2年振りの高校クロスカントリー・レース-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その16

2年振りの高校クロスカントリー・レース-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その16 WATCH

2年振りの高校クロスカントリー・レース-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その16

スポーティ

日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動はスポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。

私は2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。

前回記事>>日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART15-

「ほぼ」例年通りに戻った学校生活

準備運動中のクロスカントリー走部。前列の4人は自分で勝手にキャプテンに就任した。

米国では夏の終わりが新学期の始まりです。私が住む南カリフォルニアでは今年は8月第3週目から多くの学校が授業を始めました。新型コロナウイルスの蔓延がようやく下火になり(まだ完全に収束はしていませんが)、今年度はここまで学校が閉鎖されるようなこともなく、ようやく子どもたちに例年のような学校生活が戻ってきました。高校の部活動も約1年半ぶりにほぼ従来と同じ形で再開できています。

「ほぼ」と書いたのは、ウイルス感染防止対策が撤廃されたわけではないからです。学区や学校によって細かいルールは異なりますが、私が勤務する私立一貫校では、基本的には屋内ではマスク着用が原則です。それには体育館も含まれますので、バスケットボールやバレーボールなどの屋内スポーツは未だに苦しい状況です。

幸いなことに、屋外で行うスポーツはマスクを外してもよいことになっています。今回紹介するクロスカントリー走ももちろん屋外スポーツの1つです。それでも私たちコーチを含む教職員は全員が新学期前にワクチン接種を仕事につくための必須条件として義務つけられ、さらにPCR検査の陰性証明書の提出を求められました。

生徒たちはワクチン接種をするか、あるいは毎週月曜日にPCR検査を受けるかを選択することになっています。PCR検査で陽性結果が出れば、当然のことですが、陰性結果が出るまで登校はできませんし、部活動にも参加できません。

高等部(9~12年生)の生徒たちに限れば、ワクチン接種率は70%くらいだということです。クロスカントリー走部では今までに1人だけPCR検査で陽性結果が出た生徒がいました。それでもチームとしての部活動自体は続けることができています。

全員参加スポーツとしてのクロスカントリー走が戻ってきた

スタートの号砲を待つランナーたち。学校ごとに2列で並ぶ。

クロスカントリー走は例年なら夏から秋(8~11月)がシーズンです。しかし、昨年は新型コロナウイルスの影響で、春(3~5月)に、それも極めて制限された形でしか活動ができませんでした。大勢が一斉に「よ~いどん」でスタートする形でのレースができず、2校対抗レース、それもチームの人数を7人まで、というものでした。

本来であれば、高校のクロスカントリー走は誰でも参加できることに最大の意義があると私は考えています。ですから、参加人数を制限する方法を取らざるを得なかったことはとても不本意でした。実質的にはシーズンが丸々奪われたようなもので、特に最終学年の生徒は本当に気の毒でした。

関連記事:アメリカの高校部活動で盛んなクロスカントリー走とは? 

私が指導するクロスカントリー走部は今年の人数が男子20人、女子12人の合計32人です。他校に比べると少人数ですが、規模の小さい我が校内では最大の部員数を誇る部でもあります。何しろ高等部の生徒数が200人以下ですので、6人に1人くらいはクロスカントリー走部員だということになります。

レース出陣前の記念撮影。最前列右端が筆者。

全員で8月から練習を開始し、10月19日にいよいよ待ち望んだシーズン最初のレースが行われました。ほぼ2年振りの「公式戦」です。

レースは平日の午後に行われますので、生徒たちは午後の授業を免除されます。学校からスクールバスに乗ってレース会場まで行き、レース後はまた全員でバスに乗って学校まで帰ってきます。要するに遠足のようなもので、生徒たちにはこうした遠征も部活動の思い出になります。

これも昨年はできませんでした。言うまでもないでしょうが、生徒たちは大はしゃぎです。私の立場からすると、コーチと言うよりは引率の先生のような気分を久しぶりに味わう羽目になりました。

移動に使われるスクールバス。これに乗るのも2年振りだった。

レースは男女ごとにVarsityと呼ばれるレギュラー組とJunior Varsityと呼ばれる控え選手組に分かれて行われます。レギュラー組は1校最大7人まで、それ以外の生徒は全員が控え選手組のレースに出場します。

どの組もスタートタイムが異なるだけで、コースはまったく同じです。距離は3マイル(4.8キロ)。レベルの差はあっても、全員が同じことをやります。

中にはクロスカントリー走部に入部するまで1キロも走ったことがなかったような生徒も混じっていますので、特に控え選手組の走力レベルはお世辞にも高くありません。そんな彼ら彼女らもトライアウトで弾かれることはありませんし、ずっと補欠で試合に出場する機会がなかった、なんてこともありません。全員が参加できるスポーツ。これこそが本来の高校クロスカントリー走です。

スタート前にストレッチで身体をほぐす女子チーム。緊張ぶり(?)が伝わってくる

最初のレースでランナーたちがスタートラインに立ったときはさすがに感無量でした。いざレースが始まれば、後は声がかれるまで応援するだけです。コーチにも色々な人がいますが、それが私のコーチング流儀なのです。

アメリカ 新型コロナウイルス 部活動