映画『クレイジー・フォー・マウンテン』ジェニファー・ピードン監督インタビュー

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映画『クレイジー・フォー・マウンテン』ジェニファー・ピードン監督インタビュー

スポーティ

ドキュメンタリー映画監督として活動を続けているジェニファー・ピードン監督。山の上でも撮影ができるカメラマンとしても活動するきっかけになったのは、ニュージーランドの登山家にヒマラヤへ連れて行ってもらった経験にありました。

初めて行ったヒマラヤは、居心地がよく私の居場所だという感覚になったとのこと。自身も登山家である監督が今回挑んだのは、様々な山を舞台にしてエクストリームスポーツに挑む登山家たちの記録映像と、クラシック音楽を融合させたドキュメンタリー映画です。制作を通して、音楽を融合させることで難しかった点や、監督が感じた登山家たちの思いなどを聞きました。

>>まだ見ぬ絶景へ。映画『クレイジー・フォー・マウンテン』7月21日公開!

なぜ人は危険を求めるのか

―監督自身も登山をされるとのことですが、山に登る理由はなんですか?

今は子供が2人いるので危険な山には登らないですが、トレッキングに行くことは好きです。山に行くことで自分の限界を知り、自分は何が可能なのかを知ることができます。そこで、自分はちっぽけだと感じると同時に、謙虚さを思い出させてくれます。

―山に行くことで限界を知ることができるとのことですが、自分の限界を試す登山家たちに対してどのように思いますか?

私はやろうとは思わないですが、人それぞれ脳の構造は違うので、彼らはそういった脳の構造をしているというだけだと思います。

何年も前に、オーストラリア人がオーストラリアからニュージーランドまでカヤックで渡る映画を撮ったのですが、彼はその後も妻も子供もいるにも関わらず、あえて危険なことをやり続けた結果、命を落としました。もし生き抜いていたとしても、もっと危険なことを彼はやったと思いますし、人にとっては抑えられない衝動もあるのだと思います。

ただ、注目されたいがために危険を顧みず無茶苦茶なことをする人たちは、許せません。

―今まで危険を侵さなかった人たちが、何かのきっかけで目覚めるようになることはあると思いますか?

根拠はないですが、リスクに対しての鈍感さや敏感さは元々その人たちが持っているもの、例えば遺伝子構造などにあると思います。ある人は突然ドラッグに走って無茶苦茶な生き方をしたりするし、ある人は友人などの影響によって何かに突然目覚めることもあります。

限界に挑むエクストリームスポーツ

―劇中の登山家たちは、どのような思いでエクストリームスポーツをやっているのですか?

なぜやるのか、みんな自問自答をするそうです。しかし、同じようなことをやっている人たちのコミュニティーに入るとそれが普通になってしまうので、感覚が鈍ってきてまたやってしまうと言っていました。
私自身もエベレストで撮影をしていた時、家族は友人達からはなぜそんな危険なことをするのかと言われましたが、自分としてはただ山を登っているだけと言う感覚でしかありませんでした。

―監督自身は、危険なことが普通だという感覚になってしまうことへの恐怖心はありましたか?

若い時はあまりなく、『自分は限界がない、自分は大丈夫』と思い込んでいました。
山での事故は18~25歳の男性に多いと言います。若い彼らは自分の力を過信して、自分の力を超えたリスクに挑んでしまうのではないかと思います。

―お子さんが、エクストリームスポーツをやりたいと言い出したらどうしますか?

実は娘はロッククライミングが大好きで、小さい時から登っています。
私の両親は私が危険な山に行くことを止めなかったので、私も本人たちの意思を尊重したいです。

優美な山々の映像、クレイジーな登山家たちとクラシック音楽との融合

―映画内で使用されているクラシック音楽ですが、映像と融合する際、難しかった点はどこでしょうか?

最初はオーストラリア室内管弦楽団からの依頼で、コンサートで流す映像を制作する予定だったのですが、せっかく作るなら映画館で上映できる作品にしようということで、本作品を制作しました。
通常、映画音楽は映画の演出に合わせてオリジナルのものを制作しますが、今回は劇中の半分は既存のクラシック音楽に映像を当てはめました。
コンサートの途中で映像に合わせて曲をカットしたりはできないので、一曲丸ごと当てはめられる曲を探すために何十曲も聴き込みました。ビバルディの曲は躍動感があり曲も短めで使いやすいけれど、モーツァルトは曲が長めで途中からは使えなかったりと、それぞれの曲の特徴があるので苦戦しました。
その他は、通常の制作方法と同じように、映像の曲を当てはめて行きました。

―2000時間ある映像を72分にまとめたとのことですが、映像を選ぶ基準はどのようなところにありましたか。

映像の編集作業をするときに一番大事なのは物語性です。今回は物語があるわけではないのですが構成はあって、人間と山の関係の変化によって人間が段々リスクを取るようになっていったことを伝えたいと言う思いがありました。使用する映像はその思いに合うものでクオリティの高いもの、少しでも劣るものは使用しないという基準で選んでいきましたが、中にはクオリティが高いものでなくても、構成として欲しいものは入れるというバランスで決めていきました。

登山家でも登山家でなくても山のエネルギーを感じて欲しい

―この映画を通して監督が最も伝えたいことは何ですか

山を登る人は、劇中の登山家たちの考えや思いの部分で共感してくれると思います。また、山に登らない人でも自分たちは行けないけれど、世界には素敵なところがあるのだと言うことを知って楽しんで欲しいと思います。山という壮大な力を持ったものの前で、謙虚さを忘れてはいけないと感じて欲しいです。

―最後に、日本の魅力を教えてください。また、日本のファンへメッセージをお願いします。

日本には2度スキーをしに来たことがありますが、日本の雪の質は高く、最高のスキーを味わうことができました。また日本の文化や食べ物も大好きです。日本人は個人よりも周囲のコミュニティーを大事にするので、オーストラリア人も日本人から学べることが多いのではないかと思います。
日本での滞在が山に対するインスピレーションを与えた部分もあるので、ぜひ日本の皆さんにも楽しんでいただきたいです。

クレイジーフォーマウンテンは7/21(土)から新宿武蔵野館・シネクイントほか全国順次公開します。
オーストラリア室内管弦楽団の演奏に乗せた壮大で美しい山岳の映像、エクストリームスポーツに挑戦する登山家たちをぜひスクリーンにてご覧ください。

インタビュー:萩原拓也(Sortie編集部)
文・インタビュー中写真:郷原麻衣(Sortie編集部)

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