サマーキャンプは中止。秋シーズンは3か月遅れで開始。高校スポーツ再開へ-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その12
WATCHサマーキャンプは中止。秋シーズンは3か月遅れで開始。高校スポーツ再開へ-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その12
日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動はスポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。
私は、2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校で、クロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。
前回記事>>日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART11-
サマーキャンプは開始して1日目に突然の中止命令
新型コロナウィルスの感染拡大は高校スポーツにも大きな影響を与えました。2020年の春シーズンは中途で休止され、そのまま全面中止を余儀なくされました。その後もカリフォルニア州内の感染拡大はやむことはなく、私たちが住むオレンジ郡(人口約300万人)だけでも日本全体を上回る感染者数が連日報道されています。
関連記事:春のシーズンが全面中止に決定。明暗を分けたシーズン制スポーツ-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その4
そうしたなかでも、高校スポーツをなんとか再開させようとする関係者の努力は続けられてきました。7月には、夏休み期間中に各スポーツ部が練習を行う「サマーキャンプ」を、例年より3週間ほど遅れて開始するところまでこぎつけました。
サマーキャンプでは、ほとんどのスポーツ部が本シーズンとは別形態で練習を行います。本シーズンとは違い、参加するにあたってトライアウトはありません。
希望者は、どのスポーツでも体験できますし、時間と体力さえ許せば複数のスポーツに参加することもできます。昨年のことですが、朝7時からクロスカントリー走部の練習に参加して、そこから9時からの野球部へと移動する生徒が何人かいました。夏休みは約3か月と長いので、数週間ごとに他のスポーツへ移籍する生徒もいます。
野球のサマーキャンプは実質上、新入生のトライアウトの意味合いも持つ
スポーツやチームによって温度差はありますが、基本的にサマーキャンプでは試合やチーム内競争のプレッシャーが少なく、のびのびとスポーツを楽しむことができます。毎日が練習漬けというわけではなく、ビーチやプールなどで、夏ならではのアクティビティを行うときもあります。スポーツ好きの高校生にとっては、夏休みはとても貴重な数か月なのですが、残念ながら今年は例年通りのようにはいきませんでした。
泊りがけの合宿もサマーキャンプの時期に行われることが多い
練習開始前には参加者全員の体温を測り、ウォーミングアップはマスク着用、練習中はソーシャル・ティスタンスを守り、練習終了後の談笑も禁止し、全員がすみやかに帰宅。私の息子が通う高校のクロスカントリー走部が本年度サマーキャンプに向けて作成した特別ルールです。細部に違いがあっても、コロナ禍の中で練習を行うために、どの学校でもそれぞれの努力が払われました。
サマーキャンプ開始のゴーサインが出ていた7月6日(月)には、各地の高校では数か月ぶりに大勢の高校生たちが学校に集まり、満を持して数か月ぶりとなる練習を開始しました。ところが、その日の午後にオレンジ郡教育委員会からすべてのスポーツ活動を即刻中止する通達が出されたのです。以来、再開の許可は出る気配すらありません。どうやら、このまま2020年のサマーキャンプはわずか1日で終了ということになりそうです。
可能な限りの安全対策を講じて開始したサマーキャンプであったが、1日で中止になった。
2020-21年も前例のないシーズンに。
カリフォルニア州では8月下旬には新学期が始まります。とは言っても、現時点では、対面での授業をせずにすべてオンラインで行うか、あるいは選択制になる可能性が大きいようです。
スポーツ部活動がどうなるかも不透明なままなのですが、7月20日にカリフォルニア州の高校スポーツを統括する組織(CIF – California Interscholastic Federation)から、来シーズンについて重大な発表がありました。
>>CIFの公式発表:https://cifss.org/news/july-20-2020-update-and-2020-21-sports-calendars/
発表は8ページにも渡りますが、要点は2つ。1つは例年なら秋、冬、春の3シーズン制のところを、秋と春の2シーズンに統合すること。もう1つは秋のシーズンを3か月ほど後ろにずらすことです。
本シリーズその4でも触れましたが、例年ならカリフォルニアの高校スポーツは、以下のようにシーズン別に分かれます。
*例年のスポーツシーズン
■秋(8月~11月)
フットボール、クロスカントリー、女子バレーボール、女子テニス、男子水球など
■冬(11月~2月)
バスケットボール、サッカー、レスリング、女子水球など
■春(2月~5月)
野球、陸上競技、水泳、男子バレーボール、男子テニス、ラクロス、ゴルフなど
2020-21年は、例年なら冬シーズンのスポーツが、秋か春のシーズンに振り分けられます。名称は秋シーズンであっても、時期的には例年の冬と同時期に行われます。
*2020-21のスポーツシーズン
■秋(12月~3月)
フットボール、クロスカントリー、男子バレーボール、女子バレーボール、男子水球、女子水球など
■春(3月~6月)
バスケットボール、野球、陸上競技、水泳、男子テニス、女子テニス、ラクロス、ゴルフ、サッカー、レスリング、など
*太字が変更箇所
それでもポジティブな高校生アスリートたち
昨年度のクロスカントリー走部練習初日に集まった生徒たち。今年もこの笑顔が見られますように。
この変更によって被る影響の大きさは人によって様々です。秋のスポーツは時期がずれるだけですので、さほど問題はありません。最も困難な選択を迫られるのは複数スポーツに所属するアスリートです。
例えば、昨年まで冬にレスリング、春に野球をやっていた生徒がいたとしたら、今シーズンはどちらかを選ばなくてはいけません。バレーボール、水球、テニスなど、例年なら男女でシーズンが異なっていたスポーツの多くは同じシーズンに行われることになります。そうしたスポーツの指導者は練習設備や試合スケジュールの調整に苦労するでしょう。
それでも、多くのアスリートと指導者たちは、来シーズンの予定と計画がともかくにも発表されたことに対して、歓迎する気持ちを抱いています。
状況は未だに流動的ですし、仮に上手くいったとしても、何もかも元通りになるとは言い難いわけですが、これで少なくとも各々が目標を立てることができるからです。高校スポーツ再開へと動き始めたこの流れが途切れぬよう、自分たちではコントロールできない社会を取り巻く状況がこれ以上悪化しないことを祈ってやみません。