市民参加のプロジェクト。エヴァートンの新スタジアム建設最新レポート
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2018-19シーズンの開幕直後にオープンするはずだったトッテナムの新スタジアムは3月以降のデビューとなり、チェルシーのスタジアム建設計画は無期限凍結。スタジアムリニューアルの話題が多いプレミアリーグですが、ノースロンドンの次に完成する大規模なスタジアムは、エヴァートンのブラムリー・ムーアドックでしょう。
港湾都市リヴァプールを活性化するプロジェクト
1888年に始まった世界最古のフットボールリーグに参加していたエヴァートンの本拠地グディソンパークは、1892年8月にオープンしたイングランド初のフットボール専用スタジアムとして知られています。
40157人収容のスタジアムが老朽化し、エヴァートンが新スタジアム建設を検討し始めたのは2008年。リヴァプール郊外のカークビーに建設する当初の計画はイギリス政府に却下され、2010年に承認されたベレフィールドへの移転計画も頓挫してしまいました。
ようやく実現の目処が立ったのは、2016年になってからでした。エヴァトニアンで知られるジョー・アンダーソン市長の後押しを受けて計画は順調に進み、2017年1月にはブラムリー・ムーアドックが建設予定地として指定されました。
このエリアは、2004年に世界遺産に登録された港湾都市リヴァプールの象徴となっているアルバート・ドックの北に位置しており、アンダーソン市長は、「街の北部を活性化する意味でも大きなプロジェクトになる」と評価しています。
世界初の完全耐火倉庫が建ち並ぶアルバート・ドック。現代美術館テート・リバプール、博物館ビートルズストーリー、マージーサイド海洋博物館などがひしめく英国有数の観光スポットでもあります。(PHOTO by Arthurv)
サポーターが望むスタジアムの条件は「わが要塞」
2017年11月、クラブは200年の用地リース契約に合意。2018年4月には、サポーター向けの説明会が開催されました。クラブは、スタジアム移転における11ヵ条を発表。サポーターにアンケートを取り、11ヵ条の重要度をランク付けしてプランに反映させる機会を設けています。
「わが要塞」「エヴァートンの新しいホーム」「成長のためのプラットフォーム」「市民のためのクラブ」「リヴァプールを象徴するランドマーク」「来やすく、帰りやすい」「グディソンパークの遺産」「伝統の尊重」「環境を活用」「テクノロジーを取り入れる」「リヴァプールのための適切な取引」。11のテーマのなかで、サポーターが最重要としたのは「わが要塞」でした。
最高な雰囲気を創出し、ホームタウンのアドバンテージを確固たるものにすること。2位が「エヴァートンの新しいホームグラウンドとして受け入れられること」で、3位には「アクセスがよいこと」が選ばれています。
サポーターの85%が「グディソン・パークのディキシー・ディーン像を新スタジアムに移転してほしい」と回答。1900年代に活躍したストライカーは永遠のレジェンド(PHOTO by Dave)
2018年11月15日から12月3日には、パブリック・コンサルテーション・エクササイズ(市民からの声を集める公開協議)が開催されました。「優れたリアクションをいただいた」と、参加者に謝意を述べたバクセンデールCEOは、「10億ポンドの経済効果、15000人の雇用創出、150万人の観光客の訪問につながる」と、新スタジアムが及ぼすインパクトを強調。12月20日には、52000人を予定していたスタジアムの収容力は、将来的に62000人に拡大される見通しと発表されています。
公式サイトで新スタジアムの最新情報を配信
市民参加型の新スタジアム建設のプロセスは「ピープルプロジェクト」と名付けられ、公式サイト(https://peoples-project.co.uk/)で最新ニュースが配信されています。
組織と責任者、スケジュール、スタジアムの仕様、資金調達方法までが開示されたオープンでフェアなプロジェクトには、市民でなくても期待感が高まります。2017-18シーズンにロナルド・クーマン監督が解任され、苦しい1年を過ごしたエヴァートンは、マルコ・シウヴァ監督の初年度となる今季も25節まで9勝6分10敗の9位と冴えない状況が続いています。
ライバルのリヴァプールの本拠地アンフィールドと肩を並べる収容力を手に入れたとき、エヴァートンはプレミアリーグの「ビッグ7」の一員といわれるポジションを獲得しているのでしょうか。
明るくてピュアなエヴァトニアンが集うグディソン・パーク。リヴァプールと戦うマージ―サイドダービーでも、どことなく和やかな雰囲気が漂っています。
どこが優勝するのかわからないプレミアリーグの数年後のことは、誰にもわかりません。エヴァートンは、ヨーロッパリーグ出場権を狙うのが精一杯なのかもしれません。しかし、今はただ、ブラムリー・ムーアドックの完成を楽しみにしたいと思います。
ドルトムントサポーターが自慢気に語る巨大スタンド「イエローウォール」を再現するといわれている魅力的なスタジアムに出会えると考えると、プレミアリーグファンとしては否応なく盛り上がります。アンフィールドと600メートルしか離れていなかった伝統のスタジアムとの別れを惜しみながら、ではありますが。