【辻沙絵×東俊介 対談】ハンドボールの経験があるからこそ出来る事(後編)
WATCH【辻沙絵×東俊介 対談】ハンドボールの経験があるからこそ出来る事(後編)
前回に引き続き、パラリンピック陸上日本代表辻沙絵(つじ さえ)選手と、元ハンドボール日本代表キャプテンの東俊介(あずま しゅんすけ)さんの対談の様子を紹介します。
後編となる今回は、辻選手の今後の目標などを伺っていきます。
辻選手はハンドボール界にとって宝だと思っています
——辻選手は陸上を始めてからすぐに世界大会で入賞しました。100mのタイムに関しては、1年間で約1秒縮めているわけですよね。※
※2015年5月に100mで日本新記録を達成した際のタイムは13秒69。2016年4月に自身の持つ記録を更新した際には、12秒86を記録している。
東:すごいですね!まだまだ縮まりそうですよね。リオパラリンピックの行われる今年が21歳で、東京の時は25歳ですね。東京の時に目指すことは、明確にイメージできていますか?
辻:そうですね。今一番近いところでリオがあるので、そこでメダルを獲りたいと思っていて。東京ではもっと欲張って、2個ぐらい獲れたらなって。
東:メダルを目指して戦えるという点はハンドボールから転向してよかったと思うことじゃないですか?
辻:そうですね。自分の新しい未来が開けたという部分では、転向もありだったのかなって。今は大好きなハンドボールをやめたのが正しいと思えるように頑張りたいなっていう風にしか思っていないです。
辻選手効果で、最近ハンドボールの名前がよく出ているという東さん
東:僕はハンドボールが大好きで、ハンドボールをメジャースポーツにしたいという夢がずっとありました。辻さんはもちろん陸上の世界で頑張っていって結果も残しているんですが、同時にハンドボール出身ってことがメディアで取り上げられている。今ももちろんハンドボールをやろうってなったら出来ますよね(笑)?
辻:そうですね。
東:ハンドボールが実際にできる人が、様々なところで注目されるっていうのはハンドボール界にとって宝だと思っています。もちろんスポーツ界にとっても、日本にとっても、複数の競技で成績を残してきた辻さんのような存在は、すごく重要だし、辻さん「だからこそ」という場が今後たくさんあるはずです。
いつかは健常者にも勝てるようになりたい
——改めてリオや東京を含め、今後の選手としての目標は何かありますか?
辻:やっぱりパラリンピックでメダルを取ることです。それはリオでも東京でも獲りたいです。あとは4年に一度の舞台、限られた人しか出られない舞台に、出させてもらえるんだったら、思いっきり楽しんでこようと思ってます。
東:オリンピックに出たいとかはないですか?
辻:いや、ありますよ(笑)。本当に出たいです。最終的には健常者に勝てるようになりたいなっていうのはあります。卓球の選手でオリンピックとパラリンピックに出ている選手がいて、それを見た瞬間に「これかも!」と感じました。
東:僕は、前からそうなんじゃないかなと思ってたんですよ(笑)。僕が持っていた辻さんのイメージはそこを目指す気がしていました。オリンピックへの出場を目指しているっていうのは楽しみですね。陸上競技では何人かそういう選手が出ていることもありますし。
辻選手がオリンピックを目指すきっかけとなったナタリア・パルティカ選手(ポーランド)
北京五輪、ロンドン五輪に出場。パラリンピックでは3大会連続で金メダルを獲得している。
東:辻さんを見て、夢を見られる人って沢山いると思います。周りに情報の多い今の子供って、無理だってことを言いがちなんです。僕はバスケ選手になりたいんだけど、背が小さいから無理かもとか。そういう子には、「夢なんてなりたい自分のことで、自分がなれることを探してもそれは夢じゃないから。バスケだって158cmとかでNBA(アメリカのプロバスケットリーグ)でやっていた選手もいるし、そういう人がいるんだからやれないって決まってないじゃん!」って言っています。
教員を目指している辻さんも、「別に腕がなかったからなんなの?ハンドボールやってたよ。」とか「パラリンピックだけじゃなくてオリンピックも出たよ。」とかそういう話ができる存在になれますよね。元々目標は高いと思うんですけど、僕としては、「オリンピックも出たいんだろうな」という予想をしていたので、そこが聞けて嬉しかったです。
辻:なんでばれてるんだろう(笑)。母にも言われました。やっぱりパラ競技だけで満足しないよね?って。
東:すごいお母さんですね!
——辻選手の性格を作ってきた過程には、お母さんの存在は大きいんですか?
辻:大きいですね。今でも毎日電話してます。たまに母親からいろいろ言われて、「うるさい!母親なんだからコーチみたいなこと言わないで!」って喧嘩になったりしますね(笑)。
東さんにオリンピック出場の夢を見抜かれた辻選手
——これまでの記録の伸び方を見ているとオリンピックへの出場も実現できるのではと思いますが、いかがでしょうか?
辻:最初の段階は改善点も多くて大きく記録は伸びるんですが、12秒台から11秒台に行くのはすごく難しいことだと思っています。でも、これから先、例えば壁にぶつかった時に、そこを乗り越えていけるのかなっていうところはある意味楽しみでもあるんです。
東:乗り越えていくのを楽しみにしているところがすごいですよ。乗り越える前提ということですからね(笑)。もしも自分ができなかったらと考えていない。それがすごい。
辻:考えないですね。できなかったらできなかったでまぁいいかという感じです(笑)
——本当に考え方がすごいですね。本日はお忙しい中ありがとうございました。
<前編はこちら>
INFORMATION
辻 沙絵(つじ さえ)
プロフィール
1994年10月28日生まれ、北海道出身
生まれつき、右肘から下が欠損している。小学生の時に始めたハンドボールで頭角を表すと、高校ではインターハイベスト8の成績を残す。スポーツ推薦で日本体育大学へ進学したのちパラ陸上へ転向すると、半年後の世界選手権で6位入賞。その後も日本記録を塗り替えるなどの活躍を続けている。リオパラリンピック日本代表内定者。
INFORMATION
東 俊介(あずま しゅんすけ)
プロフィール
1975年9月16日生まれ、石川県出身
元ハンドボール日本代表キャプテン。
金沢市立工業高等学校を経て国際武道大学、早稲田大学大学院を卒業。
ハンドボールの名門・大崎電気を経て、株式会社サーキュレーションでコンサルタントを務めている。
日本ハンドボール協会マーケティング委員、日本スポーツ産業学会運営委員、世界ゆるスポーツ協会アンバサダーなどの活動も積極的に行っている。