ようやく野球部の練習が再開。だけどキャッチボールも禁止?-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その13

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ようやく野球部の練習が再開。だけどキャッチボールも禁止?-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その13

スポーティ

日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動はスポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。

私は2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。

前回記事>>日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART12-

大きな意味を持つ2020年の「Back to School」

米国の多くの地域では学校の1年は9月(または8月中旬以降)に始まります。約3か月もある長い夏休みが終わりに近づく頃になると、町中に「Back to School」(学校に戻ろう)という言葉をあちこちで見かけるようになります。

この毎年の風物詩も今年は新型コロナウイルスの影響を大きく受けました。例年通りに学校を再開した地域もあれば、未だにすべての授業をオンラインで行っている地域もあります。ここ南カリフォルニア周辺では9月中旬になってからようやく高校に生徒たちが戻ってこられるようになりました。

しかし、私が指導する高校も含めて、ほとんどの高校ではオンライン授業と対面授業を隔日で交互に行う「ハイブリッド」というやり方を採用しています。生徒たちは2グループに分かられ、週2〜3日しか登校しません。残りの日は自宅でオンライン授業です。さらに、希望する生徒にはすべての授業をオンラインで受けることを選択することも許されています。

半年ぶりに生徒が学校に戻ってきた。

高校スポーツ再開のガイドラインとは

本分である授業でさえそうなのですから、課外活動であるスポーツ部活動も、当然のことながら新型コロナウイルスによって大きな制限を受けています。

ここ南カリフォルニアでは、すべてのスポーツ活動が3月に突然中止されました。その後も様々な再開の試みはありましたが、半年以上たった今でも、どのスポーツも対外試合はおろか、従来通りの練習もできない状態です。

新型コロナウイルスの集団感染を防ぎながら、スポーツ部活動を再開する。この前例のない事態に備えて、8月には全米高校スポーツ連盟(NFHS – National Federation of State High School Associations)とカリフォルニア州高校スポーツ連盟(CIF – California Interscholastic Federation)のそれぞれから、ウイルス感染対策とスポーツ再開へのガイドラインが通達されました。

そのガイドラインを基本的には踏襲しながら、各地域の教育委員会が実情に合わせたルールを作成し、それが地域内の各学校に通達されるという流れになりました。以下にその具体例を紹介します。

感染リスクに応じたスポーツの分類

ウイルス感染のリスクはスポーツによって異なります。密閉、密集、密接の「3密」が感染リスクを高めるという認識は米国でも受け入れられています。その「3密」が起きる可能性に応じたスポーツの分類がまず行われました。

•低リスク:クロスカントリー走、陸上競技、ゴルフ、水泳
•中リスク:野球、ソフトボール、バスケットボール、ラクロス、サッカー、テニス、バレーボール、水球
•高リスク:フットボール、レスリング、チアリーディング

中リスクとされた野球フィールド。人工芝フルサイズの立派な施設だが、半年間足を踏み入れることはできなかった。

感染収束段階ごとのルール

そして新型コロナウイルス感染が収束していく段階ごとに、徐々に活動の制限が緩和されていきます。

■第1段階 

•室内運動は、一切禁止
•屋外運動は、10人以下のグループ
•ロッカールーム、更衣室は閉鎖
•ソーシャル・ディスタンス(約2メートル)
•いかなる身体的接触は禁止
•器具(ボールも含む)の使用は禁止
•どのスポーツも最低2週間以上、上のルールに沿った活動が義務

■第2段階

•室内運動は、一切禁止
•屋外運動は、50人以下のグループ
•ロッカールーム、更衣室は閉鎖
•ソーシャル・ディスタンス(約2メートル)
•いかなる身体的接触は禁止
•器具(ボールも含む)の共有は禁止
•低リスクのスポーツは競技練習を開始できる
•中、高リスクのスポーツは上のルールに沿った活動のみ許可

■第3段階

•室内運動は、50人以下のグループ
•屋外運動は、50人以下のグループ
•ロッカールーム、更衣室は利用可
•ソーシャル・ディスタンス(約2メートル)
•使用したボールは、毎日消毒
•器具(ヘルメットやグローブなど)の共有は禁止
•中リスクのスポーツは、競技練習を開始できる
•高リスクのスポーツは、上のルールに沿った活動のみ許可

■第4段階

•すべてのスポーツで練習と試合開催が許可される

ある野球部の例

私がコーチとして参加している高校野球部は9月22日に2020-21年シーズンの練習初日を迎えることができました。部員は約40名。ただし、生徒たちは隔日で登校していますので、1度の練習に集まるのは約20人です。

練習前に全員が体温チェックを受け、37.5度以上だった場合は練習に参加できません。咳などの症状がある生徒も同様です。

フィールドに入った生徒は、さらに2グループに分けられ、ライト側とレフト側のフェンス際に2メートル以上の間隔を置いて整列します。ダグアウトやロッカーに立ち入ることはできません。

なお、練習中もずっとマスクの着用が義務づけられていますが、ランニングのときだけはかえって危険になることもありますので、マスクを外してよいことにしています。

私たちは上のガイドラインでは第2段階に入ったばかりです。従いまして、練習を再開したと言っても、できることは非常に限られています。

なにしろ第1段階ではボールすら使用できないのですから、ランニングとサインの確認、そして自重筋トレ(腕立て伏せ、スクワットなど)だけを行いました。

私の専門は野球ではなく、ストレングス&コンディショニングです。本来なら私の出番だったのですが、休止期間の長い間に運動不足になっていた生徒も多く、普通の体育の授業よりも緩いのではと思われる程度の内容に抑えざるを得ませんでした。

第2段階に入り、ようやくキャッチボールができるようになりました。しかし、「ボールの共有はしない」ルールを遵守するため、パートナーを固定し、使用するボールは1日1個のみ、毎回練習後にボールを消毒するルーチンを行っています。消毒後のボールは2週間保管し、次の日は別のボールを使います。

長い休みで身体がなまってしまった生徒も多い

仲間とスポーツができる幸せ

このように、野球部なのに野球ができているとは言えない状態にもかかわらず、部員たちのモチベーションは決して低くはありません。生き生きとした表情で(マスクでよく見えませんが)、与えられたメニューをこなしています。

彼らを見ていると、仲間と一緒にスポーツをするということが生徒たちにとっていかに大切なのかを改めて実感します。

レギュラーになれるかどうか、試合に勝つか負けるか、以前ならそうしたことが主要な関心事だったわけですが、それよりもっと重要なものがあることに気がつけたのは、この新型コロナウイルスがもたらした数少ないプラス面なのかもしれません。

私たちコーチも同様です。初日などは久しぶりにフィールドに立つというだけで、まるで子供の頃の遠足前のように嬉しかったものです。たった20人程度の練習に7人いるコーチ全員が嬉々として集まってきています。

仮にすべてが順調にいったとしても、翌2021年の3月まで野球の試合はありません。先は長いうえに、見通しもまったく立たないわけなのですが、希望を失わずに楽しんでいきたいと思っています。

アメリカ 新型コロナウイルス 部活動