ストーブリーグの陰の主役。名物代理人スコット・ボラス氏の意外な側面
WATCHストーブリーグの陰の主役。名物代理人スコット・ボラス氏の意外な側面
メジャーリーグは、2018年シーズンの全日程を終了し、最優秀賞選手や新人賞など主要な賞の受賞者も決定し、契約更改や移籍に関するストーブリーグの話題が連日報じられる季節になりました。メジャーリーグ公式サイトのトップページではフリーエージェント選手達の動向が一目で分かるようになっています。
今オフ最大の大物選手と言えば、ワシントン・ナショナルズのブライス・ハーパー外野手です。そして日本のファンの最大の興味は西武の菊池雄星投手の移籍先がどの球団になるかでしょう。その交渉の鍵を握るのがハーパーと菊池の2人ともと代理人契約を結んでいるスコット・ボラス氏です。
メジャー界きっての名物代理人
ボラス氏は、2001年にAロッドことアレックス・ロドリゲス内野手(当時シアトル・マリナーズ)をテキサス・レンジャーズと総額2億5200万ドルの10年契約に導き、一躍、野球界の枠を超えて有名な存在になりました。
2006年には、松坂大輔投手が、西武からレッドソックスに移籍した際にも、総額5200万ドル(約58億8900万円)の巨額契約をも実現させていることから、日本でもよく名前が知られています。
選手に代わって、金銭や契約諸条件の交渉を進める代理人はとかく、批判の対象になりがちです。代理人は、クライアントである選手が球団と結んだ契約額から手数料を取ることで成り立つ商売です。契約額が多くなればなるほど、代理人の収入が増える仕組みですので、スポーツをビジネスの手段にして金儲けをしている印象はぬぐい切れません。
メジャーリーガーの年俸が際限なく上がり続けて、球団の経営を圧迫し、野球をつまらなくしている、その元凶が代理人だとする声は強くあります。そのなかでもボラス氏は大物中の大物代理人として、メジャーリーグで最も嫌われ、あるいは恐れられている人物だと言えるかもしれません。
野球への情熱
そのボラス氏の経歴を注意深く見てみると、一概にビジネス一辺倒の人物とは、言い切れない部分が多くあります。ボラス氏の個人事務所「ボラス・コーポレーション」は、データ解析や法務などに100人以上のスタッフを抱える大世帯ですが、扱っているのは野球だけです。
大手経済紙「フォーブス」の発表によると、同事務所の規模は、スポーツ代理人の業界第5位ですが、他の大手代理人事務所は、フットボール、バスケットボール、サッカー、ゴルフ、テニスなど他のメジャースポーツも手掛けていて、野球はその1部門としてあるに過ぎません。
ボラス氏が野球だけを専門とする背景には、氏の野球への情熱があると思われます。何しろ、ボラス氏は元マイナーリーガーです。シカゴ・カブス、およびセントルイス・カージナルス傘下で4年間のマイナーリーグ生活を送り、ケガを理由に引退した後、大学に復学し、弁護士資格と薬理学の博士号を取得した人です。さらには、氏の息子トレント・ボラスもミルウォーキー・ブリュワーズ傘下の現役マイナーリーガーです。
ボラス氏は、地元の少年野球連盟に寄付を行っていて、「ボラス・フィールド」を言う名前の球場があり、高校野球のトーナメントもカリフォルニア州とアリゾナ州で主催しています。
ネットでの発言はなし
メジャーリーグに関して議論を呼ぶような出来事が起こるたび、必ずと言っていいほどボラス氏のコメントがメディアで報じられます。最近ではニューヨーク・メッツの新GMに大手代理人事務所CAAに在籍していたボロディ・バンワガネン氏が就任したときには、利益相反だと辛辣に批判した氏の発言が話題になりました。
球界のご意見番のようなボラス氏ですが、問われたことに答えるだけで、自ら発言をするわけではありません。氏の公式ツイッター・アカウントは、2010年のオープン以来8年間で11件のツイートしかされていません。さらにボラス・コーポレーションの*¹ウェブサイトは1ページのみで、ただ同事務所のロゴとメインのメールアドレスしか表示されていません。
秘密のベールに包まれたオフィス
ボラス・コーポレーションは南カリフォルニアでも屈指の富裕層が集まるニューポート・ビーチ市の中心地にあります。周辺には高級ブランドが集まるショッピング・モールや大手銀行や大企業がオフィスを並べ、今では珍しくなったスーツ姿のビジネスマンが行きかいます。
ボラス・コーポレーションは3階建てで、さほど大きくはありませんが、堅牢そのものの社屋です。全ての窓はブラインドが下ろされ、入り口の壁に小さなインターホーン画面があるのみで、外からは全く内部の様子がわかりません。
ボラス・コーポレーション本社社屋
ボラス・コーポレーション本社入口。窓どころかドアノブすらない。
創価大学キャンパス内にあるトレーニング施設
ボラス・コーポレーションが設立したトレーニング施設はさらに謎に包まれています。そのトレーニング施設は同事務所本社から約20キロ南のアリソ・ビエホ市に位置するアメリカ創価大学のキャンパス内にあります。
アメリカ創価大学は、閑静な住宅地にある小さな私立大学です。新しくきれいな施設ではあるのですが、普段から人影は少なく、非常に静かなキャンパスです。
キャンパスの入口ではガードマンに身分証明書を掲示しないと中に入ることも出来ません。大学という名から想像される喧噪からは無縁の環境です。同大学には野球チームすらありません。ウェイト・トレーニング施設とそれに隣接した競泳プールと陸上競技場があるだけです。
アメリカ創価大学
アメリカ創価大学キャンパス内トレーニング施設入口
トレーニング施設は関係者以外の立ち入りが禁止されている。
筆者が所属する米国ストレングス&コンディショニング協会のウェブサイトにこの施設のトレーナーを募集する求人広告が掲載されたことがあります。求人の要件として、メジャーリーグ組織で働いた経験があること、ストレングス&コンディショニング・スペシャリストの資格を持つこと、そしてスペイン語と英語のバイリンガルであることが挙げられていました。
なぜボラス氏がこのような場所をトレーニング施設に選択したのかはわかりませんが、専属のトレーナーもいるぐらいですので、実際にここでボラス氏と契約したメジャーリーガーがトレーニングをしていることに間違いはなさそうです。菊池投手も来春にはここで汗を流すことになるのでしょうか。
菊池雄星投手の行先は
西武ライオンズは菊池投手のポスティングシステム(入札制度)への申請を12月3日に行うと発表しました。その後入札が行われ、いよいよメジャー球団との交渉が正式に始まるわけですが、果たしてカギを握るボラス氏がどのような戦略を描いているのか、今後の動向に注目したいと思います。