スペイン・ラグビー界での出来事-疑惑の審判とキャプテンの役割-

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スペイン・ラグビー界での出来事-疑惑の審判とキャプテンの役割-

スポーティ

サッカーファンが伝統的に多いスペインでも、ラグビーに関心を持つ人の数が徐々にふえています。そんな中、数ヶ月前まで男子ラクビー・スペイン代表の夢は、2019年に日本で開催されるワールドカップに出場することでしたが、その夢は思わぬ形で終わりを迎えます。しかし、スペインのラクビー界にとって一筋の希望となったのは、試合後にスペインチームのキャプテンが語った言葉と彼のあきらめない姿勢でした。

疑惑の判定によりワールドカップへの道が閉ざされる

*2018年3月19日にラクビーのスペイン男子代表チームは、翌年のワールドカップ出場を目指し、ベルギー代表チームと対戦し敗れました(ベルギー18-10スペイン)。しかし、スペイン代表にとって、この敗戦は受け入れがたいものでした。というのもこの試合の主審Vlad Iordachescu(ウラド・イオルダセスク)の国籍がルーマニアだったからです。

ベルギー対スペインの試合が始まる時点で、主審の母国ルーマニアは3勝1敗の成績で同率1位のスペインと並んでいました。両国が戦っていた予選リーグでは、予選1位の国は自動的にワールドカップ本戦へと進むことができるのに対し、予選2位のチームがワールドカップ本戦に進むためには、ポルトガルとのプレーオフを戦う必要がありました。つまり、もしもこの試合でスペインがベルギーに敗退すれば、ルーマニアが予選1位となり、ワールドカップに自動的に進出できる状況だったのです。

このベルギー対スペインの試合で、前述のルーマニア人審判はスペインに10回のペナルティを与えます。その結果、スペインはベルギーに敗れてプレーオフに回り、一方でルーマニアはワールドカップ本への出場を決めたのです。

このような状況であったため、ノーサイドの笛の後でスペイン人選手はルーマニア人審判に詰め寄り、当の審判はガードされてグラウンドを去るという、ラクビーの試合としては前代未聞の幕引きとなりました。

*スペイン代表が戦っていたヨーロッパ・チャンピオン予選には、ジョージア・ロシア・ドイツ・ベルギー・ルーマニア・スペインの6カ国が参加。

後日、スペイン・ラクビ―協会はワールド・ラクビー(World Rugby)に対し、審判の判定が適切ではなかったことを主張し、ベルギーとの再試合を求めました。しかし、ワールド・ラクビーは審判の選択に誤りがあったことは認めたものの、ベルギー対スペインの再試合は開催しないことを発表します。加えて、この件でルーマニア代表を処分することはせず、代表資格を持たない選手が出場していたと指摘し、ルーマニア、スペイン、ベルギーの予選での勝ち点を剥奪。この結果、ルーマニアのワールドカップ本戦出場とスペインのプレーオフ進出を無効とするという、最終結論を出しました。
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ラグビー人気が低いスペインで大きく報道されたキャプテンの行動

この事件はスペインでも大きく報道されました。ラグビー、バスケットなど他のスポーツと比較しても、スペイン人にとってラクビーというスポーツは、それほど馴染みのあるスポーツではありません。しかし、スペイン国内でこのニュースが大きく報道されたことには、理由がありました。

この事態が報道された時、スペイン国内で注目を集めたのは、疑惑のルーマニア人主審ではなく、スペイン代表のキャプテンであるJaime Nava(ハイメ・ナバ)選手の試合後の行動でした。

彼は、試合直後にルーマニア人審判に詰め寄るスペイン人選手をグラウンドに引き戻し、2019年のワールドカップへの出場をあきらめることなく、共に戦い続けることをチームメートたちに求めます*。

*敗戦段階ではプレーオフに進出し出場権を獲得する可能性があった

納得できない判定によってベルギーに敗退し、絶望するチームメートとスタッフが組む円陣の中で、ナバ選手は語り始めます。

今まで、みんなでワールドカップに出るためにここまで戦ってきたのに、この結果は本当につらい。今日の試合では、スペインの勝利が力ずくで奪われたようにみんな感じているのではないかと思う。でも、今この瞬間から、僕は『僕らがワールドカップに行くんだ』って、今まで以上に強く信じることにするよ。次の試合の相手がポルトガルになるのかどうかはわからないし、それは僕らが決めることじゃない。でも、絶対にこのチームでワールドカップに行くよ。絶対に、ワールドカップ出場をあきらめないよ。頭を切り替えて、また、みんなで戦っていこう。こんな状況で、戦い続けるのは難しいことだとはわかっている。でも、僕らはみんなで1つのチームだし、家族と同じなんだ。何があったって、僕らの結束力を崩すことはできない。

この日、ナバ選手はグラウンドでプレーすることができませんでした。しかし、このような状況でも、彼はキャプテンとしてやるべきことを理解し、それを僅か50秒ほどのスピーチでチームメート全員(選手だけでなく、スタッフにも)に正しく伝えたのです。

また彼はのちに、試合後にルーマニア人審判に詰め寄ったスペイン人選手の行動を、「ラガーマンとしてやってはいけない行為だった」と、代表のキャプテンとして正式に謝罪しました。

ラクビ―の精神を表す言葉の一つとして、「captaincy (キャプテンシー)」という言葉があります。ラクビ―の試合では、グラウンドに立てるのは基本的に選手と審判だけで、監督は観客席から試合を観戦します。そのため、試合中の判断は各チームのキャプテンに委ねられます。こうした環境の中でキャプテンの役割を果たす人物に求められる能力が「captaincy (キャプテンシー)」と呼ばれるものです。

彼の言葉が、様々な報道機関で放送されたことにより、スペインでラクビーがスポーツとして広く認識されるようになりました。ナバ選手の試合後の行動は、このスポーツの重要な要素である「キャプテンシー」とは何かということを、ラクビ―に関心のあまりなかったスペイン人に、的確に伝えるきっかけとなったのです。
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