全日本女王・判野みのり選手が語る射撃への熱い想いとは

全日本女王・判野みのり選手が語る射撃への熱い想いとは WATCH

全日本女王・判野みのり選手が語る射撃への熱い想いとは

スポーティ

2018年11月に行われた全日本選手権「ランニングターゲット」で8連覇を達成した判野みのり選手。クレー射撃、ランニングターゲットで日本のトップを走る判野選手に、競技を始めたきっかけや全日本選手権8連覇の裏側、射撃の魅力について語ってもらいました。

生活の一部だった「射撃」

ーー誰でも簡単に始められるスポーツではない「射撃」。判野選手が競技を始められたのはどのようなきっかけだったのでしょうか?

父親の影響ですね。父親はクレー射撃を趣味で今でもやっているのですが、母親のお腹の中にいた時から射撃の音を聞いていました。大会は基本的に土日に開催されるので結局ついていくことになり、自分がいる場所は家か射撃場のどちらかでした。だから小さい時から生活の一部。すぐそばで見てきたものなので、そのまま影響を受けました。始めたのは中学2年生でしたが、自分の中では選手としてやっていこうという気持ちはありませんでした。

父親と同じく、趣味で遊びの感覚でやっていきたいと思っていましたが、自分というより周りが勝手に盛り上がって、選手として取り組まざるを得なかったですね(笑)。成績が伴っていたというよりは、同じ年代がいないのが周りから期待される要因の一つだと思います。射撃は競技人口が少ない上に、私は14歳で免許取得して本格的に始めたのですが、これは一般に競技に参加できる年齢ではなく、日本体育協会が定める推薦制度を利用しなくては競技に参加できません。そういったこともあり、同じ年代の選手は殆どいません。射撃に関わらずどのスポーツも幼い時から始めた方がいいように、射撃も同じなんです。海外の選手は10歳から競技を始めていますが、日本は銃の法律関係で規制が厳しく、若い時から持てません。

ーー普段射撃の練習はどのようなことを行なっているのですか?

実際に射撃場で撃って練習する以外で言えば、部屋の中で据銃(銃床を肩につけて構えること)することですね。弾を入れずに構えるだけです。持って重さの感覚だったり、毎回同じポジションに銃が来るように、ずれることが無いようにする練習をしています。銃を支える筋肉も据銃をすることで付きますし、実物の銃で行うので、感覚的な部分でも練習になります。自分と銃が一体になる、体の一部になるっていう意味では据銃が、私は一番の練習だと思っています。あとは大会に出るのが一番です。

ーー判野選手の強みはなんでしょうか?

あまり考えたことはないですが、集中力だと思います。

現在は固定立射を離れてRT(ランニングターゲット)とクレー射撃をメインにされていますよね。

競技を始めた当時の最終目標がクレー射撃でした。固定立射はあくまで通過点なんです。銃を持つ、競技を始めるにあたって、固定立射の日本ライフル射撃協会所属で行われている競技に出るしか銃を持つ権利がなかったので、まずは固定立射から始めました。はじめた当時はRTというものを知らなくて、固定立射が終わればクレー射撃にステップアップするものだと思っていました。

固定立射を高校3年間やっていましたが、その時期にRTのホームページを見つけました。固定立射は紙の標的も自分も止まっていて、微動だにしない中で行います。クレー射撃は屋外でクレー(皿状の標的)が動いている中での競技です。紙の標的が決まった軌道を横に動くRTが、ちょうど固定立射とクレー射撃の中間なのです。その中間も経験した方がクレー射撃に向けてスムーズだと思ったのがきっかけです。いきなり標的が止まってる競技からステップアップするよりはRTというクッションを入れることで、より自然に競技に馴染んでいけると思ったのが当時の予定です。ただ当初はRTも続ける気はありませんでした。

ーー通過点だったRTがクレー射撃と両立になったのはなぜなのでしょうか?

自分が今トップを走っている以上、やめられなくなりました。高校3年生の終わりにRTを本格的に始めました。RT部会は日本クレー射撃協会の傘下に属している部会で、当時やっいた固定立射とは協会が違って、とりあえず入会だけでもと高校在学中に入会しました。そして高校3年の固定立射で出場した国体が終わったタイミングで、固定立射からRTに転向しました。

今やっているRTとクレー射撃の基礎である固定立射があったおかげで、成績は当時の部会の中で一番良かったです。国体が終わってすぐの高校在学中に、いきなりカタールのドーハーで行われるRTのアジア選手権の派遣が決定し、そこからも大会が続き、全日本も今年で8連覇しています。どう考えたってやめられない(笑)。「じゃあやめます」なんて言えない状態になってますよね。後継者を探さなけれないけないと思っていますので、今でも続けているって感覚ですかね。

ーー判野選手から見る射撃の魅力はなんでしょう?

自分の実力がそのまま反映されるところです。人の考えで判定される競技とは違って、射撃は当たったか外れたかです。クレーの場合は当たれば1点、外れれば0点。RTは0点圏から10点圏のどこに当たったか、的が紙だから目視できます。白黒はっきりした競技で、ごまかしが利かない、まさに実力の世界です。頑張った分だけ結果に表れるが、魅力ではないでしょうか。

あと射撃は銃を扱うので、誰もが簡単に始めることができない競技です。それでも普通に考えたら生活に関係ないものですし、滅多に扱えるものではないものを、戦う武器としてではなく競技で使います。使い方によっては危ないものを競技として使ってるのは貴重な経験だと思いますので、そんな経験ができるところも魅力だと思います。

偉業の裏にはトラブルと判野選手の意地があった!

ーー今年も全日本選手権を制し、RTで8連覇を達成されましたね。

射撃人口が少なくて、毎年顔ぶれが殆ど一緒で、人数も増えてきていません。日本選手権に思い入れはそこまで強くはないですが、連覇してるのと、一年の締めくくりとなる最後の大会なので、「今年も勝ちたいな」っていつも思っています。国内であれば大会に出れば優勝っていうくらい、負ける気がしません。
それでも私は大会の大小関わらず毎回緊張します。緊張はしますが、RTに限っては負ける気がしないんです。初めての全日本は2位だったので、それが悔しかった。悔しさを反動に、そこからは8連覇をさせてもらってます。




ーー今年、韓国の昌原で開催された世界選手権では残念な結果となってしまいました。

普段の実力が出せませんでした。実は銃が故障していて、まともに動いてくれませんでした。さらに銃が故障していると気づいたのが大会最終日。メンタルの問題もありますので、それまで調子が悪いのは自分なのか銃なのかがわかりませんでした。RTはルール改正があって男女ともに30+30(10m先に長さ2mのオープニングを左右どちらかから出てくる的を撃ち抜く競技。5秒で過ぎ去るスローと2.5秒で過ぎ去るファストがあり、各30発、合計60発で争われる)に変わって、MIX(スローかファスト、どっちが出て来るかわからない種目で合計40発で行われる)と合わせて2種目に出場しました。




公開練習が初日にあって、スローの30発だけをやる日があり、翌日にファストの30発を打ちます。(国際大会の場合、スローとファストが別の日に行われるが、国内大会では1日で行う。)初日に打った感覚と2日目の感覚が違っていたのですが、MIXの本番が行われる最終日に銃が故障していることが判明しました。朝方に銃を調整している時に故障していることがわかり、すぐに直してもらって何とか間に合いました。

銃は繊細で、少しでもぶつけたりするとすぐに狂ってしまいます。しかし、大会期間中に故障の原因となるようなことをしていないので、余計に銃の不具合だとわからなかったのです。最終日に完全に弾が出てこなくなり、ようやく問題が銃にあることに気が付きました。銃の不具合に気づかなかったことが影響し、大会を通して成績の波が大きかく出てしまいました。最終日も付け焼き刃な応急処置だったので、MIXの40発の内、最初の20発は調子が振るわなくて。しかし残りの20発は修正し、いつもの調子で打てましたが、トータルで見ると結果は出ませんでした。韓国に出発する前、日本では調子が悪くなかっただけに悔しかったです。

ーーそんな状態でもMIXに関しては日本記録タイの記録が出ました。

その最後の20発で持ち上げることができました。しかし日本記録は、世界に比べたら高くありません。

ーー故障した銃の修理が間に合って全日本8連覇を成し遂げたのでしょうか。

銃の修理には最低1ヶ月半から2ヶ月かかります。世界選手権から帰国した後、日本選手権を含め3試合残っていました。9月から1ヶ月ごとに試合がありましたので、銃を修理に出すタイミングがありませんでした。大会に出れないのは困るし、連覇もかかってたので、修理に出さず、応急処置をした銃で戦いました。いつ壊れてもおかしくない、不安がある中での試合でした。それでも結果を残すことができた日本選手権が終わり、今年の試合が全て終わったその日のうちに修理に出しました。銃をオーバーホール(銃を部品単位まで分解し、清掃、組み立てを行い、新品同然の状態にすること)して戻ってきたのはつい最近なんです。

目標を決めない。目の前の試合を全力で。

ーー世界選手権、全日本8連覇の裏にはそんなことがあったのですね!東京2020もありますが、これからの目標は何ですか?

いけるところまでやるだけです。私の性格上、目標を設定してしまうと、いざたどり着いた時に燃え尽き症候群みたいに全てが終わってしまいそうなので、ここまでという線引きはしていません。だから目標を立てるくらいなら、「どこまで行けるか、行けるところまでいってやる!」と思った方が限界を決めてない分、どこまでも頑張れます。出れる大会には出たいですし、出る以上は成績を出したいです。一切手を抜かずに、できるところまでやります。

ーー最後にファンの方や射撃に興味を持ってくれている方々へメッセージをお願いします。

射撃競技は武器を扱っていますので、誰しもが簡単に持てません。スポーツと言いながら警察の許可や資格が必要になり、他の競技と違って道具が揃えばできるわけではありません。扱い方次第で武器にもなりますが、使い方に気をつけて、ルールに則って使っていただければ問題ありませんので、怖がって欲しくないです。

銃って聞くとやっぱり良いイメージを真っ先に連想する人はなかなかいないですからね。今テレビでも扱ってくれていますが、最初は純粋にかっこいいと思ってくれるだけでもいいですし、きっかけはなんでもいいと思っています。ゲームから入るのもいいと思います。面白さが伝わりにくい面もありますが、純粋に面白く、かっこいい競技です。扱うものも、扱う人もかっこいい。クレー射撃でお皿が割れた瞬間は盛り上がりますし、音とか火薬の匂い、射撃専用のベストもかっこいいので、まずは見て欲しいですね。私への応援ももちろん嬉しいですが、射撃競技に興味を持ってくれる人が増えて欲しいです。

編集後記

雰囲気が柔らかい印象の判野選手ですが、言葉の中に日本のトップとしての自覚、そして射撃業界の普及に貢献したいという熱い想いが伝わってきました。動きが少ないスポーツですが、メンタルの強さと精密な技術が必要とされる射撃。息をすることも忘れてしまうような極限の緊張感の中で、正確に的を射抜く射撃はまさに自分との戦いです。東京2020オリンピックでも行われる射撃ですが、独特の緊張感、迫力の音、匂いは射撃ならではの魅力です。

判野選手、そして射撃競技からも目が離せません!

判野みのり 射撃