シーズンオフの名物レース Memorial María Isabel Clavero

シーズンオフの名物レース Memorial María Isabel Clavero WATCH

シーズンオフの名物レース Memorial María Isabel Clavero

スポーティ

自転車ロードレースがシーズンオフに入る11月に、マドリードの北で毎年開催される名物レースがあります。そのレースの名前は、「Memorial María Isabel Clavero(メモリアル・マリア・イサベル・クラベーロ)」です。

スペイン語でcircuito(シルクイート)と呼ばれる、サーキット形式のレースです。今では少なくなってしまったこの伝統的な自転車レースの様子を取材しました。

TOP写真: Photo by Yukari TSUSHIMA

Memorial María Isabel Clavero(メモリアル・マリア・イサベル・クラベーロ)とは


現役プロのカテゴリーのスタート直前。Photo by Yukari TSUSHIMA

ヨーロッパの自転車ロードレース界において、11月はすでにシーズンオフ。選手たちの多くは家族と一緒の時間を過ごしながら、翌年のためのトレーニングに励みます。

この時期にマドリードで開催されるレースの一つがMemorial María Isabel Clavero(メモリアル・マリア・イサベル・クラベーロ)です。コースはサーキット形式。1週約1㎞のコースを何周も走り、順位を競います。

実はこのような形式のレースがシーズンオフの時期に開催されるのは、ヨーロッパの自転車界の伝統のひとつです。スペインでも、以前はこのようなレースが数多く開催されていました。しかし2010年ごろからの経済危機の影響を受け、多くのレースが開催を断念しました。そのため、こうしたレースを見ることができる機会は、今では本当に少なくなってしまったのです。

そんな状況の中、スペインでこの貴重な伝統を守り続けるのが、メモリアル・マリア・イサベル・クラベーロというイベントです。今年で27回目を数えるこのレースは、毎年マドリード郊外のLas Rozas(ラス・ロサス)で開催されます。

マスターズと元プロ、そして現役プロのレース


2003年の世界チャンピオンのIgor Astarloa (イゴール・アスタルロサ) 氏。

このレースに出走するのは、マスターズの選手と現役プロの選手、そしてかつてプロだった選手たちです。それぞれがカテゴリーに分かれて順位を競います。

どの選手たちもこのレースには個人として参加しているので、いつものレースで見られるようなチームカーやチームバスはありません。各自の自家用車で、家族や友人たちとともに、レース会場に到着します。

そのため、レース会場の雰囲気は非常にリラックスしたものです。観客とサイクリストを分けるフェンスなども、レースコース以外にはありません。スタート前は、選手と観客が同じ場所で肩を並べて、レースをを観戦することになります。

すぐ隣では、今年のスペイン自転車界で最も活躍した若手選手の一人、Euskadi Basque Country-Murias(エウスカディ・バスク・カントリー・ムーリアス)のFernando Barceló (フェルナンド・バルセロ)選手が、家族とともに待機中でした。この日はちょっと寒かったので、マフラーを着用中です。


笑顔のバルセロ選手。今年はTour de Porvenir (ツール・ド・ポルベニール)でステージ優勝。今後の活躍が期待される選手のひとり。Photo by Yukari TSUSHIMA

元プロのサイクリスト多くは、現役時代に身につけていたジャージでレースに参戦します。「長袖のジャージがこれしか見当たらなくってね」と話していたのは、現役時代、ランス・アームストロングの強力なアシスト役だったJosé Luis Rubiera(ホセ・ルイス・ルビエラ)氏。

彼とレース終了直後におしゃべりしているのは、世界選手権で3回の優勝経験があるOscar Freire(オスカル・フレイレ)氏と、これまた世界チャンピオンのイゴール・アスタルロサ氏。


元プロのカテゴリーのレースが終わった直後。笑顔のルビエラ氏とフレイレ氏。握手をしているのがアスタルロサ氏。Photo by Yukari TSUSHIMA

2人のラストラン


先頭を引くロペス選手。キナンのMarcos García (マルコス・ガルシア) 選手の後ろにプジョル選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

実はこのレースがプロのサイクリストとして、最後のレースとなった選手が2人いました。一人は日本でもおなじみのOscar Pujol(オスカル・プジョル)選手。この日は彼がTEAM UKYOのジャージを着て走る、最後のレースとなりました。

日本でも大変な人気者だったプジョル選手。筆者が「日本で走ってくれて、本当にありがとう」と伝えたところ、彼はとびっきりの笑顔で、 “¡¡Un placer!!(こちらこそ!)” と応えてくれました。


レース前のプジョル選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

もうひとりのラストランは、TEAM SKYのDavid López (ダビット・ロペス)選手。彼が引退を公式に発表したのはこのイベントのわずか3日前のこと。この日のレース前に現役選手として最後のサイン台に上がり、今の気持ちを話し始めます。

もうシーズンオフのトレーニングもする必要はないし、年明けのチーム合宿にも行かないでいいんだ、と頭では理解しているんだけど、なんだかまだちょっと変な感じがするんだよね。これからは家族と一緒にいる時間を増やしたいし、もちろん自転車にかかわって生きて行くことになると思うよ。

穏やかな人柄でスペイン国内でも人気の高かった彼。会場にいたファンはもちろん、ライバルだった選手からも、暖かな拍手が送られました。


現役最後のサイン台に立つロペス選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

現役プロによるレースの中盤で、プジョル選手とロペス選手が申し合わせたかのように同時に集団を飛び出し、先頭に躍り出ました。その瞬間、オーロラビジョンの前にいた観客の間から、思わず歓声が上がります。


レース観戦のためのオーロラビジョンも完備。Photo by Yukari TSUSHIMA

最後の最後まで、自転車ファンを楽しませたプジョル選手とロペス選手。2人がレースを終えてスタート地点に戻ってくると、多くのファンが彼らを取り囲み、口々に感謝の言葉を伝えます。

メモリアル・マリア・イサベル・クラベーロでは、毎年このような場面が繰り返されます。ファンにとっても、選手と直接話すことができるこのイベントは、とても貴重なものなのです。

毎年11月の第3土曜日に開催されます。シーズンオフのリラックスした表情の選手に会いたい方は、ぜひこの日マドリードにお越しください。

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