補欠はいない。全員が試合に。一方で希望の部に入れない生徒も。部活トライアウトの功罪-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その2
WATCH補欠はいない。全員が試合に。一方で希望の部に入れない生徒も。部活トライアウトの功罪-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その2
日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動は、スポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。
部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。
私は2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。
米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。
前回記事>>日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART1-
すべての高校スポーツが3軍まで
ラグナヒルズ高校野球部には、部員が50名近くいます。しかし、全員が同じ場所に揃うことは滅多にありません。どの高校のどのスポーツでも大抵そうですが、レベルによって3つのチームに分かれているからです。
1軍チームにあたるのが、Varsity、2軍チームにあたるのが、Junior Varsity、そして3軍チームにあたるのが、Frosh と呼ばれていて、それぞれのチームが練習も試合も独自で行うからです。
私が担当しているのはJunior Varsityチーム。下級生を中心に16名の選手がいます。リーグ戦もレベル別に組織され、試合は別の高校のJunior Varsityチーム同士で行います。
この仕組みは、米国の高校スポーツに共通のものです。個人競技であるレスリング、テニス、クロスカントリー走などでも、試合やレースはVarsity、Junior Varsity、Froshの3部門に分かれて行われます。
あのNBAのレジェンド、マイケル・ジョーダンが高校1年生か2年生のときにVarsityチームに入れず、Junior Varsityチームでプレイしたのは有名な話です。
試合中のコーチの重要な役割は選手交代
話を野球に戻しますと、試合がある日のコーチは多忙です。試合前に先発ラインアップを決め、シートノックでバットを振るい、試合が始まるとコーチャーズボックスでサインを出して、そして選手を目まぐるしく交代させます。投手は投球数制限のルールがありますので、それも考慮しなくてはいけません。
Junior Varsityチームには私ともう1人のコーチがいるのですが、日によっては私1人しかいないこともあります。プロ野球なら監督、打撃コーチ、投手コーチ、などなど大勢のスタッフでやっていることを、すべて1人でこなすのだと想像してみてください。
そしてプロ野球と違い、高校コーチにとってもっとも重要なことは試合に勝つことではなく、選手全員を試合に出すことです。そうしなくてはいけないというルールがあるわけではありませんが(リトルリーグなどではあります)、ずっとベンチに座っているという選手はなるべく出さないようにします。
野球の先発メンバーは9人。指名打者制(DH)を使うと10人。高校の試合は7イニング制なので、4回か5回あたりから先発メンバーと控えの選手を入れ替え始めます。出番を作れなかった選手は次の試合では先発メンバーに入れます。
日本の高校野球のように負けたら終わりの勝ち抜きトーナメントではなく、リーグ戦だからこそできることでもあります。チームを3軍にまで分けて、1チームごとの人数を15人前後にしていることも、出場機会を作るための前提条件です。
Playing Time” が重要なキーワード
野球というゲームの性質上、どうしても選手たちの間で出場機会に差が出てきます。はっきり区別をつけるわけではなくても、やはり野球の上手い下手で、レギュラー組と控え組に分かれていきます。その上、誰もがピッチャーやキャッチャーをやれるわけでもありませんし、上位打順と下位打順では回ってくる打席数も違います。
出場機会のことを“Playing Time”と呼びますが、これこそが選手にとっても、また保護者にとっても重要な関心事になります。コーチである私たちが頭を悩ますのも同じです。
私は自分自身が草野球でプレイする選手でもありますし、かつては野球少年の親でもありました。だから彼らの気持ちがよく理解できます。
選手にとって良いコーチとは、自分を試合で使ってくれるコーチ、親にとっては自分の子が出なくてチームが勝つより、自分の子が出てチームが負ける方がずっと嬉しいのが本音だからです。とは言え、まったく勝負を度外視するわけにもいきません。試合に勝とうとする姿勢もやはり大切です。
リーグ戦の勝敗でチームの順位が決まり、プレイオフに進出できるかどうかが決まるからです。目の前の試合で結果を出すことと選手達に出場機会を与えることのバランスがコーチには求められます。
トライアウトはするべきか
1チームごとの選手の人数を適正に振り分けるために、ほとんどのスポーツではそれぞれのシーズン前に入部を希望する生徒たちを集めてトライアウトを行います。
新入生はFrosh、学年が進むにつれてJunior Varsity, そして最終学年までにはVarsityとなればよいのですが、全員がそうなるとは限りません。
入学してすぐに Varsityに入るような生徒もいますし、途中であきらめて辞めてしまう生徒もいますし、どんなにそのスポーツが好きでも入部すらできない生徒もいます。
どの高校でもチームごとの人数は同じぐらいですので、トライアウトによる選別は高校の規模が大きくなればなるほど厳しくなります。
例を挙げると、我々ラグナヒルズ高校は生徒数が約1500人。この辺りでは中規模の学校で、幸いなことにほとんどの希望者が野球部に入ることができます。しかし、お隣の市にあるエル・トロ高校の生徒数は約2500人。野球部のトライアウトには100人ぐらいが集まり、そのうちの半数ぐらいしか入部できないそうです。
米国では高校までが義務教育です。公立高校を選ぶ場合、基本的に子供たちは住んでいる地域の学校に進みます。日本の中学校までと同じようなシステムです。そうなると、高校で好きなスポーツをできるかどうかにも、住む場所によって大きな違いが生じてくるわけで、全員に公平な機会があるわけではありません。
日本の部活動のように希望者を全員チームに受け入れると、高校3年間をずっと補欠で試合に出場できない生徒が出てきます。米国のようにトライアウトで人数を絞ると、入部すらできない生徒が出てきます。どちらのやり方が良いのかは評価が難しいところです。
ちなみに米国の高校でもクロスカントリー走部ではトライアウトは行いません。希望者は全員が入部することができます。チーム球技とは異なり、人数がどれだけ増えても練習に支障はありませんし、レギュラーも補欠もなく、全員がレースに参加することができるためです。