何もかも特別扱い。米国のアメフトは日本の高校野球か?-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その11

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何もかも特別扱い。米国のアメフトは日本の高校野球か?-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その11

スポーティ

日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動はスポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。

私は2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。

前回記事>>日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART10-

金曜の夜は高校アメフトで盛り上がる伝統

『プライド 栄光への絆』(原題: Friday Night Lights)という映画をご存知でしょうか? テキサス州の小さな町にある高校のフットボール・チームが州チャンピオンにまで勝ち上がった実話を基にした映画で、後にテレビシリーズにもなりました。

邦題だけを見て、これがアメフトの映画だと分かる人はまずいないでしょう。しかし、米国では原題の” Friday Night Lights” を一目見るだけで、これはアメフト、それも高校アメフトの話なのだなとピンと来る人は多いはずです。

アメフトは米国でもっとも人気が高いスポーツですが、競技の特性上、試合数はあまり多くありません。高校からプロに到るまで、レギュラーシーズンは9月からの数か月で、試合は週に1回だけというのが普通です。

そして、高校は金曜、大学は土曜、プロは日曜に試合をします。金曜の夜は高校のスタジアムに集まり、アメフトを観戦するということが地域コミュニティ全体の重要なイベントになっているのです。

米国では9月から10月にかけて、学年が始まってすぐに行われる「Homecoming」と呼ばれる週に在校生、卒業生、その家族らが高校に集まる伝統がありますが、そのメインイベントもアメフトの試合です。わざと弱いチームをビジターに呼び、ホームチームが大勝して大いに盛り上がることがよく行われています。ビジターチームは自分たちがホームの週に、自分たちよりさらに弱いチームを招待するのです。

桁違いの人気を誇る学校のシンボル的存在

昔も今も変わらない高校の花形と言えば、男子ならアメフト、女子ならチアリーダー,
文科系ならブラスバンドでしょう。卒業アルバムや学校のホームページなどでも、この3つがもっとも目立ちます。

そもそも、そのチアリーダーやブラスバンドが応援してくれるスポーツはアメフトかバスケットボールぐらいです。私が関わってきた野球、テニス、クロスカントリー走、レスリング、そのどの試合でもチアリーダーの姿なんて見たことがありません。

当然、そこにはマイナースポーツ関係者からのヒガミが発生します。アメフト部員ばかりチヤホヤされやがって、と思うのは、実は生徒たちだけではありません。

私たち部活指導者が薄給であることは以前の記事で紹介しましたが、アメフトだけは例外です。人から聞いた話なので真偽のほどはわかりませんが、ある学区の教育関係者で一番の高給取りは教育委員長でも校長でもなく、アメフトのヘッドコーチなのだそうです。

■関連記事>>「部活指導者はブラック労働か?-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その8」

2018-19年全米大学アメフト1位に輝いたクレムゾン大ヘッドコーチのダボ・スウィンニー氏が史上最高額となる総額93百万ドル(約103億円)の10年契約を結んだなんてニュースもありました。年俸が数億円以上の大学ヘッドコーチは他にも大勢います。高校の話ではありませんが、アメフトというスポーツがもはやアマチュアの域に収まるものではないことがわかるでしょう。

アメフトがもたらした米国アマチュアスポーツの進歩

桁違いの人気を誇り、巨額のおカネが動くことで、それに伴う様々な弊害も指摘されますが、アメフトが米国のスポーツを進歩させる牽引役を果たしてきたことは間違いありません。

■男女平等

アメフトが果たした功績の1つが皮肉にもスポーツ現場における男女平等です。アメフト自体は男子のスポーツです。高校といえどもチケット販売やスポンサー料などで、大きな資金を稼ぎます。そしてその資金は女子のスポーツにも平等に配分されることになるのです。

その背景には1972年に成立した「Title IX」という連邦法があります。米国内の教育機関であらゆる面での男女差別を禁止したこの法律はスポーツの分野にも広く適用されています。つまり、同じ高校に通う高校生なら、男子も女子もスポーツに参加する機会と予算は平等でなくてはいけないのです。その結果、アメフト以外のスポーツ環境が年々向上していき、女子がスポーツに参加する機会も格段に増えました。

■安全対策

アメフトはまたスポーツ界全体の安全面にも大きな貢献をしています。2015年にはそのままズバリのタイトルの映画「Concussion」(脳震盪)が公開されたように、激しいタックルを伴うアメフトでは脳震盪の危険性がかねてから問題になっていました。そこで得られた貴重な教訓を基に、今では様々な安全対策がスポーツ界全体で講じられています。

例えば、脳震盪が疑われる選手は医療機関での診断を義務付けられ、定められた期間は一切の運動を禁止されます。そうしたルールはすべてのスポーツに適用されています。私たち部活指導者は脳震盪の対処に関する講習を毎年受けて、試験に合格するまで指導ができません。それが例え、選手間の接触がほとんどない長距離走のようなスポーツであっても同じです。

■トレーニング方法の進歩

私の専門であるストレングス&コンディショニングスの分野もアメフトとは切っても切れない関係にあります。アメフトにはポジションが多く、またそれぞれに求められる能力が異なるため、トレーニング方法についての研究が細分化され、また大きく進歩しました。

スピード、パワー、アジリティ、スタミナ、コントロール、様々な運動能力を向上させるために蓄積されたアメフト界のKnow-Howは他のスポーツ選手にも応用されているのです。

米国の高校アメフトは日本の高校野球か

日本の高校野球も部活動スポーツに収まらない影響を各方面に与えています。甲子園大会を開くことに大きな経済効果があることは私にも容易に想像できるのですが、それがスポーツ界全体にどのようなメリットがあるのかという視点もこれからは必要ではないでしょうか。


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