コロナ禍を経験したからこそ見えてきたものがある…2019年世界王者 加納虹輝選手が目指す『五輪出場を勝ち取るための目標』に迫る

コロナ禍を経験したからこそ見えてきたものがある…2019年世界王者 加納虹輝選手が目指す『五輪出場を勝ち取るための目標』に迫る DO

コロナ禍を経験したからこそ見えてきたものがある…2019年世界王者 加納虹輝選手が目指す『五輪出場を勝ち取るための目標』に迫る

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2020年に開催されるはずだった東京オリンピック。それが新型コロナウィルスの影響により延期となり、多くのアスリートが”目標”を失っていた中、それでもトレーニングを続け、いつ試合が再開されても万全の体制で戦えるよう準備していたアスリートがいます。

フェンシング日本代表の加納 虹輝選手です。


photo by 公益社団法人 日本フェンシング協会:Augusto Bizzi/FIE
TOP写真:photo by 公益社団法人 日本フェンシング協会:Augusto Bizzi/FIE

加納選手は2017年のワールドカップ ドイツ大会で初めて銅メダルを獲得し、2019年のワールド カップ カナダ大会では日本人2人目の個人優勝という快挙を達成。さらに団体戦の世界大会優勝 にも貢献し、飛ぶ鳥を落とす勢いでオリンピックに挑戦するはずでした。

そんな中で起こったオリンピックの延期。フェンシング関係者の中には落胆する声も聞かれましたが、それでも加納選手はトレーニングを続けていたと言います。

オリンピックが延期された時は驚きましたが、練習を中断するつもりはなかったです。むしろ一度目の緊急事態宣言の中で、自宅待機する時間を得られたからこそ、地味できつい基礎トレーニングの大切さに気づくことができたんです。

“フェンシングの練習ができなかったからこそ、気づけたことがある”。そう語る加納選手の瞳は、オリンピックに対する想いの強さで溢れていました。

今回は、加納選手が考える『コロナ禍を経験したからこそ気づけたこと』と、五輪に出るために設定している『目標』について、本人から直接お話を聞きました。

コロナ禍を経験したからこそ気づけた『基礎トレーニングの重要性』

2020年4月に一度目の緊急事態宣言が発令された時、フェンシング日本代表の選手たちも自宅待機を余儀なくされました。

自宅では当然満足した練習をできるはずもなく、各々自主トレーニングに励むしかなかった状態でしたが、加納選手は専属トレーナーと一緒にやっていたトレーニングをやろうと思ったそうです。

NTC(ナショナルトレーニングセンター)のトレーナーからは色々なメニューを教えてもらっていたので、とりあえず自宅でやってみることにしたんです。やれることをやるしかありませんから。まず自重トレーニング、さらにチューブトレーニング、ダンベルを使ったトレーニングなど、色々なメニューをこなしていきました。

そんな時です。フェンシングの練習がない分、筋肉の感覚の違いがわかるようになってきたのは。

フェンシングの練習ができない分、普段意識していなかった筋肉の使い方に違いがあることに気づいたという加納選手。

それから筋力面、身体能力を高めていくためのトレーニングを見直しながら、筋トレを実施していきました。

腕立て伏せではプッシュアップバーを用いたトレーニングで関節の可動域を広げ、さらに誰もいない時を見計らって公園でフットワークの練習もしていたと言います。

2020年の6月から練習を再開したのですが、体力が少し落ちていたくらいで、あとはいつも通り練習をすることができました。本当はフェンシングを再開したばかりだと、使う筋肉が特殊なので足が筋肉痛になるのですが、僕の場合はそれもありませんでした。これも基礎トレーニングのおかげだと思っています。

自粛中のアスリートのために、”地味できついトレーニングの大切さ”をオンラインで伝える取り組みも実施

去年の緊急事態宣言中、加納選手が入社したJALで、トップアスリートのトレーニングをオンラインで発信する『JALアスリート社員 トレーニングレクチャー』という取り組みがありました。

この取り組みの中で加納選手は、”体幹トレーニングの重要性”と”自粛中でも工夫すれば家でもトレーニングができる”ことを伝えたかったのだと言います。

地味できついトレーニングが、一周回って一番大事なんだと僕は思ったので、当時、自粛中であまり練習できていないアスリートのために、自分でやっている基礎トレーニングをオンラインで公開することにしたんです。

動画の内容は、自宅でできるトレーニングを紹介するというもの。ただ、加納選手曰く、地味なトレーニングほど効果的に行うのが難しいらしく、体幹トレーニング一つとっても、正しい姿勢ができている人はごく僅かなのだとか。

単純なトレーニングこそ、高い精度で効果的に行う。普段当たり前にやっていることを、いかに大事に思えるかが重要なのだと筆者に語ってくれました。

オリンピックに向け設定している目標


約1年振りとなった試合の全日本選手権で、アタックを決める加納選手(右)
photo by 公益社団法人 日本フェンシング協会:Augusto Bizzi/FIE

コロナ禍を経験したからこそ、今、自分ができることを積み重ねてきた加納選手。

その成果を問われる機会が近づきつつあります。2021年3月より世界大会が再開されることが決まったのです。

久々の試合に向けて、不安はないのか聞いたところ、彼は驚くほど淡々と答えました。

今年3月に東京オリンピック最終選考会でもある世界大会(ロシアのカザンで開催予定)が再開予定ですが、全く不安はないです。

むしろもっと早くにオリンピックの最終選考があってもかまわなかったくらいですね。それだけの準備はしていましたから。

普段は1ヶ月単位で大会があるフェンシング日本代表。それが1年以上空いてしまったにもかかわらず、不安はないと断言する加納選手。

その眼は、オリンピックで勝ち上がるための確かな道筋を捉えていました。

オリンピックに出るには複雑な条件があるのですが、余計なことは考えずに、まず狙うのは”団体戦で優勝すること”です。

フェンシングの団体戦は3対3で総当たり戦を行い、全9試合で先に45本とったら勝ちというリレー形式。加納選手は団体戦で一番責任重大な最後の9戦目のポジションを任されています。

団体戦の9戦目は、その試合を決着させるので、一番責任が重いポジションです。ただ、このポジションを任せてくれた日本代表のコーチは、僕のメンタル的なところと、団体戦で逆転しやすい攻守バランスのとれたファイテンングスタイルを信頼してくれているんです。

個人戦だと守ってカウンターがメインの加納選手。しかし一度団体戦になると、ケースバイケースで攻めに転じることもあり、この”対応力”が3月の世界大会でオリンピックの出場権を獲得できるかの鍵を握っていると言えます。

団体戦では、2017年5月に行われた男子エペワールドカップ(フランス)で、リオオリンピック団体優勝を果たしているフランスに勝つなど、輝かしい戦歴を収めている日本チーム。

3月の大会でもやってくれると感じるのは筆者だけではないはずです。

【補足】東京オリンピック 出場条件
2021年東京オリンピックでは『開催国枠』がありますが、加納選手はその枠を使わず自力で出場することを目標としているとのことです。

日本フェンシング協会が行った試合と練習の中間的な取り組み『サンデーカップ』

日本フェンシング協会は、日本代表同士で行う練習試合の映像をインターネットでライブ配信する取り組み『サンデーカップ』を2020年12月6日(日)に実施。

新型コロナウイルスの影響で国内外の試合が開催されない中、一般の視聴を可能にして緊張感ある実戦機会をつくり、強化に役立てることが目的でした。

このサンデーカップで、加納選手は同じく世界大会優勝経験のある山田 優選手と対戦。

1年以上、試合をしてこなかったため、試合そのものが新鮮に感じたと語る加納選手ですが、不思議と緊張はしなかったと言います。

僕の場合、サンデーカップは試合と練習の中間的な印象でやっていました。多くの人が見てくれている練習みたいな感覚でしたね。ただ、相手が山田選手だったので、ピリピリしたいい試合になったと思います。

動画からも見てわかるように、世界王者同士の試合ということもあって、お互い一歩も譲らない展開。腕、足、体など、相手の注意を散らしながら確実に突いていく高等技術のオンパレードに、フェンシング関係者以外も手に汗握りながら観戦しました。

サンデーカップは、試合のない選手たちのモチベーションを上げる目的もありましたが、この試合を見てから、筆者の周りのフェンサーたちもすごい刺激を受けていたのが印象的でした。

そんな加納選手が、最後にこの記事を読んでくれた方々に伝えたいことを話してくださいました。

僕の所属するフェンシング男子エペチームは、直近の世界大会で優勝するなど盛り上がっているので、東京オリンピックはもちろん、パリオリンピックまで是非見てください!

▼加納選手の応援はコチラから!
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