洪水被害からの復活の証として ブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナ

洪水被害からの復活の証として ブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナ WATCH

洪水被害からの復活の証として ブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナ

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2月7日から2月11日の期間にスペイン・バレンシア地方で、ブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナという、自転車レースが開催されました。このレースの舞台となった町の中には、昨年10月末にこの地方で発生した洪水の被害となった場所もあり、バレンシアの復興を国内外に伝える大会となりました。このレースの様子を現地バレンシアからお伝えします。

TOP写真:洪水の被害を受けた町の一つ、アルヘメシの子どもたちと触れ合うホセ・プリエト選手(写真左)。Photo by Yukari TSUSHIMA.

洪水被害の1か月後にはレースの開催を発表

レース中に着用されるポイント賞のオレンジ・ジャージには、昨年10月に洪水被害を受けた町や村の名前が記されていた。Photo by Yukari TSUSHIMA

毎年スペイン・バレンシア地方で開催されるブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナは、ヨーロッパの自転車ロードレースシーズンの幕開けを告げるレースです。

昨年10月29日にバレンシア市の郊外を洪水が襲い、200人以上が亡くなりました。災害発生直後は電気や水道などのインフラも機能せず、道には土や泥と共に押し流されたたくさんの車が折り重なるように放置されていた町や村がほとんどで、復興には非常に時間がかかるものと予想されていました。こうした状況だったため、当初は2025年のブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナの開催自体も危ぶまれていました。

しかし、洪水の被害からちょうど1か月が経過した11月29日、ブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナのレースオーガナイザーは、予定通りの日程でレースを開催することを公式に発表します。レース開催を発表した当初は様々なチームから「本当にレースができるのか。」という問い合わせがレースオーガナイザー殺到しましたが、最終的には22チームが参戦し、華やかな5日間となりました。

今回のレース3日目にスタート地点となったアルへメシは、まさに10月の洪水の被災地となった町の一つでした。スタートラインが設定された町の中心部にある広場はすでにきれいな状態となっており、近隣のバールやレストランも営業中。近くの小学校からは子供たちの元気な声が響いており、町の中を歩く限りは洪水の被害を目にすることはほとんどありません。しかし、町の外には持ち主を失った車が数台放置されていたり、整地されていない荒れ果てた空き地があるなど、いまだに存在する洪水被害の傷跡を目にすることになりました。

出走した選手たちの思いとは

インタビューに応えるバレンシア市出身のジョアン・ボウ選手(写真右)。Photo by Yukari TSUSHIMA

今回のブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナに特別な思いを持っていた選手の多くは、やはりバレンシア地方出身の選手たちでした。そんな選手の一人である、カハ・ルラル・セグロスRGA所属のジョアン・ボウ選手は、被災地に近いバレンシア市の出身ということもあり、レース前後のインタビューに対応することも多く、地元出身の選手として駆けつけた観客から盛大な拍手を受けていました。

被災地の一つに設置されたスタート地点で、子供たちのサインに応えるイニーゴ・エロセギ選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

また今回のレースでは、スタート前に観客からの写真やサインのお願いに丁寧に応える選手の姿が目立ちました。中には、サインをお願いしてきた子供たち全員に応えてからスタートラインに向かう選手もいて、選手の側からも被災地の復興を願っている様子が見られました。

レースは喪章をつけたバレンシアの旗と共にスタート。Photo by Yukari TSUSHIMA

加えて、今年は喪章をつけたバレンシアの旗と共に選手たちがレースをスタートすることになりました。選手の多くから、今回レースを開催できたことを本当に喜んでいること、そしてレースオーガナイザーやスタート・ゴールとなった地域の住民の方に心から感謝している言葉が多く聞かれました。

そして、来年へ

最終日には女子の1DAYレースも無事に開催。Photo by Yukari TSUSHIMA

洪水被害から約3か月経過した被災地では、一見したところすでに普通の生活を取り戻しているかのように見えます。しかし、その一方で、小さな公園がまだ荒れ放題になっているところもありますし、まだ列車が走っていないスタート地点があったことも事実です。

また、日本でもバレンシア地方はオレンジの主要生産地として有名ですが、今回はそのオレンジ畑でも実をつけていないオレンジの木をたくさん目にすることになりました。こうしたことから、洪水被害の影響はもっと長く被災地にとどまってしまう可能性があるものと思われます。

このように100年に1度とも言われるようなレベルの大洪水に見舞われた被災地でしたが、今回ブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナが開催されたことは、確実に復興へ向かっていることを国内外に伝える機会になりました。また、レースオーガナイザーに対しても、大変な困難の中でレースを無事に5日間開催できたことに対して、非常に高い評価をする声が多く聞かれました。

実はブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナと同時期に開催されていたフランスの自転車レースがありました。しかしそのレースでは、レース中の選手の安全確保に不備があると出走していた選手自身から不満の声が上がり、結果的にレースを途中で辞めてしまうチームが続出しました。

今回レースを最終日まで無事に開催することに全精力を傾けたブォルタ・ア・ラ・コムニタット・バレンシアーナのレースオーガナイザーの情熱が、来年以降のこのレースの開催を確実なものにしたと言えるのではないでしょうか。