馬術の魅力を林伸伍選手が徹底解説! 馬術に必要な能力とは?
WATCH馬術の魅力を林伸伍選手が徹底解説! 馬術に必要な能力とは?
東京2020オリンピック大会競技種目の一つ、「馬術」。
馬に乗る競技ということは知っていても、何が競われているのか、どんなスキルが求められるのか、意外に知らない方が多いのではないでしょうか。
馬術は見どころさえわかれば、初心者でも十分に見て楽しめる競技です。今回は、馬場馬術の2018年全日本選手権覇者・林伸伍選手に、馬術の魅力を初心者向けに解説してもらいました。
INFORMATION
林 伸伍選手 Profile
1985年札幌市生まれ。
伯母が乗馬クラブで働いていた影響で3歳から乗馬を始める。
2014年:仁川アジア大会団体銀メダル獲得。
2014年・2016年・2018年:全日本馬場馬術選手権優勝。
2018年世界選手権日本代表。アイリッシュアラン乗馬学校でインストラクターとして指導する一方、定期的にドイツでトレーニングを行い、東京オリンピック出場を目指す。
Twitter:@hayashingo0125
Instagram:https://www.instagram.com/hayashingo0125/
フィギュアスケートにも似た馬術。オリンピック種目は全部で3つ
ーー東京オリンピックの競技日程が発表され、どの競技を観戦するか考えている方が多いと思います。競技の経験がない人でも、馬術は楽しく観戦することができるでしょうか?
もちろん観戦できます。馬の繊細な動きやダイナミックな動き、そして他競技にはない、人と動物が一体になって競う姿が印象に残ると思います。
ただ何も知らずに観るよりも、ほんの少し前知識を持って観るほうが、馬術は何倍も楽しむことができます。今日は馬術の観戦前にぜひ知っておいて欲しいポイントについてお話しします。
ーーありがとうございます。では早速、オリンピックで実施される種目の特徴から教えてください。
オリンピックで実施される馬術の種目は「障害馬術」「馬場馬術」「総合馬術」の3つです。
「障害馬術」は、障害物が設置されたコースの中をできるだけ早く・ミスなく走る競技です。障害物を越えるときにぶつかってバーが落ちたり、馬が止まったりすると減点になり、順位は減点の数とタイムで決まります。
「馬場馬術」は、野生の馬がやらないような動きを馬にさせて、その技の質や正確性を争う採点競技です。「規定演技」と「自由演技」があり、自由演技は選手が演技の構成をして音楽に合わせて行うので、よくフィギュアスケートに例えられます。
「総合馬術」は1日目に馬場馬術、2日目に「クロスカントリー」、3日目に「障害馬術」を行います。「クロスカントリー」は、自然の地形を活かしたコースを全力疾走する競技です。丸太や竹柵などのさまざまな障害物の中を、池に入ったり崖を降りたりしながらダイナミックに駆け抜けます。3日間これを一頭の馬で行います。
ーー種目によって大きく内容が異なるのですね。「総合馬術」は障害馬術も馬場馬術も含んでいて、マルチな力が求められそうですね。
そうですね。ただ「総合馬術」の中の障害馬術と馬場馬術は、それ単体の種目と比べると難易度が下がります。フィギュアスケートに例えるなら、4回転ジャンプが2回転ジャンプで済むようなイメージですね。
「馬との関係性」ができれば、野生の馬はしない動きができる
ーー馬術にはどんな能力が求められるのでしょうか?
どの種目にも共通して求められるのは「馬との関係性」を築くことですね。選手は競技中、手足を使ったり体重のかけ方を変えたりして体全体で指示を出します。「この動きをして欲しい時はこの指示が出る」という合意を、馬との間に作っていくんです。最初は馬も「なんのことやら」という感じなのですが、何度も指示を与えるうちにだんだんできるようになります。そうやって、馬場馬術であれば「横歩き」とか、野生の馬はやらない動きを教えていきます。
ーー野生の馬がやらない動きを、馬はどうやって習得するのでしょうか?
馬自身はどういう体勢が馬術としてベストなのかを知らないので、人間が「この体勢を維持したい」と思って乗ることで教えていきます。声で褒められたり、要求から解放されたりしたときに「これで良かったんだ」と馬は理解するので、その積み重ねで徐々に成長していきますよ。
ーー他にはどんな能力が必要ですか?
まずは「馬に乗る」ということですね。
ーー「馬に乗る」…というと、簡単そうに聞こえますが、難しいのでしょうか?
馬って乗っているだけでも結構大変なんですよ。馬の背中の動きを吸収できなくて、最初は体のいろんなところが痛くなると思います。
もし馬の上で人間のバランスが確立していないと、人間の指示が間違って伝わってしまうことがあるんです。そうならないように、馬の邪魔をすることなく、馬がどんな動きをしてもついていけるような、「乗る技術」が必要なんです。
ーーどうすれば馬の動きについていけるようになるのでしょうか?
ひたすら乗ることですね(笑)。馬の動きはかなり不規則なので、基本的には馬からしか学べないと思います。また、乗ることには馬のコンディションを整える意味もあります。馬のストレッチやトレーニングを人が乗りながら行うことで、人と馬両方が鍛えられ、乗れるようになっていきます。
「歩き方」と「性格」で馬を見極める
ーー馬にも馬術の向き不向きがあると思います。どのように馬を選ぶのでしょうか?
馬場馬術では特に『歩様』という馬の歩き方の質を重視します。
ーー馬によって歩き方が違うのですか?
全然違いますよ。歩き方がよくないと美しく見えないだけでなく、馬術特有の力の入れ方がうまくできません。馬の歩き方は、技の完成度や正確性以前に大事なことなんです。
見極めるには、「常歩(なみあし)・速歩(はやあし)・駈歩(かけあし)」という基本の歩きをやらせます。「常歩はいいけど速歩が苦手」というように、なかなか全てが完璧な馬はいなくて、どの馬も個性的です。
ーーどんな歩き方が良いのでしょう?
ペタペタしているよりも、ダイナミックな歩き方がいいですね。あとは滑らかであることも大切です。フィギュアスケートに例えるなら、動きがカクカクしているとあまり美しくないですよね?力強く、かつ滑らかな歩き方がベストです。
ーー歩き方の他には何を見ますか?
馬の性格ですね。馬ってもともと臆病な生き物なんです。例えば、競技場に人がたくさんいたり、花が置いてあったりすると、びっくりしてしまうことがあります。
場数を踏むことで、ある程度改善するのですが、そもそも人間に対して協力的な馬や、あまり受け入れてくれない馬、ドシッとしている馬、ピリピリした馬、鈍感な馬などがいて、馬の性格は本当にさまざまなんです。
繊細な馬だとキレのある演技ができるけど、パニックになりやすいといった弱点があったりします。馬の性格や状態に合わせて、トレーニングの内容や指示の出し方も変える必要があります。
ーー林選手はどうして馬の性格の違いがわかるのですか?
日頃から馬と過ごしているからだと思います。僕は3歳の頃から馬に乗っていますし、今も馬の世話をしながらトレーニングしています。経験なしに、いきなりわかるものではないですね。
林選手、ありがとうございました! 次回は、「馬術の種目別の見どころ」について、たっぷりとお伺いします。