コロナ禍で改めて考えた高校生にとってのスポーツとは-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その14

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コロナ禍で改めて考えた高校生にとってのスポーツとは-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その14

スポーティ

日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動は、スポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。

私は、2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは、同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。
前回記事>>日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART13-

「Let Them Play」(彼らにスポーツをやらせて)の抗議デモ

2021年2月21日、カリフォルニア州都サクラメントにあるカリフォルニア州会議事堂前である抗議集会が開かれました。10代のアスリート、指導者、そして保護者たちが、新型コロナウイルス感染拡大のために中断されている高校スポーツの再開を訴え、1万通を超える嘆願書をギャビン・ニューサム州知事宛てに届けたのです。

この抗議行動の主体になっているのは” #LetThemPlayCA” のハッシュタグで少年少女のスポーツ再開を人々に呼びかける非営利団体です。

カリフォルニア州では、昨年3月に新型コロナウイルス感染拡大を受けてロックダウンに入り、すべての高校スポーツは、シーズン途中で中止になりました。それからもうすぐで丸1年になろうとする現在でも、大部分の高校スポーツは未だに再開の目途が立っていません。

依然として、ほとんどの高校スポーツで対外試合が禁止され、練習も屋外で非接触の活動に限った「コンディショニング」のみが許されている状況です。そのために活動自体を行っていない部が多く、高校生たちからスポーツを楽しむ機会が長い間奪われたままになっています。

このような状況に対し、不満と落胆が当の高校生アスリートだけではなく、指導者や保護者たちの間にも広がっています。抗議集会では「彼らは失った時間を取り戻すことはできない」という意味の言葉を大書したプラカードを掲げた保護者の姿が目立ちました。

感染状況と再開できるスポーツの分類

背景にあるのは、もちろんカリフォルニア州における新型コロナウイルスの深刻な感染状況です。なにしろ感染件数も累計死亡者数も世界最多である米国の中でも、被害がもっとも大きい州がカリフォルニア州なのです。

日本全国の累計死亡者数が6,862人(2021年2月14日時点の情報)で、人口が日本のおよそ3分の1、約4,000万人のカリフォルニア州で累計死亡者数は約7倍強の46,855人(同)だという数字が、この州の感染状況がいかに深刻であるかを物語っています。

カリフォルニア州政府は、郡ごとに感染被害状況を色で区分けし、それぞれの安全衛生基準を定めています。7日間平均の感染者数が人口10万人につき7人以上がもっとも厳しい「非常事態」(紫)、4~7人が「深刻な危険」(赤)、1.0 ~3.9人が「軽微な危険」(オレンジ)、そして1人未満が「安全」(黄)です。

2021年2月9日に更新された州当局の公式発表では、州内58郡のうち、53郡が「非常事態」(紫)の状況にあります。州人口の99.8%がその53郡に住んでいまので、事実上、カリフォルニア州のほぼ全域がそうだと言ってよいでしょう。飲食業は室内での接客が許されず、スポーツジムは屋外のみで営業するか閉鎖されています。

出典:https://covid19.ca.gov/

カリフォルニア州高校スポーツ連盟(CIF – California Interscholastic Federation)は、この感染被害状況の色分けごとに再開できる高校スポーツを下のように分類しました。
 
「非常事態」(紫):クロスカントリー走、陸上競技、ゴルフ、水泳、テニス
「深刻な危険」(赤):野球、ソフトボール、ラクロス、フィールドホッケー
「軽微な危険」(オレンジ):バドミントン、フットボール、サッカー、バレーボール、水球
「安全」(黄):バスケットボール、レスリング

クロスカントリー走が2021年初めてのレースを実施

ここまで、カリフォルニア州内で実際に試合(レース)を実施できている高校スポーツは、屋外で非接触型という条件を満たすクロスカントリー走のみです。2月に入り、いくつかの地域でレースが行われました。

それでも、通常と全く同じと言うわけにはいきません。公園やトレイルの使用許可が下りないため、コースは主に校庭を利用しています。

スタート地点やコース内で多くのランナーが密集することを避けるため、集団でのレースではなく、2校だけの対抗戦という形を取っています。しかも出場する選手は各校からの代表7人のみに限定されています。

本来なら、高校クロスカントリー走は、全員に公平な出場機会があることが他のスポーツと比べて優れた点でした。
関連記事>>アメリカの高校部活動で盛んなクロスカントリー走とは?

その特長を生かすことができない形でのレース開催は、誰にとっても本意ではないのですが、練習すら十分にできない他のスポーツのことを考えると、クロスカントリー走の選手たちは、まだ恵まれていると言えるでしょう。

私が指導する高校クロスカントリー走部も、ようやく最近になって活動を再開しました。所属する地域リーグのレース再開予定日は、現時点で未定のままですが、選手たちは希望を持って練習を始めています。20数名の部員を2グループに分けて、1回の練習の参加者が10名を越えないようにしています。

2021年の野球シーズンは始まるか?

野球部の事情は、もう少し複雑になります。例年であれば、2月からレギュラーシーズンが始まり、各地域でリーグ戦を行い、その上位校が5月にプレーオフのトーナメントを戦う、という流れなのですが、今年はプレーオフが中止になることが既に決定しています。

唯一行われるはずの地域リーグ戦は、3月下旬に開始する予定で、全試合の日程も既に決まっています。つまりこの原稿を書いている時点でリーグ戦開幕まであと4,5週間しかありません。

しかし、現在も練習試合はおろか、選手同士の接触を伴う試合形式のプレイは練習することさえできません。それでもキャッチボールも禁止されていた数か月前よりは状況は僅かながらも前進していて、今ではノックやフリー打撃など、野球の練習ができるようにはなりました。

全員がマスクを着用して、人と人との間で距離を取る。

野球の試合が許可されるには、地域内の感染状況の色分けが現在の「非常事態」(紫)から「深刻な危険」(赤)になることが条件です。オレンジ郡の1日あたりの感染者数は最近になって減少傾向にありますが、それでも平均で10万人中30~50人程度です。あと1か月余りでその数字が7人以下にならないといけないわけですので、正直なところ見通しは暗いと言わざるを得ません。

他の部に先駆けて、9月下旬から制限付きの練習に励んできた野球少年たちです。最終学年の生徒は本格的な野球をする最後の機会かもしれません。なんとか試合ができるようになることを祈ってやみません。

スポーツは不要不急なのか?

当事者の高校生アスリートや保護者の苛立ちが募っている理由の1つに、カリフォルニア州は、他の州と比較して、スポーツの制限が突出して厳しいと思われるからです。州境を接しているアリゾナ州ではその制限が緩いため、多くの民間クラブチームが毎週末のようにアリゾナ州に遠征している、という事実もあります。一例として、アリゾナ州のある市で行われたソフトボールの大会では、出場した194チームのうち155チームがカリフォルニア州から来ていたということです。

テキサス州では、もっとも危険度が高いと思われるフットボールやバスケットボールの試合さえ、一部の観客までもが許されて開催されています。

カリフォルニア州でも、すべてのビジネスが閉鎖されているわけではありません。ショッピング・モールのように多くの人が集まる商業施設などは条件つきながらも再開しているのです。それなのに、なぜスポーツは再開できないのか? ニューサム州知事の姿勢に反発する人々の不満のありかはそこにあります。

私は、スポーツコーチです。心身の健康と幸福のため、すべての少年少女たちには、スポーツをする機会が与えられるべきだと信じています。「Let Them Play」(彼らにスポーツをやらせて)の運動にささやかながらも連帯の意を表したいと思います。

アメリカ 新型コロナウイルス 部活動