スペインの名物山岳レース、ブエルタ・ア・アストリアス
WATCHスペインの名物山岳レース、ブエルタ・ア・アストリアス
自転車レースシーズン真っ只中のスペインで、4月最後の週末に開催されたブエルタ・ア・アストリアス(Vuelta a Asturias)。3日間という短い開催期間ながらも、厳しい上りの多い、スペインでも有数の山岳レースです。今年のこのレースに、日本人の鳴海颯選手が出走しました。
TOP写真:ブエルタ・ア・アストリアスで、スタート前に選手紹介されるジャバ・キウイ・アトランティコ。写真右から3人目が鳴海選手。Photo by Yukari TSUSHIMA
山岳コースの名所・アストリアス
写真中央が鳴海選手。Photo by Yukari TSUSHIMA
今年で64回目の開催となったブエルタ・ア・アストリアス。毎年4月の最終週に開催されている3日間のステージレースです。
このレースの舞台は、スペイン北部にあるアストリアス地方。北はビズカヤ湾という海に面し、南はカスティーリャ・レオン地方、西はガリシア地方と接するこの地方は、冬は大雪が降ることも少なくないくらいの山岳地帯。5月初旬でも日によっては冷たい雨が降ることもある地域です。
この地方が自転車レースの舞台となると、こうした山岳の上りがレースの主役になります。8月から9月に開催される3週間の自転車レースである、ブエルタ・ア・エスパーニャ(Vuelta a España)にも、頻繁に登場するアストリアス地方。アングリル(Angliru)やラゴ・デ・コバドンガ(Lago de Covadonga)というこの地方にある厳しい上りの名所の地名を、自転車レースファンであれば耳にしたことがあるかもしれません。
今年のブエルタ・ア・アストリアスの目玉となったのは、2日目のアルト・デル・アセボ(Alto del Acebo)。標高は1196m、約10km続くこの道の平均勾配は8.18%。距離も長く斜度の大きな上りが続き、「とにかくきつい」とプロの選手が話すほどの上りです。
今年のブエルタ・ア・アストリアスに、日本人選手の鳴海颯選手(ジャバ・キウイ・アトランティコ)が出走しました。このレースのわずか5日ほど前にスペイン入りした鳴海選手は、以下レース前に語ってくれました。
スペインに来て、最初のレースでこんなチャンスをチームから与えてもらえて、すごく嬉しいです。
また、同チーム監督のエンリケ・サルゲイロ氏は、以下のように話してくれました。
鳴海選手はスペインについたばかりなので、レースについていくのは大変かもしれません。でも、体は十分に絞れていますし、スペインのレースを経験してほしいと思い、出走させることにしました。
年によっては、雪の中でレースとなることも
今年のブエルタ・ア・アストリアスのフェルナンド・バルセロ選手。Photo by Yukari TSUSHIMA
このブエルタ・ア・アストリアス、上りが厳しいレースであると同時に、開催される年によっては、天候も非常に厳しくなるレースです。
毎年4月下旬から5月上旬に開催されますが、この時期のアストリアスの天候は非常に不安定で、場合によっては雪の中を選手たちはレースすることになります。
2017年のブエルタ・ア・アストリアスの第2ステージでも、このアルト・デル・アセボがゴール地点となっていました。しかし、この年のブエルタ・ア・アストリアスの開催時にアルト・デル・アセボの近隣には雪が振り、選手たちは吹雪の中、レースを続けることになりました。
この雪の2017年の第2ステージで第2位でゴールしたのが、当時スペイン代表チームの一員として出走していたフェルナンド・バルセロ選手(現カハ・ルラル・セグロスRGA所属)でした。
今年のブエルタ・ア・アストリアスのスタート前に、バルセロ選手にアルト・デル・アセボの上りについて話を聞くことができました。
僕が2着になった2017年はアルト・デル・アセボを上りきったところがゴール地点だったんですが、今回はアルト・デル・アセボを上った後に、麓の街まで10kmくらい下って、ゴールなんです。ここの上りももちろんハードですが、下りはかなり高速になるので、最後まで気を抜けないステージになりますね。
それに今回は天候にも恵まれて、気温も上がりそうです。アルト・デル・アセボは頂上近くになると、日光や風を遮る木がほとんどなくなり、直射日光を直接浴びることになると思うので、もっと熱く感じるでしょうし、その意味でも厳しいステージになりますね。もちろん2017年も雪の中のレースは十分にハードなものでしたが。
バルセロ選手の言葉を裏付けるように、今年のアルト・デル・アセボでは、初日のステージで勝利し、リーダージャージを着ていたサイモン・イェーツ選手(Simon Yates: バイクエクスチェンジ・ジェイコ)が失速。レース中盤からチームカーに守られながらゴールする姿がみられました。
第1ステージと第3ステージを制したサイモン・イェーツ選手。写真は第1ステージのもの。Photo by Yukari TSUSHIMA
ちなみに、今回のアルト・デル・アセボは、ブエルタ・ア・アストリアスでは頻繁に登場する上りですが、ブエルタ・ア・エスパーニャにはほとんど登場しません。しかし、地元アストリアスの自転車関係者は「ブエルタ・ア・エスパーニャの重要ステージになってもおかしくないくらい、厳しい上り」と話していました。
イバン・ラミレス・ソーサが総合優勝
今年のブエルタ・ア・アストリアスを総合優勝したイバン・ラミレス・ソーサ。Photo by Yukari TSUSHIMA
今年のブエルタ・ア・アストリアスを制したのは、2日目のアルト・デル・アセボの登場するステージで優勝したイバン・ラミレス・ソーサ選手(モビスター チーム)。初日と最終日のステージで優勝したイェーツ選手は、2日目の失速が大きく影響し、総合18位でレースを終えました。
多くの人には知られていない、厳しい上りのあるアストリアス地方。このレースのオーガナイザーは「来年のこのレースにも、面白い山岳コースを用意しておくよ」と話していました。