馬術の魅力を林伸伍選手が徹底解説! 競技の見どころは?
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前回の記事「馬術の魅力を林伸伍選手が徹底解説!」では、オリンピック種目の概要と、馬術に必要な能力について林伸伍選手に伺いしました。
今回も引き続き林伸伍選手に、種目別の見どころ・強豪国・注目選手などについて解説してもらいます。
INFORMATION
林 伸伍選手 Profile
1985年札幌市生まれ。
伯母が乗馬クラブで働いていた影響で3歳から乗馬を始める。
2014年:仁川アジア大会団体銀メダル獲得。
2014年・2016年・2018年:全日本馬場馬術選手権優勝。
2018年世界選手権日本代表。アイリッシュアラン乗馬学校でインストラクターとして指導する一方、定期的にドイツでトレーニングを行い、東京オリンピック出場を目指す。
Twitter:@hayashingo0125
Instagram:https://www.instagram.com/hayashingo0125/
初観戦でも楽しめる馬術の種目別見どころを解説!
ーーまだ馬術を見たことがない方向けに、種目別の見どころを教えていただきたいと思います。まず、障害馬術はどんな点に注目すると良いでしょうか?
障害馬術は、馬がものすごいスピードで走りつつ、「馬がそんなに高く飛べるの!?」と驚くほどの高さで、障害物を連続で越えていきます。減点とタイムで決着がつくので、勝敗がわかりやすい種目です。さらに知った上で見てほしいのは、馬の動きは人間が完全にコントロールしているということです。
ーー「馬の動きを人間が完全にコントロール」するとはどういうことでしょう?
人間が正しく導いてあげないと、馬は障害物を越えることはできません。
馬が速く走っているとき、馬のバランスは前にかかっています。ところが、障害物を飛ぶときは、馬が一度後ろ脚に力をためる必要があります。ビューンと前に走っている状態から、馬が障害物の前でそのままジャンプすることはできないんです。じゃあどうしているかというと、「選手が馬の走り方や歩幅の感覚を掴みながら、障害物を見て指示を出しつつ走り方を調整し、踏切地点を合わせる」ということをしているんですね。それを知った上で見てもらえると、馬との息がぴったりあっていることをより感じられるのではないかと思います。
ーー選手が指示を出して、はじめて障害物の前できちんと踏み切れるのですね。馬場馬術の見どころはどこでしょうか?
馬場馬術は、馬が横に進んだりスキップしたり回ったり、いろいろな演技をします。「馬ってこんな動きもするんだ!」という驚きがあり、見ていて面白いと思います。選手は、「いかに人間がやらせている感を出さずに、馬が自分で踊っているように見えるか」という点にこだわっているので、観るときもそこに注目してほしいですね。
ーー確かに動画を見ると、馬が自分の意思で動いているように見えます。実際は全て選手の指示なのですよね?
もちろんそうです。選手は手足だけでなく体重の使い方も含めて、全身を使ってたくさんの指示を馬に出しています。でもそうは見えないですよね。
もし「人間がやらせている感」が出ると、人間の動きが大きくなります。例えば「走る速度を落とす指示」を出したとき、人間の動きとともに馬が突然減速したのではあからさまです。ところが、人の動きは最小限なのに、馬がスムーズに走る速度を落とすことができれば、馬が自然と歩みを緩めたように見えるのです。
これを知った上で演技を観ると、人と馬との関係性が演技から透けて見えてくるのではないかと思います。馬場馬術は、馬の動きをある程度予習しておいたほうが楽しめるかもしれません。ネットで検索しても良いですし、僕のtwitterでもいろんな動画をあげているので、ぜひ見てみて下さい。
ーー総合馬術は3日間行われますが、見どころはどこでしょうか?
2日目のクロスカントリーです。自然の中を馬が走る姿はパワフルで感動します。実はこのクロスカントリーのコース、選手は前もって見学できるのですが、馬は自分の番が来るまで知らされないんです。
ーー馬はぶっつけ本番ということですか!?
そうなんです。だから馬は選手のことを信頼していないと飛べないので、馬と人の固い信頼関係が必要です。障害馬術も馬場馬術もやらなくてはいけないので、馬の能力という意味でも「総合」的な強さが求められる種目ですね。
馬術の強豪国はヨーロッパ・アメリカ。日本は総合馬術・大岩義明選手のメダルに期待!
ーー馬術の強豪国はどこでしょうか?
ヨーロッパ全域とアメリカです。乗馬が文化として発達している国が強いですね。
ーー世界の注目選手を教えてください。
障害馬術や総合馬術は順位が激しく変動しますが、馬場馬術は、ドイツのイザベル・ワースという女性の選手が圧倒的に強いです。
馬術の世界ランキングは、人と馬のコンビで順位付けされるのですが、イザベル選手は、6位までに3頭の馬とのコンビでランクイン*¹しているんです。どんなタイプの馬でも乗れるのがすごいところです。これまでオリンピックには5回出場していて、金メダルは6つ獲得していますね。
*¹ 2019年4月3日時点
ーーそれは圧倒的な強さですね。オリンピックに5回出場しているということは、それだけ年齢も重ねているということですか?
そうなんです。イザベル選手はもうすぐ50歳なのですが、5〜60代でもオリンピックを目指している馬術の選手は世界中にいるので、珍しいことではありません。それだけ経験が必要な競技ということだと思います。
ーーでは次に国内の注目選手を教えてください。
今もっともメダルに近いのは、総合馬術の大岩義明選手です。個人はもちろん、団体でも表彰台の可能性があります。大岩選手は去年、世界馬術選手権で戦後最高の団体4位になりました。その前のジャカルタアジア大会では個人・団体ともに金メダルを獲得。この種目で大岩選手はアジアトップで、世界的にも有名です。僕の大学時代の先輩でもあるので、ぜひ応援して欲しいですね。
いざ本番へ!トレーニングで築いた「馬との絆」で乗り越える
ーー完璧に練習をしていても、本番で失敗してしまうこともあると思います。そうならないように、本番ではどのような配慮をしているのでしょうか?
馬もベテランになると何事にも動じなくなり、頼りがいが出てくるのですが、経験の浅い馬は人間以上に緊張してしまいます。演技をしている最中も、馬の状態は刻一刻と変わるんです。
「今馬はこう思ってるな、こういう状態なんだな」と感じるアンテナを立てて、馬に合わせた乗り方や指示をする必要があります。
ーー「馬の状態」というのは、どのようにわかるのでしょうか?
自分が出した指示に対する反応のスピードや、馬の口と手がつながっている手綱の感触。あとは馬の背中から伝わってくる…なんて言うんですかね、空気みたいなものがあるんですよ。「そわそわしてるな」「ちょっとやる気ないな」「疲れてるな」とか。馬や乗る日によって、全然違うんです。
これはいきなり新しい馬に乗ってもわかりません。人間の経験値が高ければ馬を理解するのも早くなりますが、基本的には同じ馬に乗りつづけているうちに、だんだんわかるようになります。
ーー馬がパニックになってしまったら、どうするのですか?
馬との信頼関係が不十分な状態で馬がパニックになると、どうしようもなくなります。でも普段のトレーニングの中で人と馬の関係が確立していれば、ある程度そういう状態になってもなんとかなるんです。観戦するときは人と馬との関係性を意識して見てもらえると嬉しいですね。
林選手、解説ありがとうございました! 次回は、林選手についてたっぷりと伺います!