特例だらけ、トラブル続出。それでも高校スポーツシーズンがついに再開-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その15
WATCH特例だらけ、トラブル続出。それでも高校スポーツシーズンがついに再開-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その15
日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動はスポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。
私は2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。
前回記事>>「日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART14-」
2021年シーズン開幕決定は政治的判断?
本シリーズその14を執筆したのは、2021年2月中旬のことです。その頃のカリフォルニア州の高校スポーツを巡る状況について、私は以下のように書きました。
ほとんどの高校スポーツで対外試合が禁止され、練習も屋外で非接触の活動に限った「コンディショニング」のみが許されている状況です。
幸いなことに、この記事が公開された3月から上の状況はかなり好転しました。3月中旬からは州内のほとんどの地域で野球やアメフトなどの屋外スポーツは対外試合を開始できるようになったのです。
「Let Them Play」(彼らにスポーツをやらせて)と州当局に訴え続けてきた保護者や私たちコーチたちにとってはもちろん嬉しい展開だったのですが、公平に公衆衛生上の観点から見ると、非常に無理がある不自然な決定でした。
2月の時点では、ある地域で野球の対外試合を開始するための条件は人口10万人あたりの1日の感染者数が週平均で7人以下になったとき、となっていました。アメフトの場合はそれが4人以下でした。
ところが、度重なる市民からの要求に耐えかねたのか、ギャビン・ニューサム州知事は3月になって突然、すべての屋外スポーツが開始できる上の条件を14人以下と大幅に緩和したのです。
人口10万人あたり14人の感染者数と言えば、カリフォルニア州全体では5,000人を越え、日本の総人口に換算すると17,000人を越えます。日本で新たに緊急事態宣言が叫ばれている4月18日の全国感染者数は4,093人、最悪と言われる大阪府でも1,220人ということですから、ニューサム州知事が定めた条件がいかに緩い設定であったか分かるでしょう。
逆に言えば、それまでのカリフォルニア州内の状況が日本とは比較にならないくらい酷かったということでもあります。なにしろ、上の記事で紹介した2月9日の新規感染者数は人口10万人あたり33.1人でした。
特例だらけのシーズン。それでも”Better Than Nothing”
保護者の応援もソーシャル・ディスタンスが呼びかけられる
何はともあれ、私たちの地域では、3月19日から高校野球のリーグ戦が始まりました。選手を含む全員がマスク着用、保護者の観戦はホームチームのみ、などと例年にない制限はありますが、それでも野球というゲームそのものはできています。花形スポーツのアメフトもほぼ同時期に地域リーグ戦が始まりました。
その他、サッカー、テニス、ソフトボールなど、多くの屋外スポーツが活動を再開しています。高校キャンパスや様々なスポーツ施設でおよそ1年振りに活気が戻ってきました。
シーズン開始早々、私たちの野球部は新型コロナウイルスを理由に数日間練習を中止しなくてはいけなくなりました。チーム内に感染者が出たわけではありません。複数の選手たちと同じ教室で学ぶクラスメートに感染者が出たため、その教室にいた全員が検査を受けざるを得なくなったのです。幸いなことに、チーム内には感染者は見つからず、活動を再開することができました。
アメフトは、野球に比べるとトラブルが多く、リーグ存続が危ぶまれる状況にすら陥りましたが、つい最近シーズンを終了しました。ウイルス感染のケースもありましたが、それよりも試合中にケガ人が続出して、次試合を中止にする高校や、今シーズンの活動そのものを中止してしまった高校が相次いだのです。
シーズン開始が急に決定し、十分な練習をする時間もなく、いきなり実戦が始まったのだから無理もありません。野球と違いコンタクトが激しいアメフトならではの現象かもしれません。また、例年なら別々のシーズンで行うはずの野球とアメフトが同時期に再開したため、その両方に参加する生徒の疲労が重なったという側面も少なからずありました。
野球は、例年より1か月半ほど遅れて地域リーグ戦が始まり、今年は中止されるはずだったプレーオフも6月(例年は5月)に行われることが決定しています。卒業式は6月上旬ですので、最終学年の生徒たちは卒業したのちに野球の大会に出る、という変則的なことになります。
このように、例年通りとはとても言えないシーズンですが、それでも好きなスポーツをできる生徒たちは幸せです。
レスリングやアイスホッケーなど、未だに再開できないスポーツもありますし、陸上競技やテニスなど1会場に大勢の選手が集まる形式の競技は、2校対抗戦という形でしか試合ができていません。それでも私たちコーチや保護者の口からは、よく”Better than nothing”(何もないよりマシ)という言葉が出ます。
スポーツ再開による感染再拡大の不安
一方で、気がかりなニュースもあります。4月になって、米国疾病予防管理センター(CDC)のロシェル・ワレンスキー長官が若年層のスポーツ活動が新型コロナウイルス感染拡大を引き起こしていると言う旨の発言を行いました。スポーツそのものより、練習や試合前後にロッカールームなどで大勢が集まることへの懸念が高まっています。
カリフォルニア州は高校スポーツの再開が全米でももっとも遅かったのですが、先行した他の州でスポーツ現場でのクラスターがいくつか発生したことが背景にあります。
米国アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士も同様の発言を行っています。
チームスポーツでは、多くの子供がマスクを着用せずに一つの場所に集まる。その結果として、むしろ教室よりスポーツ活動の方がウイルス感染拡大の原因となる。
(ファウチ博士)
同じ頃ミシガン州では2週間の間、高校の授業をオンラインとし、すべてのスポーツ活動を中止するよう州知事からの要請が各自治体に出されました。
カリフォルニア州では、高校スポーツが再開してから現在までの間、感染者数や入院者数は減り続けています。ワクチン接種も5月末までには州内のほぼ全人口に行き渡る予定だとされています。
しかし、こと新型コロナウイルスに関してはいかなる予断も許されないことは周知の通りです。せっかく再開にこぎつけた高校スポーツが再びできなくなるような事態だけは起きないことを祈ってやみません。