日本未上陸の最長スパルタン・レースに挑戦してみた

日本未上陸の最長スパルタン・レースに挑戦してみた DO

日本未上陸の最長スパルタン・レースに挑戦してみた

スポーティ

前回のフラッグ・フットボールに続いて、2028年のロサンゼルス・オリンピックで採用される新しい競技の話題です。近代5種競技の馬術に代わって、障害物レース(OCR – Obstacle Course Racing)が採用されることが決定しました。コース内に設けられた障害物をクリアしながら走るレースのことです。

障害物レースは2000年代にアメリカで人気が高まり、世界に広がっていきました。最大規模シリーズである「スパルタン・レース」は日本でも行われていますので、見聞きした人や参加したことがある人もいるかもしれません。

スパルタン・レースではコース距離と障害物の数によって、クラスを以下のように分けています。

•スプリント:5キロ、20個の障害物
•スーパー:10キロ、25個の障害物
•ビースト:21キロ、30個の障害物
•ウルトラ:50キロ、60個の障害物

これまでに日本で行われたレースで最長のクラスはビーストです。その2倍以上となる「ザ・ウルトラ」に挑戦してきました。2023年11月4日、場所はカリフォルニア州中央部のSan Luis Obispoです。

50キロという距離はウルトラマラソンに分類されます。それをただ走るだけで「クレイジー!」と呼ばれることもあるというのに、さらに60個の障害物が待ち構えているというのですから、まさにクレイジーの2乗と言えなくもありません。

スパルタン・レース公式Youtube

結論から述べますと、私はなんとか制限時間内でこのレースを完走することができました。一体どんな経験だったのか、1参加者の立場から紹介します。

スパルタン・ウルトラを(ヘロヘロでも)完走するために必要な運動能力とは

スパルタン・ウルトラ部門スタート5分前。

ウルトラ部門はまだ夜が明けない午前6時台にスタートしました。当然真っ暗ですので、参加者にはヘッドランプ着用が義務づけられます。理由はもちろん、やたら時間がかかるこのレースをその日のうちに終わらせるためです。中間地点を午後2時半までに通過すること、という制限時間が事前に主催者から伝えられました。

次々と現れる障害物は私見では5つの種類に分けられます。壁を乗り越えるジャンプ系、雲梯やつり輪などの体操系、握力とバランスが決め手のクライミング系、ひたすらガマンの匍匐前進系、重いものを抱えて歩いたり引っ張ったりするパワー系です。

つまり、50キロを走る耐久力に加えて、筋力やボディバランスなども問われるわけです。そのせいでしょうか、参加者の年齢層は比較的若い世代が多いようでした。マラソンやトライアスロンのような耐久系レースでは高齢化が進み、40代、50代の人数が最も多いことや、60代以上の参加者さえも珍しくなってきていますが、今回のレースでは20代、30代が主流だったように思います。

障害物のひとつ、STAIRWAY TO SPARTA。

トシをとるとまず衰えるのが瞬発力や敏捷性。柔軟性もバランスも失われていきます。その点、クロスフィットでは10の基礎運動能力(心肺持久力、スタミナ、筋力、柔軟性、パワー、スピード、コーディネーション、俊敏性、バランス、正確性)を満遍なく鍛えますので、スパルタン・レースにもばっちり対応できますよ、という宣伝はともかく、広範囲の運動能力を高められることは間違いありません。

ちなみに参加者の男女比は半々くらいでした。砂袋や鉄球などのウェイト系は男女で重量を分けていましたが、それ以外は性差による違いはありません。夫婦か恋人同士で参加していると思われる2人組もちらほら見ました。なんとも羨ましいことです。本当はこういう人たちを「パワーカップル」と呼ぶべきではないでしょうか。

最大の難関は障害物にあらず

テレビ番組の『サスケ』などとは異なり、スパルタン・レースでは障害物をクリアできなくても、そこでレースが終わるわけではありません。障害物付近には「ペナルティ・ループ」と呼ばれる200mほどの別コースがあり、クリアできない人はそこを走るか歩けば本コースに復帰できるルールになっています。

以前はこのペナルティがバーピー15回だったそうですが、2023年から上記の穏やかな方法へと変更されました。バーピーはきつ過ぎるとの参加者からの不満が多かったためか、あるいはスタッフがいちいちジャッジをするのが面倒だったためか、多分その両方でしょう。

鉄球を抱えて歩くだけ、のシンプルな障害物。男性用(黒)は女性用(赤)より重い。

くどいようですが、私自身はクロスフィットをやっていますので、ほとんどすべての障害物をクリアできました。2028年オリンピックで近代五種競技の代表入りを目指しておられる人(日本に何人いるのでしょうか)は、ぜひトレーニングの場所にクロスフィットを加えて頂きたいと思います。

私は唯一、「やり投げ」(5メートルくらい先の的にやりを投げて突き刺す)だけはしくじり、ペナルティ・ループを1周しました。これだけはクロスフィットでもやったことはなかった。

いずれにしても、完走することが目標の一般参加者にとっては、障害物をクリアできないことはあまり大きな問題にはなりません。それは単にプライドの問題かもしれません。もちろん、競技者となれば話は別になるわけですが。

私が最もきついと感じた部分は障害物ではなく、コースそのものにありました。牧場の地形を利用したコースは激しいアップダウンの連続だったのです。累計標高差は約1,433メートルとのことで、トレイルランとしても険しい部類に入ります。這いつくばるような登り坂も、お尻で滑りたくなるような下り坂もありました。

地味で苦しい登り坂。「Death March」(死の行進)と呟いた参加者がいて、周囲に受けていた。

平均すると1キロに1個以上の頻度で現れる障害物。飽きがこないとは言えますが、やはり体力が落ちたレース後半になると前方に見えてくるだけでうんざりします。有刺鉄線の下を土まみれになって地面を這う匍匐前進などは、けっして心躍るものではありません。

俺はなんでこんなことやっているんだろう。レース中はそんな気持ちに何回も襲われることになりました。「吹き飛ばせ その虚しさってやつを」と浜田省吾の名曲『J.Boy』のサビ部分を心の中で繰り返し口ずさんで頑張りました、というのは冗談だということにしておきます。

結局のところ、スパルタン・ウルトラを完走するために最も大事な要素は「根性」ではないでしょうか。

メジャーリーグ史に残る伝説の名捕手、故ヨギ・ベラ氏の名(迷)言をもじって、この文章を結びたいと思います。

「スパルタン・ウルトラは90%がメンタルで、残り半分がフィジカルだ」

スパルタン・レース ロサンゼルスオリンピック 障害物レース