炎天下での屋外活動を禁ずる熱中症予防の新ルール ー 日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その21

炎天下での屋外活動を禁ずる熱中症予防の新ルール ー 日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その21 DO

炎天下での屋外活動を禁ずる熱中症予防の新ルール ー 日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その21

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日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動はスポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。

私は2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。

2024年秋シーズン開始直後に練習中止、試合延期が相次いだわけ

高校アメフトの試合は金曜夜に行われることが伝統。

日本のように一斉ではないのですが、オレンジ郡にある多くの学校は8月下旬に新学年が始まりました。高校スポーツに話を限ると、秋に行われるスポーツ(アメフト、バレーボール、クロスカントリー走など)の公式シーズンが始まったことを意味します。

ところが、この2024年秋シーズンは波乱の幕開けとなりました。9月の第1週目にアメリカ西海岸地方を記録的な熱波が襲ったためです。オレンジ郡でも最高気温が40℃を超える「酷暑日」が続き、それに伴って大規模な山火事がいくつも起こりました。

私が指導するクロスカントリー走部は9月10日に予定されていたシーズン開幕レースが延期されました。その前後の1週間ほども、ふだんは放課後に行っている練習を早朝の時間帯に変更せざるを得ませんでした。

花形スポーツのアメフトも大きな影響を受けました。元々、高校アメフトの試合は金曜夜に行われることが多いのですが、開始時刻をさらに遅くするか、試合そのものを中止するケースが相次いだのです。

亜熱帯化しているらしい日本に比べると、カリフォルニアの夏は湿度が低く、過ごしやすい日が多いと思います。それでも40℃くらいにまで気温が上がる日が年に何日かはあり、さすがにそうなると屋外での運動はかなり危険です。

これまでにも「今日は暑過ぎるから、屋外スポーツは中止」という通達が学区から出されたことは何回かあるのですが、今年からはそうした熱中症予防措置がさらに徹底した形で行われることになりました。

あいまいな注意喚起レベルから具体的かつ厳格な基準適用へ

クロスカントリー走は日陰が少ないコースで行われることが多い。

今年からカリフォルニア州高校スポーツ連盟(CIF – California Interscholastic Federation)の管轄下で行われるすべての部活動(練習と試合を含む)に熱中症予防を目的とした新ルールが導入されました。「暑さ指数」(Wet-Base Global Temperature)の数値によって、屋外での活動を規制するものです。

暑さ指数とは、気温、湿度、輻射熱、風を含めた指標です。同じ気温でも湿度が高い方が人は苦しく感じますし、日差しや風の強さにも影響を受けます。それらすべてを含めることで、熱中症の危険度を総合的に判断することができると言われています(*1)。

*1.参考資料:環境省ウェブサイトの「暑さ指数」に関する説明
https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_lp.php
暑さ指数は1950年代にアメリカ海兵隊の訓練で熱中症の危険度を判断する目的で開発されました。2024年秋シーズンが始まる前、その指標をCIFが高校スポーツに適用したルールが各学校に通達されたというわけです(*2)。

*2.参考資料:CIFのプレスリリース
https://cifss.org/wp-content/uploads/2024/07/1-24-25-New-Rules-New-Procedures-1.pdf

暑さ指数(単位:華氏)による屋外活動と休憩のガイドライン

華氏(℉)を摂氏(℃)に変換し、規制内容を要約すると以下のようになります。

•33.4℃以上:すべての屋外活動を禁止
•32.2℃~33.2℃:屋外活動は1時間以内とし、すべての防具は着用不可。1時間内に20分以上の休憩。
•30.9℃~32.1℃:屋外活動は2時間以内、アメフト防具はヘルメットと肩パッドに限定。半ズボン着用。最低4分の休憩を4回以上。

防具とはヘルメットやチェストガードなどのことを指します。これらを着用できないとなると、実質的には暑さ指数が30℃を越えると野球もアメフトも試合はできませんし、練習もかなり内容を制限せざるを得なくなります。

クロスカントリー走には防具はありませんが、やはり暑さ指数が33.4℃以上になると屋外を走ることは許されません。それより下のレベルでも、1時間以内に休憩20分以上という条件で長距離走を行うことは困難です。

単純に暑さ指数と気温と対比させることはできないのですが、実感としては気温35℃以上の「猛暑日」は一切の屋外活動が禁止されるレベルではないでしょうか。

暑さ指数はスマホの天気アプリで知ることはできますが、正確な数値を測定するには専門機器が必要となります。そのための購入資金もCIFから各学校に付与されるとのことです。

野球は伝統的に夏のスポーツであるとのイメージが強い。

このルールを守らずに試合や練習を強行すれば、CIFから何かしらのペナルティが課せられることは明らかですし、下手をすれば訴訟問題にも発展しかねません。私たち現場の指導陣の間では、「今日は朝から天気予報を1時間ごとにチェックしていたよ」なんて会話が飛び交うことになりました。

幸いなことに、熱波は1週間ほどで収まり、その後は涼しい天気が続いています。しかし、カリフォルニアでは10月や11月になっても急に暑さがぶり返すことがよくありますし、それでなくても4月を過ぎると夏のような陽気になります。そのときにはまた暑さ指数の数値によって右往左往する羽目になるかもしれません。

2024年の夏休み、つまり熱中症対策新ルールが導入される直前まで、私がコーチとして関わっている野球部は例年通り夏季リーグに参加しました。1日でもっとも暑い午後1時試合開始、なんてこともよくありました。まるで甲子園大会みたいですが、アメリカでも野球といえば夏の風物詩なのです。しかし、2025年からは根本的にスケジュールの見直しがされることになるはずです。

カリフォルニア 休憩 熱中症予防