「失敗はどんどんしてもいい」自主性を尊重する試合中心の少年野球教室
DO「失敗はどんどんしてもいい」自主性を尊重する試合中心の少年野球教室
千葉県八千代市で7月下旬から毎週水曜日、夏休み期間中に計5回行われている「アメリカン・ベースボール・スクール千葉」の第2回目(7月29日)を取材してきました。
日本の部活動では、技術偏重や勝利絶対主義、そして圧迫的な指導方法など問題視されることもありますが、ここで見ることができたのは自由にのびのびと野球を楽しむ子供たちでした。
短時間、試合中心、アメリカン・スタイルの少年野球
「アメリカン・ベースボール・スクール千葉」が行われる八千代総合運動公園野球場は両翼92メートル。数千人を収容可能な観客スタンドもついた立派な野球専門フィールドです。参加しているのは小学校2年生から6年生までの26人の野球少年たちで、ほとんどが地元近くの子で占められていますが、中には横浜からやってきている子もいました。1人1人が十分な出場機会を持てるよう、参加人数には上限が定められています。
八千代総合運動公園野球場
毎回のイベントは、午後5時から7時までの2時間に行われる試合が中心です。試合開始の1時間前から技術指導の時間が設けてありますが、それに参加するかどうかは自由とのことです。1回目のテーマは「守備」、2回目のこの日は「バッティング」についてでした。
技術指導は「どう思う?」「なぜそう思う?」と常に子供たちに問いかける形で行われます。例えば、バットを体の近くから出す「インサイドアウト」のスイングはバッティングの基本ですが、なぜそれがよいのか、それをするにはどんな練習をすればいいのか、大人が答えを押しつけるのではなく、子供たちが自分の頭で考えるように求められます。
「バットが体に近いのと遠いのでは、ボールはどちらの方が遠くに飛ぶと思う?」
午後5時になると、2チームに分かれ、試合が開始されました。1チーム12人か13人、全員が打席に立ち、守備位置も頻繁に変更されます。そして、子供たちがなるべく多くのチャレンジと失敗を経験できるように、以下のようなルールで行われます。
• 1イニングに3点が入ると、攻守交代。
• 1人の投球数は25球まで。
• 敬遠四球は禁止。
• パスボールでの進塁は1つまで。
• 3年生以下はTスタンドからの打撃を選択できる。
試合が始まってしまうと、両チームの監督からは細かい野球技術の指導は行われません。各イニングの合間に打順の確認と守備位置の変更が指示されるだけで、まったくのノーサインで試合が行われます。良いプレイは褒められますが、エラーをしても三振をしても、指導者からは叱責の声も、もちろん罵声もありません。
学年が異なるとこんな体格差も生じる。この日Tスタンドからの打撃を選択した子はいなかった。
試合は日が落ちてボールが見えなくなるまで、終始子供たちのはつらつとしたプレイが続けられました。
世界の野球を知る指導者たち
「失敗はいくらでもしてもいい。なぜ失敗したのかを考えるのが大切」と講師の1人、田久保賢植さんは繰り返し子供たちに語っていました。
田久保さんは世界6カ国(アメリカ、日本、オーストラリア、カナダ、チェコ共和国、オーストリア)で15チームに所属するという稀有な経験を持つ国際人であり野球人です。もう1人の講師である萩島賢さんも高校、大学、社会人野球で、選手としても指導者としても華々しい経歴があります。
そんな彼らが所属する『一般社団法人オールネーションズ』がこのイベントの主催者なのですが、同法人の代表者が今年からMLBのミネソタ・ツインズ傘下ルーキーリーグで監督に就任した三好貴士氏。米国独立リーグで活躍し、スカウトリーグでは監督も務めた安田裕希氏も同法人メンバーの1人です。
■関連記事:「米独立リーグからメジャーリーグへの挑戦を続ける安田裕希選手」
現在も海外で活躍する野球関係者とのネットワークも盛んで、今回のイベント開始前にはMLBシアトル・マリナーズでスカウトを務める能登氏から子供たちに宛てた長文の素晴らしいメッセージが届きました。「全て誰かに言われる前に、自分から気が付き、そして自分から動く」ことの大切さを伝えたメッセージはその場で読み上げられ、子供たちにも親御さんたちにも大きな感銘を与えました。
練習中も笑顔が絶えない。大人も子供も共通しているのは野球が好きだということ。
エラーをしても怒鳴られない。当たり前が当たり前でない少年野球の世界
「米国の部活動事情シリーズ」で自己紹介しましたように、私は米国で高校野球部のコーチをしているのですが、それより以前はかなり熱心な野球少年の親でした。
4歳のTボールから始まって、リトルリーグを経て、中学生のトラベルリーグまで、息子の一番好きなスポーツは一貫して野球でしたし、私もあるときはコーチの手伝いをして、またあるときは審判の代役をこなしたり、それはもう少年野球の世界にどっぷりと漬かっておりました。
息子は米国カリフォルニア州で生まれ育ちましたので、私たちはずっとアメリカン・スタイルの少年野球に馴染んでいました。そんな私たちが、日本の少年野球に参加してカルチャーショックと呼んでもいい、ある出来事がありました。
それは日本に帰省したある年の夏休みに、息子を地元の少年野球チームに体験入部させてもらったときのことです。その頃の息子は小学5年生でした。とにかく野球が好きで、好きで、一日中野球のことばかり考えていた時期でした。だから猛暑の中での長時間の練習自体(土曜と日曜の朝9時から夕方5時まで!)は苦にはならないどころか、かえって嬉しかったみたいなのですが、エラーした子に対して強く叱るような指導があったことには驚きました。
私の目には、この「アメリカン・ベースボール・スクール」は、のびのび楽しく取り組む野球の姿を追求したものに映りました。こうした自由で楽しい野球のことをあえて「アメリカン」と呼ばなくてもよければ、と思います。
「アメリカン・ベースボール・スクール」では応援も自由。
子供たちと同様に、「アメリカン・ベースボール・スクール」では、保護者の方にも大きな自由があります。お茶出し当番も練習の手伝いもまったくありませんし、試合観戦をするかどうかさえも自由です。球場に子供を連れてきたら、試合終了時刻までに買い物を済ましても構わないのです。もちろん、スタンドで我が子が楽しく野球をするところを眺めていることもできます。
千葉の他にも、群馬や横浜でも開催される「アメリカン・ベースボール・スクール」。野球が大好きな子供をもつ人は、ぜひ参加を検討してみてはいかがでしょうか。
INFORMATION
イベント主催者ホームページ:https://anbb2011.com/2020/05/31/