時給8000円でも人手不足?アメリカの高校野球を脅かす審判問題 - 日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その23

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時給8000円でも人手不足?アメリカの高校野球を脅かす審判問題 - 日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その23

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この文章を書いている5月中旬、カリフォルニアの高校野球シーズンは佳境を迎えています。2月の開幕から約3か月のリーグ戦が終了し、いよいよプレーオフの勝ち抜きトーナメントが始まりました。

ただ誠に残念なことに、私が指導する高校は今年のプレーオフには進めていません。リーグ戦の勝率は5割ちょうどでしたが、ぎりぎりのところでトーナメント出場権に手が届きませんでした。最終学年の選手は高校野球が終了し、それ以外の選手たちは夏のオフシーズンに行われる別のリーグ戦を前にちょっとひと休みです。

ところで、今年のシーズンでは、私を含めた現場のコーチたちを大変悩ませた、ある深刻な問題がありました。審判不足です。

「明日の試合は審判が確保できなかったので試合延期になります」

そんな連絡を受けることが、何度かありました。その度に、試合開始時間の変更、あるいは日程そのものの再調整を余儀なくされました。生徒たちには学業もあり、保護者たちも仕事や用事を調整しながら応援しているので、ひとつ予定が崩れると多くの人に影響が出ます。むろん、私たちコーチもスケジュールを調整しなくてはいけません。

審判不足は今年突然始まった話ではなく、以前からその兆候はありました。ただ、ここ数年で状況はさらに深刻化しているように感じます。

審判は労多くして益少なし?

試合前に協議する審判。この日は2人制だったが、ひとりのときもある。

審判不足の理由はシンプルです。なり手が少ないのです。

考えてみれば当然かもしれません。審判という仕事は、正しい判定をしても誰にも褒められません。しかし、ひとつミスをすれば、選手、監督、保護者、観客から一斉に不満をぶつけられることがあります。

とくに野球は判定が試合の流れを大きく左右するスポーツです。ストライク・ボール、アウト・セーフ、フェア・ファウル。どれも一瞬の判断が求められます。

私たちのリーグでは、1試合の審判料としてひとりにつき100ドルを支払っています。高校野球は7イニング制で、試合時間は2時間前後のことが多いので、単純計算すれば時給50ドル程度。日本円なら約8000円です。

決して安い報酬ではありません。それでも「今日は審判が見つからない」という事態が起きるのです。

MLBの“ロボット審判”が変えた空気

MLBのABS判定。

今年からMLBでABS(Automatic Ball-Strike System)判定、いわゆる“ロボット審判”が導入されたことも、かえってアマチュア野球審判の仕事を難しくしているかもしれません。

ABSはAIによってストライク・ボールを判定するシステムで、将来的にはさらに活用範囲が広がるとも言われています。それより以前から、アウト・セーフなどのビデオ判定もMLBでは当たり前になっていました。

もちろん、技術の進歩自体は悪いことではありません。誤審を減らし、公平性を高めるという意味では、大きな価値があります。

ただ、その一方で、高校野球の現場レベルではその技術を活用できるところまではきていません。それどころか、少し気になる変化も感じています。

「ロボットなら正確に判定できるのに、なんで間違えるんだ」

そんな空気が、以前より強くなっているのです。選手たちもそうですし、観戦している保護者もそうです。

しかし実際には、野球の審判は想像以上に難しい仕事です。とくにボール・ストライク判定はそうです。それほどレベルが高くない、私たちの高校野球でも、投手から放たれたボールは、時速120〜140キロを超えることもあります。それをホームプレート後方から瞬時に見極めなければなりません。

アウト・セーフ判定も同様です。ベースカバーに入った野手の足、送球、走者のスライディング、そのすべてを同時に確認し、瞬時に判断を下さなくてはいけません。

テレビ中継ならストライクゾーンの枠が表示されていますし、スロー再生で何度でも確認できます。しかし、高校野球のフィールドにあるのは、生身の人間の目だけです。

私たちコーチは部内の紅白試合や練習試合などで、審判役を務めることがあります。私も何度か経験しました。それがどれだけ大変なことかを身に染みて知っています。それでいて、責められることはあっても、褒められることはめったにない。「ぜったいに野球の審判だけはやりたくないな」というのが率直な感想です。

それでも、誰かが審判を引き受けてくれなければ、野球の試合は成立しないのです。

コーチたちが始めた「意識改革」

家族連れが目立つ応援。

だからこそ、最近の私たちは「審判をリスペクトする文化」をチーム内に作ることを強く意識するようになりました。

これは単なるマナー教育ではありません。高校野球そのものを守るために必要なことだと感じているからです。

私たちは選手たちに、繰り返しこう話しています。

「審判という仕事はとても大変なのだぞ」
「判定に納得できなくても、ぜったいに抗議するな。不満そうな顔もするな」
「審判がいなければ、君たちは野球ができないよ」

それでも、審判に文句を言った選手をベンチに下げたことが何度かありました。なにしろアメリカですから、高校生も日本人ほどには大人に従順ではないのです。

なんて、実は私たち指導陣、つまりはアメリカのおっさんたちですが、そのなかには大人げない人がいます。選手たちには「審判は絶対だ」と言い聞かせているにもかかわらず、自分は判定に激しく抗議して「退場!」の宣告を受けるコーチや監督が必ずいます。私ではないですよ、念のため。

問題はフィールド内に留まりません。高校野球のフィールドはプロのそれに比べると観客との距離がはるかに近いのですが、それがかえって弊害になることもあります。フェンスのすぐ後ろに座る保護者の声が、そのまま審判の耳に届いてしまうからです。だから、私たちは保護者にも「審判への批判を控えてほしい」とお願いをすることになります。

もちろん、野球の試合で保護者の感情が動くのは自然なことです。自分の子どもが見逃し三振を宣告されると、「今のはボールだろう」と思うかもしれません。際どいクロスプレーでアウトになれば、「セーフだった」と感じることもあるでしょう。

私自身もコーチになる前は野球少年の父親でしたので、その気持ちはよ~く分かります。ただ、そこをぐっとガマンしてほしいのです。
 
保護者のヤジが続けば、審判は嫌気がさしてくるでしょう。最終的に困るのは、プレーする選手たちです。

来年も高校生たちが野球を続けるために

卒業生にMLBスター選手の名が並ぶ公立高校のフィールド。野球部は50年以上の歴史を持つ。

高校野球の主役は選手たちです。そのことは間違いありません。同時に学校、保護者、指導者、地域コミュニティー、そして審判など、多くの大人たちがそれを支えています。そのうちのどのピースが欠けても、高校野球は成立しません。今シーズンの審判不足によって、私たちはそのことをあらためて思い知らされた気がします。

来年以降も、高校生たちが当たり前のように野球を続けられる環境を残したい。そのためには、「スポーツを支える人たち」を大切にする文化を作り上げていく必要があるのでしょう。

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