東京パラリンピック2020に向けてPART1 -スペイン・パラサイクリング・レポート-
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自転車競技は、オリンピックとパラリンピック両方で、正式種目となっています。そのため多くのパラサイクリストにとって、2020年の東京パラリンピックは夢の舞台。すでに選手たちは、来年の夏に向けた準備を着々と進めています。
今回の記事では、パラリンピックの自転車競技についての説明と、先日スペインで開催されたパラサイクリングのロードレースの様子、そして東京パラリピックでメダルが期待されるスペイン人サイクリストの情報を中心にお送りします。
TOP写真 Photo by Yukari TSUSHIMA
1.パラリンピックの自転車種目-アルフアベットと数字に注目
Photo by Yukari TSUSHIMA
パラサイクリングの選手たちは、「使用する自転車の種類」と「障害の程度」に応じたそれぞれのカテゴリーで、順位を競います。そのため、自転車の種類を表す「アルファベット」と障害の程度を表す「数字」の2つが理解できれば、パラサイクリングをより楽しむことができます。
パラリンピックの自転車競技は、屋内で開催されるトラックレースと、屋外で開催されるロードレースの2種類。トラックレースでは3種類の自転車が使用され、ロードレースでは4種類の自転車が使用されます。
それぞれの自転車の特徴のアルファベット記号は以下のとおりです。
まずはタンデム。二人乗りの自転車です。視覚に障害がある人のためのもので、晴眼者のパイロットが前に乗ります。ロードとトラックの両方で使用され、アルファベット記号は、「B」。
タンデム自転車のレース風景。Photo by Yukari TSUSHIMA
続いて二輪自転車。それぞれのハンディキャップに応じた装備を付けた自転車で、こちらもロードとトラック両方で使用されます。アルファベット記号は、「C」。
特別装置付きの二輪自転車。Photo by Yukari TSUSHIMA
そしてハンドバイク。両腕でペダルをこぐ自転車で、ロードレースのみで使用されます。アルファベット記号は、「H」。
ハンドバイク。Photo by Yukari TSUSHIMA
そして最後は三輪自転車。ロードとトラック両方で使用されます。アルファベット記号は、「T」。
三輪自転車(トリシクロ)Photo by Yukari TSUSHIMA
一方、障害の程度は、1から5までの数字で表示されます。カテゴリー1が最も障害が重く、数字が大きくなるごとに障害の程度が軽くなります。ただし、三輪自転車のカテゴリーは1と2のみ。またタンデムのカテゴリーは1つだけです。
1 重い 2 ↑ 3 4 ↓ 5 軽い |
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1 重い 2 ↑ 3 4 ↓ 5 軽い |
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1 重い 2 軽い |
2.パラサイクリングのレース-エクストレマドゥーラ・ヨーロピアン・パラサイクリング・カップにて
Photo by Yukari TSUSHIMA
スペインでは、パラサイクリングのレースが頻繁に開催されています。3月末に開催されたエクストレマドゥーラ・ヨーロピアン・パラサイクリング・カップ(Extremadura European Paracycling Cup)では、総勢90人のパラサイクリストたちがレースに参加しました。
参加者の多くはスペイン人選手でしたが、ポーランドやルーマニアといったヨーロッパ各国からの参加者もいました。
大会は、ロードレースからスタートしました。カセーレス郊外の見晴らしのよい道路がレースの舞台です。しかし、景色は良くてもコース自体はハードなもの。途中で何箇所か長い距離のアップ・ダウンがあるため、選手たちはペース配分に苦しみます。
そのため、レースは混戦模様。あちこちで、選手たちが熱いデットヒートを繰り広げます。
Photo by Yukari TSUSHIMA
実は、パラサイクリスト選手同士というのは、非常に仲がよいのです。例えば、スタート前にトラブルに見舞われた選手がいると、他の選手がすぐに駆けつけて手助けするするのは、ごく普通に見られる光景です。しかし、レースが始まると、どの選手も真剣勝負。互いに一歩も譲りません。
Photo by Yukari TSUSHIMA
2日目は、個人タイムトライアル。この日、サイクリストたちはタイムトライアル用の特別な自転車を使用します。この自転車を使えば、たとえば二輪自転車のサイクリストは、時速約50㎞以上のスピードで走ることができます。
Photo by Yukari TSUSHIMA
3.金メダルに最も近いスペイン人パラサイクリスト-セルジオ・ガロッテ選手
セルジオ・ガロッテ(Sergio Garrote)選手。Photo by Yukari TSUSHIMA
実はこのエクストレマドゥーラ・ヨーロピアン・パラサイクリング・カップに、「東京パラリンピックの金メダルに最も近い、スペイン人サイクリスト」と呼ばれる選手が参加していました。それが、写真のセルジオ・ガロッテ(Sergio Garrote)選手。
2018年にカナダで開催された世界選手権で優勝した、ハンドバイクの世界チャンピオンです。この日のエクストラマドゥーラの大会でも、ロードレースとタイムトライアル両方で、2位の選手に1分以上のタイム差をつけて優勝しました。
彼がパラサイクリングを始めたのは、2014年からです。しかし、2016年にはイタリアでの世界選手権で2位となり、注目を集めます。そして現在まで、世界の第一線で活躍し続けています。
そんな彼に、東京パラリンピックへの思いをうかがうことができました。
東京のパラリンピックでは、金メダルをとるために走ります。僕の最大のライバルはアメリカとイタリアの選手。この2人とのレースはいつもハードだけど、きっと東京パラリンピックは素晴らしい大会になると思うので、そこで金メダルをとることができれば、とても幸せですね。
まったく迷わずに、「金メダルをとるために走る」と言い切ったガロッテ選手。東京パラリンピックの開催を非常に楽しみにしている様子でした。
4.金メダルに最も近い日本人パラサイクリスト-野口佳子選手
野口選手の出演したラジオ番組。
一方、日本人パラサイクリストで、東京パラリンピックでの金メダルに最も近いであろう選手が、野口佳子選手です。彼女は、C2クラスで2017年と2018年に世界チャンピオンに輝いた、現役の世界チャンピオンです。ロードレースとタイムトライアル両方で強さを発揮できることが、野口選手の強みです。
スペインのパラサイクリストからも、「あの日本人女性、本当に強いよね。」とという声が数多く聞かれました。
5.パラリンピックの役割とは
自転車競技が盛んなスペインでは、パラサイクリングの競技人口も決して少なくはありません。しかし、同じヨーロッパの国々でも、パラサイクリストの数が少い国というのもあります。ポルトガルのハンドバイク選手は、このようにインタビューに答えてくれました
ポルトガルでは、パラサイクリストは25人ぐらいしかいないんです。このカテゴリーで走る選手は、ポルトガル国内ででは僕一人だけ。だから、レースをするにはいつも外国に行く必要があるんです。
「他の選手とレースができる」こと自体に、パラリンピックの意味と喜びを見出しているパラサイクリストも、世界には少なくないのかもしれません。