ブエルタ・ア・エスパ―ニャ2018 レースレポート マドリード編

ブエルタ・ア・エスパ―ニャ2018 レースレポート マドリード編 WATCH

ブエルタ・ア・エスパ―ニャ2018 レースレポート マドリード編

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ブエルタ・ア・エスパーニャの最終ゴールはマドリード。プラド美術館などの観光名所を通過するパセオ・デ・プラド通りの周回コースを12周すると、3週間のレースが幕を下ろします。今年の最終日の主役は、もちろん総合優勝したSimon Yetes(サイモン・イェッテス/Michelton-Scott)選手。

しかし、この日のマドリード・ステージには、物静かなもう一人の主役がいました。ブエルタ・ア・エスパ―ニャ2018の最終日の様子をレポートします。

メイン写真 Photo by Yukari TSUSHIMA

優勝者と彼のチーム


最終ステージは握手ではじまります。 (Photo by Yukari TSUSHIMA)

3週間に渡って毎日スペイン各地でくり広げられたブエルタ・ア・エスパーニャも、とうとう今日が最終日。今年はマドリードからほど近いAlcorcón(アルコルコン)という町が、今年最後のスタート地点となりました。

この日のレース距離は約100㎞。加えて通称「パレードレース」と呼ばれるように、このレース前半はのんびりしたペースで走るので、選手たちの様子にもリラックスした表情が伺えます。しかし、何よりも、3週間のレースを無事走り切ったという安堵感がすべての選手から見て取ることができます。

レース前の出走確定サイン台では、司会者のJuan Mari Guajardo(ファン・マリ・グアハルド)氏が選手一人一人と握手を交わし、3週間のレースの完走をお祝いします。このグアハルド氏は、毎日スタート前にサイン台で選手にインタビューし、同時に観客を盛り上げる、ブエルタ・ア・エスパーニャの名物MCです。選手の中には、最終日にステージ上で彼と2ショットの写真を撮影する人もいます。


2ショット撮影中のJohannes Fröhlinger(ジョンナス・フロリンガー/ Team Sunweb)(Photo by Yukari TSUSHIMA)

一方、明るいお祭りのような雰囲気に包まれていたのは、Michelton-Scott(ミチェルトン・スコット)のチーム。イェッテス選手の総合優勝をお祝いするために、この日選手たちは特注ジャージを着用します。


ミチェルトン・スコットの赤い特注ジャージ。(Photo by Yukari TSUSHIMA)

おまけに、チームのスタッフもこの笑顔。本当にうれしさが伝わってきます。


(Photo by Yukari TSUSHIMA)

もう一人の主役 ラストラン

ブエルタが終わると、自転車ロードレースのシーズンは終盤戦に入ります。中には、このブエルタが今年最後のレースとなる選手もいます。それは同時に、この日が現役最後のレースとなるサイクリストもいることを意味します。

数日前に現役引退を発表したのが、こちらのスペイン人サイクリストIgor Anton(イゴール・アントン/Dimention Data)選手でした。長年、ブエルタ・ア・エスパーニャに欠かせない選手の1人だった彼が、現役最後の出走前サインに訪れます。


歓声と拍手に応えるアントン選手(Photo by Yukari TSUSHIMA)

グアハルド氏が「今日のステージが彼のラストランです!イゴール・アントン!」と告げると、客席からはもちろん、サイクリストからも、そしてマスコミ関係者からも、大きくて暖かな拍手が沸き上がりました。「そろそろ、新しい人生に踏み出すべきだと考えてね。」

引退理由についてアントン選手が応えます。「14年間、幸せな選手生活だったよ。」少しの迷いもなくそう言いきった彼の表情は、いつものレース前と変わらないように見えました。

ブエルタのような3週間のステージ・レースでは、最終日のスタート時には各賞のジャージを着た選手が第1列目に並びます。この日もその例外ではありませんでした。


最終ステージのスタート直後。各賞ジャージのリーダーが一番前で走ります。(Photo by Yukari TSUSHIMA)

しかし、この集団の2列目の真ん中を走るのはアントン選手でした。


2列目の真ん中を走るアントン選手。(Photo by Yukari TSUSHIMA)

そして、のんびりと走ったパレードレースが終わり、選手たちがパセオ・デ・プラド通りの周回コースに入ろうとした時です。突然、大集団から一人のサイクリストが全速力で飛び出しました。


集団から飛び出したアントン選手(Photo by Yukari TSUSHIMA)

現役最後の大逃げを、たくさんの観客の前で披露したアントン選手。大歓声を独り占めにしながら楽しそうに走る姿が、印象的でした。一方、そんなアントン選手の後ろでは、ミチェルトン・スコットがきっちりとレースをコントロールします。


(Photo by Yukari TSUSHIMA)

この日、最後のスプリント合戦を制したのは、イタリア人のElia Viviani(エリア・ビビアーニ/ Quick step)選手。彼のチームバスに貼られていたポスターが次の写真です。もちろん、今年のブエルタで表彰台に上ったEnric Mas(エンリック・マス)選手のためのポスターです。


クイックステップのチームバスに貼ってあった「エンリックと狼たち」というポスター。(Photo by Yukari TSUSHIMA)

こうして、選手たちがブエルタ・ア・エスパーニャのすべてのレースを終えるころには、あれほど暑かったマドリードの風も、かなり涼しく感じられるようになります。そして、赤くライトアップされたマドリードの市庁舎をバックにした表彰式が終わるころには、自転車選手はもちろん、そのファンたちも、来年のレースについて考え始めているのです。