大変な状況だからこそ前を向く、フェンシング日本代表 鈴木穂波選手が挑戦する競技の枠を超えた“新たな取り組み”とは

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大変な状況だからこそ前を向く、フェンシング日本代表 鈴木穂波選手が挑戦する競技の枠を超えた“新たな取り組み”とは

スポーティ

日々、世界規模で猛威を奮っている新型コロナウィルス。街ゆく人はマスクをし、人々が交流するコミュニティも失われる中、その影響は私たちの生活のみならず、企業の経済活動、さらには企業が支えるアスリートにまで広がってきています。

そのことを象徴するかのように、一人の女子アスリートがこれまで競技生活を支えてくれたスポンサー企業を失いました。フェンシング日本代表の鈴木穂波選手です。

鈴木選手は今年3月、コロナによるスポンサー企業の業績悪化により、競技への支援が続けられないことを告げられました。代わりに正社員として残る道を提示されましたが、競技を続けたかった彼女は、新しいスポンサーを探すことを決意します。

ことの顛末は、スポーツライターである瀬川 秦祐氏がnoteで記事にしており、その記事はnote公式アカウントやスマートニュースで紹介されるほど話題になりました。
記事>>https://note.com/segawa_taisuke/n/nad2f721cc7d6

フェンシングの選手が、何故これほどまでに注目されたのか。

もちろん記事を読んだ人が、コロナ禍で大変な状況に陥った“悲劇のアスリート”を応援したいと思えたのも理由の一つとしてあるでしょう。

しかしそれ以上に、新型コロナウイルス感染拡大という未曾有の状況にも負けず、スポンサーを探しながらも、新しい資格の勉強や、日々の気づきを発信し続ける彼女の前向きな姿に、多くの人が勇気づけられたことが理由として大きかったように思えます。

かくいう筆者もその1人。では、そのエネルギーの源はどこからくるのか?この記事では、前代未聞の災害であるコロナ禍の中、逆境に負けることなく前に進み続ける、鈴木選手の挑戦について、本人を直接取材しました。

コロナ禍で“足を止めた”からこそ気づけた『教育への情熱』

コロナ禍の中、日々新しい挑戦を続ける鈴木選手。オリンピックも延期になり、誰もが後ろ向きになってしまう状況下で、どこからそんなエネルギーが湧いてくるのでしょうか?

ーー私が日々新しい資格の取得や、SNSなどで情報を発信し続けるのは、コロナ禍で一度立ち止まったことで、自分が“教育”の視点から『人の心に寄り添いながら、キッカケ作りをお手伝いができる人間』になりたかったことに、改めて気づくことができたからなんです。もともと学生時代から教育の仕事に興味があり、教職の資格(中学・高校生)をとっていましたが、フェンシング選手としてもオリンピックを目指していたので、これまでは競技をするので精一杯でした。しかし世界規模でコロナが蔓延し、次々と試合が中止されたことで、一度足を止めて自分自身と向き合うことができたんです。私はこれまでフェンシングで学んできたことを、次の世代にもつなげたい。そのために必要な勉強を、選手としての練習をしながら、日々積み重ねているんです。

現在は食育の資格と教職の資格(幼稚園・小学生)取得のため、選手としての練習をしながら日々勉強を続ける鈴木選手。

その行動は、“教育の仕事に携わりたい”という言葉通り一貫しています。

ーー食育の資格を取ろうと思ったのは、社会人になってから行った減量に失敗したことがきっかけです。当時、日本代表のコーチから”減量した方が動きやすくなるんじゃない?”と言われて、4ヶ月ほど減量に取り組みました。結果的に体重は落ちたのですが、立ちくらみがするなど体調不良が目立つようになってしまったんです。それで病院に行って診てもらったのですが、原因が分からず、変えたのは食事だけだったので、食事を見直してみることに。その時は食について何も知らなかったので、その分野を学んでいる知り合いに相談したら、現在勉強している『食アス』と出会ったんです。それから食アスで学んだことを実践したら、体調不良も改善して、身体が変わったり、海外遠征で時差ぼけせずに、すぐに適応できるようになるなど、具体的な変化を感じることができました。

ーーこの経験は、スポーツにおいて”食”の重要性を実感する良い機会になりました。私は将来、子供たちに選手として経験してきたことを伝える中で、同じ失敗をさせないために、食に関しても指導できるよう、現在は資格の取得に励んでいます。食育の資格にも『食アスリートジュニアインストラクター』と『食アスリートシニアインストラクター』に分かれており、ジュニアインストラクターは食べ方を教えることができ、シニアインストラクターはそれに加えてコンディショニングなども伝えることができます。今はジュニアインストラクターの資格を取得したので、秋にシニアインストラクターにも挑戦する予定です。

ーー教職の資格については、学生時代に中学、高校の先生になるため既に取っていたのですが、さらに踏み込んで考えたとき、小学生の先生になりたいと思いました。そう思えたのが人間形成に関わる重要な時期が幼児教育だと考えたからです。今年は小学生の科目をとって、来年には幼稚園の科目取得を目指しています。

さらに子供たちに自分のやってきたことを伝えたいという想いから、練習と勉強の合間を縫って筆者が運営している墨田フェンシングクラブの小学生に向けて、フェンシングの指導も行った鈴木選手。

実は小学生に指導するのは初めてとのことでしたが、指導を見ていると、子供達の構えやアタック動作の間違いを的確に見抜き、ピンポイントで指導するという手法。

アドバイスを受けた子供たちも、はじめは緊張していましたが、練習後は「楽しかった」と笑顔で語ってくれていました。

かつてない事態だからこそ前を向く

海外の強豪選手相手にアタックを決める鈴木選手(手前)

新型コロナウィルスという脅威は、アスリートの“競技だけに集中していればいい”という従来の常識を大きく変えました。

試合という自身を表現する場が失われたことで、新たな取り組みやSNSで自分を表現する“セルフブランディング”が必要な時代になってきたのです。

では具体的に何をすればいいのでしょうか?そこに悩むアスリートは多くいますが、確かなことは競技と同様、その取り組みに“信念があるか”が重要だということです。

今回取材した鈴木選手は、“教育に携わりたい”という信念のもと、食育や教職の免許、子供たちへのフェンシング指導といった取り組みをしていました。

その様子を間近で見てきた筆者が感じたのは、鈴木選手が自分のためではなく、常に教える人のことを思って日々の取り組みをしていたということです。

取材中に彼女が言っていた言葉で印象的だったものがあります。

ーー私は今、フェンシング日本代表として活動していますが、フェンシングを始めたきっかけは全くの偶然でした。それと同じように、チャンスを掴むきっかけは誰しも平等にあり、あとはそこに飛び込む勇気を持てるかが重要だと思うんです。私がSNSやブログで情報を発信するのも、自分が感じたことを文字にして発信することで、同じ風に思う人だったり、違う気づきを得たり、私も頑張ろうと思うきっかけ作りをするためです。私もそうだったように、1人でも多くの人のきっかけ作りのお手伝いができれば、情報を発信している身として、とても嬉しく思います。

「人の心に寄り添いながら、キッカケ作りをお手伝いができる人間になりたい」。そう話す鈴木選手からは、未曾有な事態に直面している今だからこそ、前を向いて取り組む姿勢の大事さを教わったような気がします。

この新型コロナウイルス感染拡大の状況下で、前向きになることは簡単なことではないかもしれません。しかし、大変な中でも、日々前を向いて戦っているアスリートの存在が、人々が希望をもつ“きっかけ”になりうるのかもしれません。

▼鈴木選手への応援メッセージはコチラから!
https://www.facebook.com/honamixjuice1101

フェンシング 鈴木穂波