしまう」という、抑制的なアプローチでこのゆるスポーツを作ったわけですが、私の場合はトップ選手の動きを身につけるための環境設定を考えています。しかし結果同じ地点に着地していますよね。
澤田氏:まさか「ゆる」スポーツが、「ガチ」なスポーツにも役立つものになっていたとは、思いもよりませんでした。先生と一緒にゆるスポーツを作ってみたくなりました。一本歯下駄を使ったものとか、アイデアが無限に湧いてきそうです。
吉澤氏:私自身、トレーナーとしてスポーツや武道に取り組む方々が成長してくれることが何よりの喜びです。昨日より今日、今日より明日と、少しでも上手くなっているという実感があると、また新しい課題が見つかります。全員がそのリズムを見つけてくれたらなと考えています。そのための「アナロジー」を伝えるために、ゆるスポーツを活用させていただきたいですね。
澤田氏:そこまで言っていただけて光栄です。本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!
吉澤氏:こちらこそありがとうございました!