強いだけでなく愛される選手に。大山千広選手インタビュー

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強いだけでなく愛される選手に。大山千広選手インタビュー

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1レース6艇で1,800mの着順を競うボートレース。スポーツの中でも珍しい男女がほぼ同じ条件下で戦うスポーツです。ボートレーサーは約1,600人。男女比率は6:1と女性比率は多くはありませんが、今回はその中で活躍する大山千広選手(25歳)にインタビューしました。

大山千広選手の母・博美さんもボートレーサーとして活躍していました。その姿を間近に見て育ち、小学生の頃には自身もボートレーサーを志します。高校を卒業後、ボートレーサー養成所に入り、2015年にデビュー。2018年9月 ボートレース界の若手NO1を決める「ヤングダービー」の優勝戦に唯一紅一点で勝ち進みます。2019年8月 「レディースチャンピオン」で初出場・最年少優勝を飾り、さらには23歳の若さで獲得賞金額5684万で賞金女王になり、その年の優秀女子選手に選ばれました。

咋シーズンはファンによる人気投票で出場できるSG「ボートレースオールスター」に全体女子1位で出場今シーズンも2021年12月28日から始まるG1レースの「クイーンズクライマックス」に出場が決まりました。人気・実力ともに大注目の選手です。

戦うためのフィジカルコントロール


ーー大山選手は「ボートレースは男女が対等に戦えるところが魅力」と話します。体力や筋力など、男子選手にも負けない強い身体づくりはどのように取り組まれているのでしょうか。

確かに男子選手と比べると筋力差はあるのですが、ウエイトトレーニングをたくさんやると言うよりは、体幹を鍛えることがメインです。また最低体重に制限(男子52kg・女子47kg)があり、男子選手と5kgの差があります。47kgより重い分にはルール上は問題ないのですが、絶対に47kgで出場するように体重管理を行っています。

ーー試合に向けての減量期は、食生活ではどのような工夫をしていますか。

食べることが大好きで、長い競技生活で食べる量を減らすのはストレスになるので、食べる順番やタイミングに気をつけて体重を管理しています。色々な情報を調べては自分に合う食事方法を試行錯誤してきましたが、私の場合は1日に食べるタイミングを増やし、少しずつ食べることが合っているようです。もともと太りにくい体質ではありますが、休みが続くと1~2kg増えてしまって落とすのが大変なこともあります。

私たちはエンジンの整備やプロペラを叩いたり調整を行うことも大事な仕事ではありますが、一番手取り早く正確にエンジンを出す作業は体重を落とすことになります。技量や知識の差は先輩方と縮めるのが難しい部分がありますが、体重だけは最低限自身で管理して守れるものなので、この仕事をしていると体重管理は当たり前のことになりますね。

持ち前の前向きさで、勝負の日々を乗り越える

ーー試合の日の朝、ルーティンはありますか?

あまりレースのことばかり考えないようにします。宿舎でも漫画を読んだりしてリラックスして臨みます。本番前の控え室があるのですが、他の選手が集中していたりするので、そこもギリギリまでは入らないようにして誰かと話していたりします。私の場合は長い集中ができないので、直前から短く集中する方が、レース中に集中力が高く保てます。

ーーちなみに漫画は何を?

ずっとキングダムにハマっています。少年漫画はなんでも読みます。

ーー勝負の世界で、極限の緊張感や大きなプレッシャーに耐える日々があると思いますが、メンタル面はどのように整えていますか?

レース本番前までは緊張したまま迎えるのですが、直前になるとむしろ、結果よりもそこまでの過程を思い返して、「もしここで負けたとしてもこれだけの緊張感と、この舞台を経験できたという勉強になるし、これからも長い競技生活はある」という風に考えるようにしています。レースで失敗する時もあるのですが、そう考えていると立ち直りが早くなります。

ボートレースは1着以外は負けになるので、ほとんどが負けの試合になります。それを毎回大きく緊張して追い込んでいくと立ち直るのに時間がかかってしまいます。そのため、切り替えや気持ちのコントロールが上手な選手ほど、きっと強いのだろうと思います。
私はもともと前向きな性格だったので、母からは「そういう性格で本当に良かったね。うらやましい」と言われます。

私たちはレースが始まったらレース場に缶詰になるのですが、私の場合、1週間終わってレース場を出たら、気持ちが切り替わります。次のレースはエンジンも全く別のものなので、その節はその節、と頭を切り替えやすいです。他のスポーツと違って身ひとつで戦うわけではないので、良くても悪くても、1週間で切り替わっていくので。

ーー仕事上の大先輩でもある母・博美さんとレースの話は多くはしないそうですね。

普段は少し恥ずかしくて仕事についての相談はしてきませんでしたが、気持ちをどうコントロールしていくかの話はしてもらうことがあります。
「今節はこうだったよ」と話すと「お疲れさま」「無事故でね」と受け止めてくれます。本当はもっと言いたいことがあると思うのですが、多くは言わず見守ってくれています。また、私ががむしゃらに目の前のことに突き進んで、視野が狭くなっているときには「焦らなくていいんじゃない?」と。母と会話することで助けられています。

強いだけでなく、人から愛される選手に

ーー他の競技の女性アスリートとの交流はありますか?

騎手の藤田菜七子さんとは交流があって、先日も一緒にお酒を飲む機会がありました。私は自分の実力と周りからの期待の差に悩んだ時期もあったのですが、菜七子さんも同じように感じていたり、分かり合える部分があって、そんな話をしたりしました。中央競馬という注目度も高い環境で競技に挑む姿を見て、自分はまだまだちっぽけな悩みだな、と刺激をもらいます。

ーー広くスポーツ界で憧れや目標としているアスリートはいますか?

浅田真央さんです。昔からずっと好きでした。みんなから応援されて愛される選手って素敵だなと、小さい頃から見ていました。

ーー大事にしている言葉を教えてください。

「気持ち・行動・習慣・人格・運命」という言葉です。高校の陸上部の顧問の先生から教わった言葉です。もともと勉強も部活も何かに熱中することがなく、なんとなくやっていたのですが、その先生が、考え方など気持ちの部分を変えてくれました。先生と出会わなければボートレーサーにもなれていなかったと思います。
運命を変えたかったら、最初は気持ちから変えていく必要がある。何事も気持ちから始まるし、結果が出る前には人格・人柄が大事なんだと思います。強いだけの選手ではなく、人から愛されて、自分もボートが好きで、という選手になりたいと思います。

ーー12月28日から始まるレディースクライマックスへ向けての意気込みをお願いします!

最後まで厳しいかと思っていましたが、最後の1枚の切符を取れたので、行けるからには優勝だけ目指して走ろうと思います!

ボートレース モータースポーツ 大山千広 女子アスリート