これから時代が来る? 「東都女子」の生態

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これから時代が来る? 「東都女子」の生態

スポーティ

大学野球を見たことがあるというスポーツファンは、どれくらいいるでしょうか。

高校野球の聖地が兵庫県西宮市にある甲子園球場ということは、広く知られています。一方、大学野球の聖地はどこかというと、東京都新宿区にある神宮球場です。ここで「華の早慶戦」でお馴染みの東京六大学リーグや、大学野球の全国大会も開催されます。多くの高校球児が「甲子園で試合がしたい」と願うのと同じように、大学野球選手にとって神宮球場は憧れの場所なのです。

六大学リーグの隙間日程で行われるのが「東都」

そんな神宮球場では、東京六大学リーグのほかに、もうひとつ別の連盟がリーグ戦を行なっています。それが東都大学リーグ、通称「東都」です。

このリーグは、コアな野球ファンの間では「いったい誰が見に行けるんだ?」と疑問を抱かせることで知られています。土日は東京六大学が神宮球場を使うため、東都の試合ができるのは火曜から。平日の真っ昼間となれば、社会人は仕事があり、学生は授業があります。当然、スタンドはいつも閑古鳥が鳴いている状態です。

しかも、東京六大学の試合が雨で流れたり、引き分けなどがあって月曜まで決着がつかない場合(2勝先勝したチームが勝ち点を獲得します)、東都の試合は延期となり、東京六大学が引き続き火曜も神宮球場を使います。これは、神宮球場が東京六大学の試合をするために建てられたというルーツがあり、東都は「借りている」立場のため。仕方がないことなのですが、東都は不憫なリーグなのです。

そんな東都を愛し、神宮通いを続けているヘビーウオッチャーがいます。東都ファン歴10年目になる、東京都在住の山田沙希子さんという女性です。筆者は山田さんのことを「東都ストーカー」と呼んでいましたが、本人が嫌そうな顔をするため、最近は「東都女子」と呼ぶようにしています。山田さんはどのようにして東都に出会い、のめり込んでいったのでしょうか?

足繁く神宮に通いつめる「東都女子」の山田さん

足繁く神宮に通いつめる「東都女子」の山田さん

東都に魅せられた女性。そのルーツとは

そもそも、山田さんは野球が嫌いな幼少期を過ごしたそうです。

「父がテレビで野球中継を見ていると、当時は放送時間が延長になって見たい番組が見られなかったりして、野球を憎んでいましたね(笑)」

その状況が一変したのは、1999年夏。家族にむりやり連れて行かれた高校野球の東東京大会決勝戦、神宮球場で山田さんの人生は変わりました。

「都立城東高校が決勝戦に進んだときだったんですけど、球場の雰囲気にはまりました。プレーしている選手たちだけでなく、スタンドで応援している人たちも熱くて、『野球って、こんなにも人の心を動かすんだ!』って」

それ以来、高校野球観戦にのめり込んだ山田さん。自身の成長とともに、自分と同世代の高校球児がその後に進む「大学野球」という世界に興味が湧いてきました。そこで、高校3年生の時に母親と初めて東都観戦へ。ただし、見に行ったのは通常のリーグ戦ではなく「入替戦」でした。

「今ソフトバンクにいる松田宣浩さんがいた亜細亜大と、中央大の入替戦でした。よく意味はわかっていなかったんですけど、『必死だな』ということは伝わってきました。選手、ベンチの気迫がすごくて、スタンドの雰囲気もどこか殺気立っていました」

東都はよく「戦国東都」とも形容されます。東京六大学は6校によるリーグ戦ですが、東都は21校。1部から4部まであり、全国屈指のハイレベルなチームがしのぎを削っています。特に2部リーグの試合を見ると、「1部と遜色ないじゃないか」と思えるチームばかり。2部の選手でもプロに進むような選手が毎年現れますし、2部に落ちてしまったチームは再び1部に上がるのに相当苦労します。それゆえリーグ戦が終わった後に開催される「入替戦」は壮絶で、リーグ戦よりもむしろ盛り上がるのです。

天国と地獄の分かれ目。入れ替え戦では毎年多くのドラマが生まれる

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普通の女子がハマった東都の楽しみ方とは

山田さんは入替戦をはじめ、当初は亜細亜大の「大学野球らしからぬ泥臭さ」にはまったと言います。

「攻撃が始まる前にランナーコーチが一目散にベンチを飛び出したり、ボールボーイが審判にボールを渡すタイミングや渡し方が絶妙だったり、試合に出ていない人までテキパキとしていて、しかも強い。すごいなぁと思いました。『カッコつけない』ということが、むしろ魅力的でした」

東都を代表する強豪、亜細亜大。数多くのプロ選手も輩出する

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本格的に東都にはまった山田さんは、それから平日の神宮球場に通いつめました。「1シーズンの9割の試合は見ていた」という言葉に、山田さんの尋常ならざるはまり方が伝わることでしょう。

大学では東都の試合を最優先した履修登録を組み、キャンパス内に山田さんの姿がなくても、友人たちは「沙希子はまた神宮でしょ?」と理解を示してくれたそうです。そして、大学卒業後はフリーライターとして、相変わらず東都を追い続ける日々を送っています。

近年では「渡邉貴美男くん(現・JX-ENEOS)という強烈なキャプテンがいて、周囲の選手、スタンドの部員やマネージャーまで、自分の役割を果たしている最強チーム」と評する國學院大にも出会いました。最近のオススメは「今は2部だけど、チーム全体の雰囲気が良くなってきた駒澤大」と語ります。

山田さん曰く最強チームの國學院大

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「10年前に比べればお客さんが増えてきましたけど、それでもすいていてゆったり座れます。外回りの途中で『仕事だるいな~』というときに、ふらっと神宮に寄って、何となく試合を見て、『すごい』思えるチームや選手を見つけてもらえたらうれしいです」

スポーツの楽しみ方は人それぞれ。東都のスタンドにも、さまざまな「それぞれ」が混沌となり、奇妙な雰囲気をつくりあげています。山田さんは今「東都の奥底が知りたい」という欲求にかられて、神宮球場に足を運んでいるそうです。

東都はすでに秋季リーグ戦が9月5日から開幕しています。「東都女子」山田さんがのめり込んだ世界を、一度のぞいてみてはいかがでしょうか?

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