自分の頭で考えて野球をやってみよう-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その17

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自分の頭で考えて野球をやってみよう-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その17

スポーティ

日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動はスポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。

私は2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。

前回記事>>日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART16

1年中野球ができてしまう温暖な南カリフォルニアのオフシーズン

冬場の練習でも選手たちはTシャツ姿だ。

カリフォルニア州では高校野球は春(2~6月)のスポーツに分類されていて、公式リーグ戦と決勝トーナメントはすべてその時期に行われます。しかし、殆どの高校では、それ以外の季節もオフシーズン・スポーツという位置づけで、ほぼ1年中野球部が活動を行っています。私がコーチとして務めている高校もその1つです。

アメフト(秋)やバスケットボール(冬)など、他のスポーツ部に参加している生徒は除外されますが、その数は全体の4分の1程度です。それ以外の部員は野球部のオフシーズン活動に参加することが事実上の義務となっています。

オフシーズン期間中、月曜から金曜までの平日は1~2時間ほどの練習、土曜日に練習試合、が基本的なスケジュールです。試合の頻度がやや少ないだけで、やることは公式シーズンとほぼ変わりません。つまり、多くの野球部員たちは1年中野球漬けということになります。

本来なら、高校までは複数のスポーツを経験することが奨励されているのですが、特に野球部は野球しかやらない、あるいはできない生徒の割合が他スポーツに比べて多いようです。幸か不幸か、ここ南カリフォルニアは気候が温暖なため、1年を通してどの時期でも屋外で野球が無理なくできてしまうこともその一因かもしれません。

そのためかと思われますが、カリフォルニア州は全米でもっとも多くのメジャーリーガーを輩出している、野球の盛んな州です。2021年の米国出身メジャーリーガーは1,089人、その4分の1に近い236人がカリフォルニアの出身だということです*¹。

*¹:MLB Players by Birthplace During the 2021 Season >>
https://www.baseball-almanac.com/players/birthplace.php?y=2021

オフシーズンならではの試み_生徒主体の紅白試合

私たちの高校は規模がやや小さく、生徒数も同地域内の他校と比べると少ないほうです。 そのため、野球部でもトライアウトをすることなしに、希望者のほぼ全員が入部することができます。現在の部員数は50名程度です。秋から冬のオフシーズン期間が事実上のトライアウトとなり、春の公式シーズン開始前に1~3軍のチーム分けを行います。

オフシーズン期間は公式シーズン中ではできないような、少し変わったことを試す余裕があります。その1つとして、私たちの高校野球部が毎年冬に行っている伝統行事に、完全に生徒が主体となって行う紅白戦シリーズがあります。

冗談半分で「ワールドシリーズ」と呼んでいるのですが、チーム分けから試合中の作戦まで完全に生徒たちに任せる形で行う3連戦の紅白試合です。

まずは月曜日にヘッドコーチが両チームの監督役となる最終学年の生徒を2人指名し、その生徒はドラフト会議のような形でそれぞれのチームのメンバーを選びます。そこからはすべて生徒たちが主体となって、火、水、木の3日間を連続で試合を行います。

我々コーチ陣は審判を務めるだけで、ラインアップや試合中のサインプレーなど、作戦には一切口を出しません。サインを決めても決めなくても、誰がどのポジションを守ろうと、どの打順で打とうと、すべて生徒たちの自由裁量です。

ただ、投手には登板イニング制限ルール(3日間合計で1人最大4イニングまで、2イニングを投げた翌日は登板禁止)がありますので、誰をいつ投げさせるかは作戦上の重大な問題になります。

普段はコーチの指示を待つだけになりがちな生徒たちも、この3日間はずっと自分の頭で考えて野球をすることになります。主体性を持つことによって、野球というゲームの理解度が増すと私たちは考えています。

偶然ですが、以前に紹介した「アメリカン・ベースボール・アカデミー」と考え方が似ているようにも思います。

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蛇足ですが、私たちの高校で行うこの「ワールドシリーズ」では、勝者には物質的に得るものは何もありません。ただ、負けたチームは試合後のグラウンド整備が義務となります。勝者チームは「お疲れー」と先に帰っていくことが許されます。たったそれだけでも、生徒たちは真剣になります。

年に一度のお祭り OB対現役の伝統の1戦

試合前の国家斉唱に整列するOBチーム

そのシリーズの翌週、冬休み前の週末には、もう1つの伝統行事が行われました。卒業生(OB)対現役レギュラー組のオールスター戦です。もちろん、この名称も冗談半分でつけられたものです。

OBチームには昨年高校を卒業したばかりの19歳から、1978年度卒業生(現在60代前半?)まで、幅広い年齢層の選手たちが母校のグラウンドに帰ってきます。対戦するのは現役高校生のレギュラー組です。

年に一度の合同同窓会のようなイベントではありますし、観客席には選手たちの保護者や家族が大勢つめかけて、とても和気藹々とした雰囲気なのですが、試合そのものは真剣です。何しろOBチームには元プロ選手とか、現役の大学野球選手なども数人混じっているのです。けっして高校生選手たちが侮れる相手ではありません。

さして古豪でも強豪でもない私たちの高校野球部ですが、こうして幅広い世代の野球好き少年、成年、中年、はては老年が集まることができる場所として残っていることは素晴らしいと思います。親子のようか、あるいはそれ以上の年齢が離れた選手たちが一堂に集まってできるスポーツは他にそれほどありませんから。

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