今シーズンの行方を占う春の自転車レース -ブエルタ・コムニタット・バレンシアーナ-

今シーズンの行方を占う春の自転車レース -ブエルタ・コムニタット・バレンシアーナ- WATCH

今シーズンの行方を占う春の自転車レース -ブエルタ・コムニタット・バレンシアーナ-

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毎年2月の第1週目にブエルタ・コムニタット・バレンシアーナ(Vuelta a la Comunitat Valenciana)が、スペインで開催されます。大会名のとおり、オレンジで有名なバレンシア州を舞台とする5日間のレースです。今年70回目の開催を迎えたこのレースには、毎年ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスの出走を視野に入れた有力選手たちが集合します。

今年は、このレース名物の冷たい北風もなく、とても穏やかな天候でのレース開催となりました。今回の記事では、このレースの様子をレポートします。

*ヨーロッパ・チャンピオンのマテオ・トレンティン (Matteo Trentin/MTS Mitchelton Scott) 選手が第2ステージで勝利を飾った瞬間。
TOP写真 Photo by Yukari TSUSHIMA

登りのタイムトライアル


ゴール地点からは市内が一望。Photo by Yukari TSUSHIMA

今年のブエルタ・コムニタット・バレンシアーナはオリウエラ(Orihuela)という街を舞台とした、10kmの個人タイムトライアルで幕を開けました。

このタイムトライアルのコースは、基本的には平坦基調。しかし、ゴール直前には、約600m続くカーブの多い登りが選手を待ち構えます。加えて、最後の1kmは道が細いため、各チームのチームカーが選手の後について走ることができません。そのため、どのチームにも機材提供可能な、ニュートラルカーのメカニックがタイヤをもって、コース上にスタンバイします。


メカニックが待機中。Photo by Yukari TSUSHIMA

初日にステージ優勝したのはエドアルド・ボアソン・ハーゲン(Edvald Boasson Hagen/ Team Dimension Data) 選手。このステージでの上位陣は、タイムトライアルのスペシャリストとクライマーが混在する結果になりました。


エドアルド・ボアソン・ハーゲン選手。写真は第2ステージのもの。Photo by Yukari TSUSHIMA

実は、順位やタイム差以上に、このオリウエラの登りは、選手たちの現在の調子をはっきりと表す場所になりました。調子の良い選手は、最後の600mに入ってもスピードを落とすことなく、スムーズにリズムを変えて、最後まで坂を登り切ることができます。しかし、本調子ではない選手は登りに入ると一気に、スピードが減速します。

シーズンイン直後ということもあり、準備ができている選手とそうではない選手との差が、はっきりとわかるステージとなりました。

温暖な気候とスプリンターの活躍


笑顔のオマール・フレイレ(Omar Freire/Astana Pro Team)選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

第2ステージはアリカンテ(Alicante)市内をスタート・ゴールとする166kmのコース。若干の登りはあるものの、基本的には、スプリント勝負になるコースです。

スタート地点は、海のすぐ横にあるアリカンテの市役所前の広場。この日の気温は20度ほど。ロシアの選手たちにとっては、「もう、夏みたいなもんだよね。半袖で自転車乗れるんだから」とのこと。


ロシアのチームのガスプロム・ルソベロ(Gazprom-RusVelo)。Photo by Yukari TSUSHIMA

スペインの選手にとっても、意見は同じだったようです。フェルナンド・バルセロ(Fernando Barceló/ Euskadi Basque Country-Murias)選手も、大変ご機嫌の様子でした。


ご機嫌のバルセロ選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

このバレンシアでのレースに参加する選手の多くは、前の週にマヨルカ島での4日間のレースにも参加しています。しかし、このマヨルカでのレースは、冷たい雨の中での開催でした。そのため多くの選手にとって、今年のバレンシアの気候は大歓迎すべきものであったようです。

そして、この日のステージを制したのは、ヨーロッパ・チャンピオンジャージを身につけたマテオ・トレンティン選手。


Photo by Yukari TSUSHIMA

今回のブエルタ・コムニタット・バレンシアーナで多くの北ヨーロッパのスプリンターが活躍していたのも、このバレンシアの気候のよさと無関係ではないのかもしれません。

有力選手の調子は?


第2ステージのスタート前。Photo by Yukari TSUSHIMA

今年のこのレースで目を引いたのが、調子のよいスペイン人選手が多かったことです。今年のこのレースの総合優勝者はヨン・イザギーレ(Ion Izaguirre/Astana Pro Team)選手、第2位は現世界チャンピオンのアレハンドロ・バルベルデ(Alejandro Valverde/ Movistar Team)選手、第3位はペリョ・ビルバオ(Pello Bilbao: Astana Pro Team)選手と、スペイン人選手が表彰台に上りました。


アレハンドロ・バルベルデ選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

その一方で、まだまだ本調子でないという印象を与えたのが、昨年のツール・ド・フランス優勝者のゲラン・トーマス(Geraint Thomas/Sky)選手。優勝したイザギーレ選手からから4分27秒差の遅れの総合44位で、このレースを終えました。


ゲラン・トーマス選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

また、現地ではエステバン・チャベス(Esteban Chaves/Mitchelton-Scott)選手の調整が遅れていることを指摘する意見もありました。


エステバン・チャベス選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

とはいえ、多くのサイクリストたちにとって、シーズンはまだ始まったばかり。特にジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスに出走する選手は、これからいくつかのレースを走ることで、本番に向けて調子を上げていきます。

一方、スプリンターや1DAYレースを主戦場とするサイクリストたちは、体調もほぼ仕上がっている様子でした。

春を告げるバレンシアのレース


Photo by Yukari TSUSHIMA

今年で70回目の開催を迎えた、ブエルタ・コムニタット・バレンシアーナ。しかし、スペインが経済危機で苦しんでいた2009年から2015年までの間、このレースが開催されることはありませんでした。

しかし、バレンシア出身の元自転車選手であるアンヘル・カセーロ (Ángel Casero)氏を中心とする人々の努力の結果、2016年からこのレースが復活しました。

そんな記念すべき2016年のレース復活時に、ニコラ・ロッシェ (Nicolas Roche)選手がレース前のインタビューでこのように話していました。

この時期に、ヨーロッパでレースができるのって、選手として、本当にありがたいんです。ですから、このレースの主催者や関係者には本当に感謝していますし、心から「レース開催おめでとうございます」の言葉を送らせていただきます

ファンや関係者からだけでなく、選手からも愛され、また必要とされているレースが、このブエルタ・コムニタット・バレンシアーナというレースなのかもしれません。