NFLシーズン開幕間近のトレーニング・キャンプ見学記
WATCHNFLシーズン開幕間近のトレーニング・キャンプ見学記
7月24日にNFLロサンゼルス・チャージャーズのシーズン前トレーニング・キャンプを見学してきました。
NFLシーズンは9月から始まりますが、それに先立って7月中旬から各チームのトレーニング・キャンプが行われます。つまりはチーム練習です。8月になると各チームにつき3試合のプレシーズン・ゲームが組まれます。そして秋から冬へ、アメリカの最人気スポーツであるアメフトの季節がやってくるわけです。
初物づくしのキャンプ初日
奥の建物は2024年7月完成
その日はチャージャーズのトレーニング・キャンプ初日でした。2024年シーズンに向けてチームがファンの前に初めて姿を現した日です。
しかも、会場は前月に完成したばかりのトレーニング施設「The Bolt」。ロサンゼルス市内で初めてのNFLチーム専用施設だということです。ロサンゼルス国際空港からすぐ近くです。その豪華な建物の内部はチャージャーズ公式ウェブサイトで詳しく紹介されています。
>>https://www.chargers.com/thebolt
この初物づくしのイベントに、私は朝9時の練習開始よりずっと前から会場前に並んでいました。全米でもっとも早く2024年度NFLシーズンの雰囲気に触れたひとりだったのかもしれません。
私はとくに熱心なアメフトのファンではないと思いますが、普通のアメリカ人中年男性と同じ程度にはNFLをフォローします。つまり、これから来年2月のスーパーボウルまではそわそわと落ち着きがなくなり、週末はテレビにくぎつけです。
もっとも、私がこの日に割と簡単に練習を見学できたことには、チャージャーズがNFLチームとしてはけっして人気が高くないという背景があります。
このチームは2017年にロサンゼルスへ移転してきましたが、それ以前は半世紀以上にわたってサンディエゴに本拠地を構えていたのです。そのせいで、今でもロサンゼルスの人たちからは「地元チーム」と思われていない節があります。
しかも昨年の成績は公式シーズン5勝12敗と大きく負け越しています。もちろんプレイオフには遠く届きませんでした。シーズン後半に行われたある調査(*1)によると、チャージャーズの人気はNFL全32チーム中30位。つまりはそういうチームです。
*1. https://www.statista.com/statistics/1398681/most-popular-nfl-teams-united-states/
ヘッドコーチと先発QB
チーム全員を集めて何やら話をするヘッドコーチ。
そんな不人気チームでも、練習を見学するためだけのイベントが成り立って、そこに数千人以上の観客が集まるのですから、アメリカでNFLの人気かいかに高いかが分かります。
選手たちがフィールドに姿を現し始めると、まずはその人数の多さに目を見張りました。選手だけで200人は超えているでしょう。それに大勢のコーチやスタッフが加わります。アメフトの試合が3つくらい同時にできそうなくらい広いフィールドも狭く見えるほどでした。
アメフトは攻撃側と守備側に分かれ、キッカーなどのスペシャル・チームを合わせて、24種類のポジションがあると言われています。ベテランから新人まで、それぞれのポジションを争う選手たちが一堂に会すると、こういうことになるのでしょう。
関連記事:初心者向け解説:アメフトの各ポジションに求められる身体サイズと運動能力とは
この大集団を指揮するヘッドコーチはジム・ハーボー氏。大学アメフトで長く輝かしい指導歴があり、今シーズンからチャージャーズに迎えられました。元プロQBなのだそうですが、私にはまるで経営者や学者のように見える風貌です。
日本のプロ野球と同じように、アメフトのヘッドコーチはチームの顔です。闘将やら大御所やら熱血やら人情派やら、指揮官の個性は様々ですが、ハーボー氏はさしずめ知将タイプでしょうか。
この日、チャージャーズの選手たちは攻撃側が青のユニフォーム、守備側が白のユニフォームを着用していました。観客にとっても分かりやすいですが、たぶん選手たち自身や指導者たちにとってもそうなのではないでしょうか。
そのなかで、たったひとりだけ黄色のジャージを着ていたのが先発QBのジャスティン・ハーバート選手(26歳)。2020年度最優秀新人選手賞を獲得した、NFLの若きスーパースターです。
中央、黄色のジャージがジャスティン・ハーバート選手。
その圧倒的な存在感には目を見張りました。観客席にも彼の背番号10番ジャージを着た人が目立っていました。あらためて思うことですが、アメフトのQBというポジションは特別な存在です。他のスポーツで似たような例を私は知りません。
多種多彩なポジションごとの練習メニュー
練習はまず全体でのウォームアップが行われた後、すぐにポジションごとに散らばり、それぞれのメニューがフィールドのあちこちで同時進行しました。
QB、ワイドレシーバー、コーナーバックたちの、パスを投げる、あるいは捕るといった練習がもっとも観客の注目を集めていましたが、それ以外のポジションの特性にあった練習も私にはとても興味深いものでした。
数人のランニングバックは障害物を避けながら走るドリルを、パターンを変えて行っていました。爆発的なスピードと急激に方向を変えるアジリティ能力を高めるためでしょう。
ラインズマンたちはミットを構えたコーチたちに向かってタックルを繰り返していました。選手たちはもちろん、コーチまでもが相撲力士のような体格ですので、迫力は満点です。
キッカーたちはゴールポストに向けて何度も放物線を描きます。
ランニングバックたちの個別練習。
練習の後半はふたたび全員が集められ、攻撃側と守備側に分かれた試合形式のプレイが何回か行われました。最終確認という意味もあるのでしょうが、観客へのデモンストレーションのようにも見えました。
この日のチーム練習はわずか1時間半ほどで終了しました。キャンプ初日だからかもしれませんが、高校のアメフト部の方がはるかに長く練習しています。
解散後、なぜか守備側のラインズマンたちが集められ、コーチの号令で腕立て伏せをやっていました。何かの罰なのか、あるいは予定されていた練習メニューなのかは分かりません。
いずれにしても、目の前の建物には最先端の科学に基づいたトレーニング施設が入っているはずです。それを用いることなく、昔ながらの腕立て伏せ。こうした伝統的な側面もアメフトの魅力のひとつです。
全体練習終了後に集められた守備側ラインズマンたち。
この日の様子はチャージャーズ公式ウェブサイトでもたくさんの写真と共に紹介されています。
>>https://www.chargers.com/photos/bolt-fams-first-day-at-the-bolt
MLBや日本プロ野球のキャンプやオープン戦とは異なり、NFLのトレーニング・キャンプは練習も試合も各チームの本拠地が近くにある都市で行われます。そのため、地元ファンや観光客にも訪れやすいイベントになっています。
しかもトレーニング・キャンプの見学は大抵が無料です。各チームの公式ウェブサイトをチェックすれば、会場や日程が分かります。興味のある人は来年以降の夏休み計画にNFL見学を加えてみては如何でしょうか。