重力を活かした走り方 『チーランニング』でランナーのケガを防止する

重力を活かした走り方 『チーランニング』でランナーのケガを防止する DO

重力を活かした走り方 『チーランニング』でランナーのケガを防止する

スポーティ

「走る技術を持たずにトレーニングすると、市民ランナーはケガをする」

そう語るのは、ランニングインストラクターの中島貴裕(なかじま・たかひろ)さん。確かに市民ランナーの中には、腸脛靭帯炎(ランナー膝)をはじめとしたケガに悩まされている人も少なくない。一部では「走っていればケガなんて仕方ない」と考える人もいる。

これに対し中島さんは『チーランニング』というメソッドを指導している。チーランニングには次のようなメリットがあるという。

・脚が疲れることなく、長い距離でも走り続けられる
・長い距離を走れるようになることで、スピードも自然と向上する
・故障などを未然に防げる

ケガなく、長く、速く走るための“力の調和”

「チーランニングは、太極拳の動きをランニングに応用しています。人には必ず重力が掛かっていますが、その重力をランニングに活かしていく走り方です」

太極拳では、体全体のバランスや重心の移動といった部分が重要なポイントとなる。この一見するとゆったりとしながら、しかし無駄のない動きを、ランニングに応用するというのだ。

「大切なのは、足首からの前傾です。直立では地面に対し垂直に重力が掛かりますが、身体が前傾すると、この重力が進行方向の斜め下に働きます。試しに、ギリギリまで前傾してみてください。どこかで耐えられなくなり、必ず一歩踏み出しますよね? この力を使うわけです」

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確かにいきなり後ろから押されれば、身体が倒れないように一歩足が出る。この力で走っていけるのであれば、確かに足の負担も少なそうである。

「走っていると、地面が自分に向かってきているように見えますよね? この“向かってくる”地面を使います。例えばパンチを手で受けたとき、受けた手は痛いですよね。でも、その手を受ける瞬間に引きながら受けたら、手に感じる衝撃は少ないはずです。同じように、チーランニングでは向かってくる地面を受け流す。そうすれば足に余計な負担は掛かりませんし、疲れにくくなるでしょう。これを、“力の調和”と呼んでいます」

すべては正しい“姿勢”から

チーランニングの基本は「姿勢」「前傾」「脚の使い方」「腕の使い方」の4つ。特に「姿勢」はほとんどのランナーが意識しながらも、ちゃんと出来ている人はほんのわずかだと中島さんは語る。チーランニングでの正しい姿勢は、足から頭までが真っ直ぐな状態を指す。

「まず足を真っ直ぐ、つま先が前を向くように立ちます。骨盤を起こし、背中が真っ直ぐな状態を作りましょう。頭の上すれずれに天上があり、そこにツムジを着けるような意識でアゴを引きます」

最も難しいのは、骨盤を起こすということ。特に男性はなかなか意識しづらいそうだ。

「骨盤を上手く起こせない場合は、膝を立てた状態で仰向けに寝っ転がります。そうすると、恐らく多くの人は背中と地面の間に空間があるはずです。そのまま膝を上げていくと、どこかで背中と地面がくっつきますよね。その状態を維持しながら、足を戻しましょう。戻したまま背中の状態を維持できたら、あとは同じ状態を立位でつくるだけです」

ワークショップでは、実際に姿勢が作れるまで仰向けでの動作を繰り返す。姿勢が作れたら、日常から意識することで次第に身に着けていけるという。

「姿勢で大切なのが『アライメント』です。アライメントとは、自動車などで車輪の向きを整えることを示します。チーランニングでは、身体全体を走る進行方向に向けます

足がハの字の状態で着地するランナーは多い。この場合、脚の外側の筋肉や膝などに負担がかかりやすく、腸脛靭帯炎(ランナー膝)などの原因となる。しかし足を真っ直ぐ前に向けてあげると、足の内側が緊張した状態になる。これは内転筋を使っている状態であり、外側の筋肉だけに頼らず、脚全体の筋肉で支えられる。一部にばかり負担が伴わないので、ケガを防ぐことができるということだ。

脚を使わずに“30kmの壁”を超える

この姿勢を基本として、足首から身体全体を前傾させる。身体は常に真っすぐな状態にし、脚の力で地面を蹴るのではなく、あくまで向かってくる地面を受け流す。小さなふくらはぎの筋肉を使うパワーランではなく、どちらかといえば大殿筋(お尻の筋肉)やもも裏の筋肉を使うような感覚である。

「姿勢の次は“脚を使わない、脚の使い方”。かかとから着地すればブレーキが掛かり、その分だけスピードを維持するのにパワーを使います。そのとき使うのはふくらはぎなどの筋肉ですが、これではすぐに疲れてしまうのは当然。ですから多くのランナーが、フルマラソンで“30kmの壁”にぶち当たります」

チーランニングで足が着地する位置は、身体の一直線上。前傾にしていれば、腰よりやや後ろになる。これならばブレーキを掛けることもなく、スピードを殺さないというわけだ。ワークショップでは、“一本歯下駄”を使ってその正しい動きを意識付ける。

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腕振りのポイントは「腕をしっかりを“引く“ことができれば、上半身で走る感覚が得られる」。実際にチーランニングを実践するトップランナーには、走り終わると足は疲れていないのに、コア(=体幹)の疲労を訴えるランナーが多いという。

身体のバランスを整った状態に保ち、力で走るのではなく、前傾によって生じる重力を活かしたランニング。実践によって実感できる部分が大きいので、イメージすることは難しいかもしれない。しかし、ケガに悩むランナーや、より長く、より速く走りたいと望むランナーであれば、試してみる価値はありそうだ。

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