罰金、立ち入り禁止、家族旅行… プレミアリーグのチーム内ルール&おもしろイベント
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食事を取りにいく順番まで、ファン・ハール監督の指示!?
昨季は3月まで最下位で、降格間違いなしといわれながら何とか14位でシーズンを終えたレスターが、今季プレミアリーグで大番狂わせの優勝。「クリーンシート(失点ゼロでゲームを終えること)を達成したら選手たちにピザをおごる」と発言したラニエリ監督は、クリスマス前にはチームでコペンハーゲン旅行に出かけ、アーセナルとの激闘直後に「1週間の休暇を与える」という大胆な手を打って話題になりました。
アメとムチが功を奏して、レスターはその後一度も崩れることなく優勝に辿り着いたわけですが、他のクラブではどんなチーム内ルールやイベントがあるのでしょうか。プレミアリーグの監督たちのマネジメントについて、調べてみました。
「規律」「ルール」という話になると、その厳しさで最初に名前が出るのがマンチェスター・ユナイテッドのファン・ハール監督です。
このクラブには、サー・アレックス・ファーガソン監督時代から「試合前夜のミーティングで選手たちから携帯電話を回収し、試合後に返却する」「若手選手は練習場ではトップチームのロッカーは使えない。いきなり主力選手と同じ待遇を受けてうぬぼれないよう、マーカス・ラシュフォードほどの活躍を見せてもユース用のロッカーを使用する」という厳しいルールがありましたが、ファン・ハール監督になって、さらに規則の細かさに磨きがかかりました。
「試合日の朝にチーム全員で食事をする際、1分でも遅刻すれば罰金となり、チームに帯同できなくなる」「食事を取りにいく順番、食べるタイミングはファン・ハール監督が決める」「食事中の話題はサッカー関連に限定」…。聞けば聞くほど、楽しくなさそうなブレックファーストです。
ファン・ハール監督がビデオカメラで「監視」を始めたと報じられたキャリントン練習場(PHOTO by North West Air Ambulance)
キャリントンの練習場に約50万ポンド(現レートで7900万円)で分析用ビデオカメラを設置したり、疲労回復のために睡眠カプセルを導入するなどの施策も、「監視」「管理」と報じられてしまったファン・ハール監督は、若手育成手腕には定評がある一方で、一流選手との確執がたびたび伝えられていました。
バイエルン・ミュンヘン時代に彼の下でプレイしたルカ・トーニは「危うく殴るところだった」と漏らし、フランク・リベリーは「ファン・ハールの時代は、生きる喜びはかけらもなかった」とまで発言。1年でマンチェスター・ユナイテッドを去ったディ・マリアが、「ファン・ハールには彼の哲学がある。私が移籍したいと思わせた理由のひとつがそれだ。彼とうまくやっていくのは難しかった」と語ったのも、サッカーのスタイルばかりでなく、あまりに厳格すぎるルールの副作用だったのかもしれません。
彼が監督である限り、ピッチ上の指揮者であるかのように振る舞うズラタン・イブラヒモヴィッチは、行きたいクラブのリストにマンチェスターと記すことはないでしょう。
練習中のジョーク禁止…調子が上がらなかったチェルシー
昨年9月、5試合で1勝1分3敗と不振に陥ったチェルシーが「練習時のジョーク禁止」を打ち出した際は、その是非についてちょっとした議論になりました。
当時チームを率いていたジョゼ・モウリーニョ監督は、試合の翌日の完全休養を徹底し、ポジティブな雰囲気で練習することを大事にしていたのですが、チームを立て直すべく突然の方針変更。これに対しては、「逆効果ではないか」と不安視する声もあり、結局チェルシーの戦績は好転しないまま、12月にはモウリーニョ監督は退任となってしまいました。
もちろん、彼らの凋落はこればかりが理由でなく、主力選手のスランプなどさまざまな現象が重なってしまった結果なのですが、パフォーマンスが悪いからといって引き締めるだけでは効果が上がらず、選手たちがリラックスできることを大事にしたほうがいい場合もあるのだと思われます。
「選手たちの気持ちが乗らない日は練習させない」と、試合日の翌日をオフにしていたモウリーニョ監督(PHOTO by Aleksandr Osipov)
監督が企画する楽しい海外旅行
10月にリヴァプールの監督に就任したユルゲン・クロップ監督は、「メルウッドの練習場には妻や家族を連れてきてはいけない」というルールを打ち出し、選手たちに100%サッカーに集中するよう求めました。
インタビューでもしばしば「今日のわれわれには規律があった」と語る厳格な指揮官は、3月のインターナショナルマッチウィークには、各国の代表に呼ばれなかった選手たちを喜ばせる「家族や恋人同伴OKのテネリフェ合宿」を実施しました。
ベテランのルーカス・レイヴァは、「最高だね。こんなのは初めてだ。選手だけでなく、スタッフも連れていくなんて、すごい監督だ」と感激。この後、ヨーロッパリーグでドルトムントとビジャレアルを連破したリヴァプールに、テネリフェ効果はどのくらいあったのでしょうか。暖かいスペインでリラックスしながらボールを蹴り、帰ってからはサコの穴を埋めたコロ・トゥレには、コンディションを上げるいい場だったかもしれません。
1月のノリッジ戦で試合前のミーティングに遅れたマネをスターティングメンバーから外し、厳しく叱責したサウサンプトンのロナルド・クーマン監督は、就任1年めだった昨季は、バレンタインパーティーやスイス旅行を企画して、チームの一体感醸成やコンディショニングを推進。スキーやアイスホッケーに興じる選手たちの姿が、クラブの公式サイトにUPされました。
スキーにトライするサウサンプトンの選手たち。公式サイトのギャラリーに、写真と動画を掲載
司令塔のエリクセンが「人生でこんなに疲れたことはない」とこぼすほど要求が高いことで知られるトッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ監督は、11月にコーチともめたタウンゼントを試合や練習から締め出したあげく、1月にはニューカッスルに売却するという素早い対応に出ています。ただし、こちらも練習前には必ず選手やスタッフと握手していい雰囲気を作ることに努めており、1月にはバルセロナ合宿を発案。歴史ある街を歩く時間もしっかり取って、選手のリフレッシュを促しています。
「ムチ、ときどきアメ」ぐらいがほどよいのでしょうか。サッカーの戦略・戦術設計から選手のメンタルケアやコンディション管理、さらには旅行のプランニングまで、プレミアリーグの監督とはかくも大変なお仕事なのであります。