パーソナルトレーナー赤羽恵美さんが目指す「良き伴走者」

パーソナルトレーナー赤羽恵美さんが目指す「良き伴走者」
今回の主人公は、外資系企業のIT責任者として20年以上のキャリアを築きながら、2人の子育てに奮闘した経験を持つ赤羽恵美(めぐみ)さん。51歳でトレーニングを始め、53歳からフィットネス競技の大会に挑戦し、50代後半でパーソナルトレーナへと転身。59歳の昨年もボディビルコンテストのFWJ Japan Openで Bikini Masters 45歳以上のクラスで優勝をおさめるなど、これまで多くの大会で好成績を収めてきました。
現在は東京都江東区木場にあるパーソナルトレーニングジムBASICS Mのトレーナーとして、クライアントの健康と理想の身体作りをサポート。そんな彼女にフィットネスを通して得た輝きと、挑戦し続けることの真の価値に迫ります。
長年オフィス勤めだった赤羽さんは、現在パーソナルトレーナーとしてクライアントと対面で接しています。職種も仕事の進め方も全く違いますが、これまで指導を受けてきた側の立場だったことがプラスに働いているといいます。
パーソナルトレーナーのサービスを受ける立場を長年経験しているので、どんな言葉が心に響くのか想像できます。特に、目標と心や身体を理解して伝えてくれた言葉は心に響きます。だからこそ、お一人おひとりの目標や身体だけでなく、その背景にあるライフスタイルや想いも理解出来るように心がけています。私自身がそのような素晴らしいパーソナルトレーナーと出会い、自分の人生がより良い方向にかわった事が、全く異なるこの職種を選んだきっかけでもあります。
取材したその日、赤羽さんが担当するトレーニングを見学させてもらうことに。運動習慣がなく、まだ通いはじめて日が浅いクライアントとのパーソナルトレーニングでした。
トレーニングは、その日の体調や調子を丁寧にヒアリングすることからスタート。予めメニューは組んでいるものの、クライアントの小さな変化を見逃さず、柔軟に対応していきます。ストレッチで丁寧に身体を整えた後、トレーニングを始めていきます。
トレーニングごとに種目の概要や動作、ポジショニングなどを丁寧に説明する赤羽さん。なぜこの種目なのか、どこに効くのか、クライアントの癖やエラー動作などを見抜き、セットごとにフィードバックすることで正しいフォームへと促し、効果の最大化を図ります。豊富な知識と経験に裏打ちされた専門性、そしてクライアントを安心させるコミュニケーション能力。これこそが、赤羽さんが多くのクライアントから信頼を得ている理由なのです。
比較対象は常に自分
フィットネス競技は年々競技人口が増えてきており、その華やかさと鍛え上げられた肉体美は見るものを魅了します。
競技者として活躍している赤羽さんにフィットネスや大会の魅力を聞くと、何事にも通ずる本質的な答えが返ってきました。
大会なので勝ち負けがあり、思う順番ではないことは当たり前にあります。他人との比較ではなく、常に自分の成長に目を向けるようにしています。

競技ですが、あくまで自分軸で少しでも進化し、変化すること。決めた事を淡々とこなし、工夫し、『なりたい』と思う姿に少しずつでも近づけることが何より大切なんです。その上で、プロを目指すトップ選手と同じステージに立つ機会があるのも、大きな魅力だと感じています。
自分の今を試してみたい。そんなチャレンジ精神が満たされるんです。 実際、昨年のアマチュアオリンピアのビキニクラスC(プロカード取得を目指す人が出場する身長別クラス)では最下位でした。でも年齢に関係なく、若い方々や海外選手、プロになる一歩手前の人たちと並んだ経験は本当に貴重な経験で、1年後のステージに向けて奮起する材料となりました。
小さな積み重ねが今を作る
赤羽さんはパーソナルトレーナーになって今年で4年目を迎えます。もともとは大手総合電機メーカーで働くキャリアウーマンでしたが、結婚を機に退職し海外へ。出産を経て帰国後に大手外資系企業に再就職。 ITスーパーバイザーからマネージャーとなり、最後はディレクターとして約24年間勤め上げました。
夫のアメリカへの転勤をきっかけに結婚し、それから6年間は海外生活でした。その為、結婚を機に仕事は辞めました。自分のキャリアを続けたかったのですが、その時は仕方なく、仕事を辞めて一緒に付いて行ってあげました(笑)。
でも帰国後にキャリアアップにつながる勉強をしようと、アメリカでは大学に通い、学位も取得しました。現地の家庭教師の先生にも英語を習っていました。
元々英語を使う仕事がしたくて。最初の就職で少し英語を使う機会はありましたが、頻繁に英語を使う機会には恵まれませんでした。でも、前職の外資系企業では役割が変化していくうちに、アメリカの本社やその他の国の人達と同じプロジェクトにかかわるようになったり、リーダーとして英語でコミュニケーションする機会が増えて、これはやばいと。もっと自然で知的な英語を話せるようになりたいと思い、再度英会話に通い始めました。
置かれた環境下でベストを尽くし、社会人としてのキャリアを築き上げてきました。そんな彼女と運動との出会いは2人目を出産した後だったといいます。
自分が置かれた環境下でベストを尽くし、社会人としてのキャリアを築き上げてきました。そんな彼女と運動との出会いは2人目を出産した後だったといいます。
次男を出産した後、ダイエット目的でマラソンを始めました。フルマラソンに出場するという明確な目標を立てることで、継続することができました。しかし、2人目の出産後に復職した後、子育てと仕事、そして運動の両立は想像以上に大変でした。
本当に忙しくて、ストレスもたまって、何年もの間、毎晩お酒を飲んでました。ストレス発散をお酒や食に求めてしまい、走る時間も減り、産後一旦は戻った体重が、臨月以上の体重まで増えてしまいました。そこで『このままではいけない』と、改めてダイエットしようと覚悟を決めたんです。

ダイエットを決意した赤羽さんはRIZAPへ入会。入会後、RIZAPのロッカールームにあったボディメイクグランプリ(会員向けの大会)のパンフレットが目に止まります。
パンフレットを見て、『すごくキラキラした世界があるんだな』とは感じましたが、当時の私には、まるで自分とは別の世界のことでした。そのときのモチベーションは痩せることと、マラソンのパフォーマンスを上げることだけでしたから。
着実に体重を落としダイエットに成功した赤羽さん。
新しい服を買うのがとても楽しみでした。体型のコンプレックスを感じずに、好きな服を選べるのはすごく嬉しかったです。シンプルなデザインが素敵に見えるんです。
マラソンのタイムも好転し、ベストタイムの更新が出来るまでになりました。
そのような大きな達成感がありながらも、赤羽さんの心には「痩せるだけでなく、もっと理想の身体作りを追求したい」という新たな思いが芽生え始めます。
体重を減らすことには成功しましたが、『まだこの先がある』という感覚がありました。ゆこさん(2017年のサマースタイルアワード日本大会、東京大会でグランプリを獲得した人気トレーナー)のような、健康的で美しいメリハリボディに憧れるようになって。それには今までとは違う、別の角度のトレーニングが必要なんだと気付きました。そして『私も、そういう大会を目指してみたいな』という新たな挑戦への思いが湧きました。
フィットネスの大会出場を目指し、新たな視点でボディメイクをはじめましたが、挑戦の1年目から2年目は書類審査や予選での敗退が続きました。悔しさで胸がいっぱいになった赤羽さんは、長年続けたマラソンに区切りをつけ、ボディメイクに専念することを決意。 努力を続けるなかで、外見のみならず、内面にも変化が起こりました。
50代になっても、覚悟を持って一度決めたことをやり遂げれば、必ずできるんだ。」という確かな自信がつきました。仕事や他のスポーツなどにも通じることですが、特に50代でも身体をこんなにも変えることができるという事実は、また新たな領域での自信になりました。
その自信を決定的に感じたのは、大会挑戦2年目でNPCJ(現FWJ)に初めて挑戦した時に、ビキニ マスターズカテゴリーで優勝した時でした。大会当日、早朝にメイクをしてもらった直後にビキニを着て撮影したのがこの写真でした。

この瞬間、ついに『ビキニ選手らしくなれた!』、『今までの積み重ねでいいんだ』って思えたんです。 この感覚が私にとって大きな転換期だったと思います。努力の結果、身体が変わり、それが自信となって臨んだ大会で優勝できたことで、『もっとやろう』っていう意欲が湧き上がりましたね。
伴走者として実現したい健康
競技者として、そしてトレーナーとして多くの人の背中を押し続けている赤羽さん。最後に彼女が目指す「未来」について尋ねました。
今年は還暦なので、赤いビキニを着るのがずっと大きな目標でした。大会への挑戦自体は、「今年で最後」という気持ちはないので、これからも選手、そして指導者としても続けていくと思います。

また、昨年は国内大会(リージョナル)で、ビキニ マスターズのオーバーオールで優勝できなかったので、今年こそ優勝したいと思っています。年々素晴らしい選手が増えていますから、今年はさらに厳しい戦いになると思います。でも60歳でビキニマスターズのチャンピオンになることが選手としての目標です。
そしてトレーナーとしての、目標は更に明確でした。
より多くの方の背中を押して人生を豊かにするお手伝いをしたいと思っています。40代以降、特に同年代の方で新しいことを始めるのに躊躇している方々がたくさんいらっしゃると思います。パーソナルトレーニングは運動が得意な人がやる事、とお考えの方もいらっしゃると思いますが、むしろ運動が苦手、1人では運動習慣をつけられない、そういう方こそパーソナルトレーナーが必要なんです。運動を継続することにより、健康診断の数値が良くなった、体の調子が良くなった、ここに来ると腰痛が楽になる。そうおっしゃってくださるお客様もたくさんいらっしゃいます。
『もう50代だから』っていうマインドになりやすいんですけど、今は人生100年時代。残りの50年の人生をどうすればもっと幸せに、充実して生きられるのか。もし心の中に何かを『やってみたい』という気持ちがあるなら、私は全力でその行動を後押ししたいです。
私自身、50代前半までずっと同じフィールドの仕事を頑張ってきましたが、その先もずっとそこで頑張れるとは思わなかった。違う事に挑戦したくて、パーソナルトレーナーを選びました。自分の身体もまだまだ進化させられると思っています。『挑戦するのに年齢は関係ない』という事を体現し続けたいと強く思っています。

『やってみたい』と思った時が実はもう最高のチャンスです。「お金がたまったら挑戦しよう」とか、「ダイエットできたら〇〇しよう」って思っても、その将来が来るかもわかりませんし、きたとしても今と同じ状況とは限らない。親の介護が必要かもしれないし、経済的に自由が利かなくなるかもしれない。それこそ病気になったらやりたいこともできないかもしれない。だから今、「やってみたい、頑張ればできるかな?」っていうタイミングがあるって、本当に幸せなことなんですよ。
だからこそ、私と同世代で躊躇している方の背中を、良き伴走者として押したい。健康を維持すること、なりたい姿や理想に近づけること、挑戦してみたい事、などを後押しして、その方の人生がより豊かになるお手伝いができたらと思います。そして私という存在が、その方の人生を彩る一部になれたら、これ以上の喜びはありません。
INFORMATION
赤羽恵美
NSCA認定パーソナルトレーナー、FWJ認定ポージング講師
パーソナルトレーニングジムBASICS M在籍トレーナー
https://basicsm.jp/