苦しんだアーセナルが最後に戴冠!FAカップ決勝戦・観戦レポート
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2017年5月27日。736クラブが参加して争われたエミレーツFAカップも、ついにファイナルを迎えました。勝てばプレミアリーグとのダブル制覇となるチェルシーに対して、アーセナルは単独で史上最多となる13回めの優勝をめざします。決勝戦では1回しか負けていないアーセン・ヴェンゲル監督にとっても、第二次世界大戦前にアストン・ヴィラを率いたジョージ・ラムゼイ監督をかわして単独1位の7度めの優勝を賭けた一戦。直近3シーズンで2度の優勝を果たしていたアーセナルですが、今までのフェイナルとは違った緊張感が彼らを支配していました。
19年にわたって1度も失うことがなかったチャンピオンズリーグ出場権を手離した、無念のシーズン。この試合を最後に勇退するという噂が消えなかったヴェンゲル監督。今季限りでクラブを去るのではないかといわれていたアレクシス・サンチェス。メスト・エジルの去就も不透明です。キックオフから3分以上の間、ずっとボールをまわし続けたアーセナル。その気迫に押されたチェルシーは、1度もボールを奪えないまま、ロンドンのライバルに先制ゴールを決められてしまいました。
TOP画像:PHOTO by Oyvind Vik
アレクシス・サンチェスにとっては最後の試合?
ダヴィド・ルイスのクリアをカットして、3バックの裏に浮かしたボールを自ら決めたのは、アレクシス・サンチェス。プレミアリーグ38試合に全試合出場を果たし、自己べストの24ゴールを決めたエースは、何としてもプレミアリーグを制覇したかったのでしょう。
1月から自身の契約延長に関する記事が、現地メディアを賑わせるようになったのと時を同じくして、チームメイトのプレイに怒りを露わにするシーンが目立つようになりました。監督よりも勝利にこだわる姿には鬼気迫るものがあり、それが時として周囲との関係に溝を生んでしまったかもしれません。
CLのラウンド16でバイエルン・ミュンヘンに2試合トータル10-2と惨敗し、混乱に陥っていたチームのなかで、時折ベンチに下がったアレクシス・サンチェスは、すべてを諦めたかのような笑顔を見せるようになりました。
頼れるアレクシス・サンチェスが、電光石火の先制ゴール(PHOTO by joshjdss)
アーセナルの3バックが本家をしのぐ堅守を披露
アレクシス・サンチェスにパスカットされた瞬間、ハンドと判断してプレイを止めてしまったダヴィド・ルイスは、トッテナムの追い上げを受けていたプレミアリーグでは、そんな隙を見せる選手ではありませんでした。
リーグ優勝が決まり、「さよならジョン・テリー」とレジェンドの最後のゲームを盛り上げていたチェルシーは、2年ぶりの戴冠で既に満足してしまっていたのかもしれません。試合は、完全なるアーセナルペース。19分のCKではウェルベックのヘディングシュートがポストに当たり、31分にもウェルベックがクルトワと1対1になるなど、いつ追加点が入ってもおかしくない展開です。
負傷が長引き、プレミアリーグでは最終節にしか出られなかったメルテザッカーは、ホールディング、モンレアルと並ぶ3バックで、的確に相手のチャンスの芽を摘んでいます。
思えば、チェルシーのコンテ監督が初めて3バックを試したのは、前半で3−0とされた6節のアーセナル戦でした。あれから8ヵ月。今はアーセナルがチェルシーの戦い方を手本として、最後の5試合を全勝と4位まであと一歩に迫り、この試合でも優位に立っています。
2014年のハル・シティ戦でも優勝を決めるゴールを挙げているラムジーが、またも大舞台で決勝ゴール(PHOTO by Ronnie Macdonald)
後半に入ると、同点に追いつきたいチェルシーが猛攻を展開しますが、カンテのミドルシュートも右から放ったヴィクター・モーゼスの決定的な一撃も、オスピナがセーブ。プレミアリーグで出番がなかった選手の活躍も、FAカップの見どころのひとつです。
アーセナルは、3バックの前にジャカが下がり、ミドルシュートを打たせないようにスペースを埋めています。61分にマティッチに代わって元アーセナルのセスクがピッチに入ると、ウェンブリーにブーイングがこだまします。67分、右サイドで脅威となっていたヴィクター・モーゼスがペナルティエリア内のダイブを咎められ、2枚めのイエローカードで退場。残り20分を過ぎると、10人になったチェルシーにアーセナルの攻撃陣が襲いかかります。ドリブルで左サイドを突破したチェンバレンが中央に折り返すと、アレクシス・サンチェスがこの日の2点めを狙いますが、DFにブロックされてチャンスを逸します。
「このメダルは、とっておこう」
コンテ監督が72分にウィリアンを投入すると、これが大当たり。入って間もなくウィリアンが右から浮かしたクロスがジエゴ・コスタに通り、ワントラップして放ったシュートがメルテザッカーに当たってゴールの左隅に吸い込まれていきます。しかし、今日は「アーセナルの日」だったのでしょう。1-1となった1分後、アレクシス・サンチェスのパスでジルーが縦に走り、ゴールライン際から上げたクロス
に飛び込んだのはラムジー。丁寧に叩いたヘディングシュートに、名手クルトワの左手は及びませんでした。
パス本数はジャカに次ぐ2位、チャンスメイク数はトップだったメスト・エジル(PHOTO by Ronnie Macdonald)
86分にカンテがゴール前に上げたボールをアザールが競り、こぼれ球をトラップしたジエゴ・コスタがボレーで叩くと、オスピナが体を張ってストップ。これがチェルシーの最後のチャンスでした。カウンターからマルコス・アロンソをかわしたエジルがシュートをポストに当てるなど、最後まで攻めたアーセナルが13回めの優勝を果たしました。
タイムアップの笛が鳴った瞬間、オシピナは拳を天に突き上げ、ヴェンゲル監督は何度もガッツポーズ。おそらくこの試合の前に新たな2年契約を結ぶことが決まっていた指揮官は、22年めのプレミアリーグに向かうことを宣言したように晴れやかな笑顔を見せていました。
最後の2試合だけチームに貢献した主将のメルテザッカーは、顔をゆがめてウェンブリーの空を見上げています。ボスと抱擁をかわしたアレクシス・サンチェスは、来季もこのユニフォームを来てピッチに登場するのでしょうか。
「このメダルは、とっておこう」。今までの優勝メダルは、すべてスタッフにプレゼントしていたヴェンゲル監督が、指揮官として最多となる7つめは手元に残すとコメントしました。苦しい時期を乗り越え、最後にタイトルを手に入れたチームを忘れずにいたいと思ったのでしょう。
シーズンの最後を飾るFAカップの勝者は、いつも美しいものですが、プレミアリーグで4位以内をキープし続けてきた67歳の指揮官が、いつもの場所に届かずプライドを賭けて戦った今年のファイナルは、とりわけ感慨深い幕切れとなりました。